ヒメボタルの人工飼育事例
  第41回全国ホタル研究大会長崎大会ヒメボタル分科会資料
愛知ホタルの会
  三矢 和夫(愛知県岡崎市)
1.成虫の採集と人工採卵
 1)成虫の採集
  成虫の採集時には草むらに入ったりするので毒蛇や毒虫予防に必ずゴム長靴を履き、植物のトゲやかぶれを防止のために長袖シャツを着用して出かける。
  成虫の採集は、手で捕獲できるが、採集した成虫を持ち帰る容器としてあらかじめ写真のフィルムケースのキャップに2mmほどの小孔をいくつかあげたものを2個以上用意する。1個の容器に雌雄を一緒に入れると持ち帰る間に交尾することもあるので、別の容器にいれて持ち帰る。
   成虫の採集時期は、成虫の発生開始(初見日)から10日間程が最も適している。発生の最盛期が近づくと雄の飛翔が多くなり、雄の発光が邪魔になり雌を見つけにくくなる。
   雌雄の区別は慣れれば発光のし方の違いで区別できる。雄は飛翔しながら規則的に発光するが、雌は後翅が退化していて飛翔できないため、地表や草にとまってやや長い発光間隔で発光し、まばたくように2回発光するか、1回の発光時間がやや長い。区別ができなければ手に取って発光器を確認すれば確実である。
   採集する雌雄の割合は雌1対雄2くらいが適当で、必要なだけの採集数にとどめる。
 2)成虫の飼育と人工採卵
   持ち帰った成虫は雌雄別々の容器で飼育するが,飼育容器としては適当な大きさの蓋付きプラスチック容器の蓋に2mm程の小孔を多数あけ、その中に水で湿らせたミズゴケやクッキングペーパーを入れれば数日間は飼育できる。
   人為的に交尾・採卵するには雌雄の成虫を一緒の容器に入れ、暗い場所に置くと10分もすれば交尾を開始する。交尾して2日すれば、直径0.7mmで淡黄色・球形の卵を雌1個体で平均約70個産む。
   産卵数・孵化率等の調査のためには次のように雌雄1ペアずつ産卵容器に移して次のようにして採卵する。
   産卵容器としてフィルムケースを使用するが、キャップには小孔をあげず,その中に水を含むと黒色になる土を5mm程の深さに入れ、湿る程度の水分を含ませてから、交尾中の雌雄1ペアずつ入れ、毎日産卵の有無を確認する。
   ヒメボタルの産卵は、ゲンジボタル等と違い、一度に全部の卵を一か所にかためて産卵する。産卵を終えた成虫は2〜3日すると死亡する。腐敗する前に取り出してアルコール標本にして保管するとよい。
   だけを集めるには、土と一緒に黒い紙の上にあけると卵が白色で見やすく、卵だけを孵化容器に移す。卵を移すのにピンセットでつまむと卵を傷つけるので細筆の先につけて移すとよい。
   また、卵を要領よく早く選び出すのには、網目の細かい茶こし網に、卵と土を一緒にいれてふるい分けすれば、簡単に卵だけを集めることができる。
   孵化容器は、小さな蓋付きプラスチック容器を用いる。その容器の中にクッキングペーパーを敷きスポイドで水を滴下して湿らせる。卵の孵化は、室温にもよるが、20℃であれば平均20日で孵化が始まり、約10日間続く

2. 餌の増殖と幼虫飼育
 1) 幼虫の餌(ナミコギセル)の室内人工増殖
   幼虫は陸生巻き貝のキセルガイ等を食べて成長する。キセルガイの仲間は種類が多いが、人工飼育しやすくかつ比較的入手しやすいのはナミコギセルである。この巻き貝は、家庭の庭先に置かれた植木鉢の下や朽ち木の下等でよく見かける貝である。
   ナミゴギセルを人工増殖させるには,飼育容器として衣類を収納する蓋付きプラスチックボックスを使用し、図のように落ち葉を入れ、水に溶いた粉ミルク(餌)をスプレーで毎日噴霧することで稚貝を得ることができる。
  容器の中に入れる落ち葉は広葉樹の葉がよく、特に熱湯消毒したモミジの枯れ葉をナミコギセルは好む。
  餌として故 鈴木重雄氏の開発された配合飼料や輪切りにしたキュウリや野菜屑を時々与えると稚貝の産出が多くなる。ナミコギセルは4月中旬〜9月下旬まで稚貝を産むが,成貝になり稚貝を産むようになるのに1か月以上かかる。幼虫の餌には多数の稚貝が必要になるので、卵の孵化開始前までに稚貝を産ませておくように準備しておく。産出直後の稚貝は殻長が約1mmで、殻も薄く弱いので、ピンセットではつまめないので、筆を使って稚貝を取り扱うとよい。


 2)屋外でのナミコギセルの増殖
   一日中直射月光が当たる場所は避け、半日陰の庭の片隅か竹薮や林の隅に丸太かコンクリートブロックで適当な広さの囲みを作 り、その中に20cm程の厚さに腐葉土を入れ、その上に堆肥を作るときの要領で広葉樹の落ち葉を積み重ね、十分に散水してナミコギセルの成虫を入れる。餌として、野菜屑やキュウリの輪切り等を与え、水に溶いた粉ミルクを時々落ち葉や野菜屑などの上からかけてやる。なお、乾燥を防ぐために上から段ボールの切れ端で覆っておく。なお、乾燥すると稚貝を産まないので、毎日散水して乾燥させないように配慮する。
 3)幼虫の屋内飼育
   幼虫の発生調査・研究には幼虫の室内飼育が必要になる。成虫になるまでの長期間一定の湿度に保ち、幼虫の食べる餌を安定して供給できることが大切である。
   湿度を保つには幼虫の飼育容器を図のように上下2段にし、上段を飼育槽に下段を水槽にして,上下をナイロンのロープでつなぎ、水を毛細管現象によって吸い上げるようにする。吸い上げる水量はロープの太さによって調節し、飼育槽には土を入れるが上面は傾斜をつけて一番高い面が乾燥に近い湿度になるようにロープで調節をする。また、土の表面にツバキ等の硬い葉か薄い板切れの小片を置いて幼虫の隠れ場を作ってやる。餌の巻き貝は、幼虫とは別容器で飼育して幼虫に与えるようにし、幼虫が食べた貝の殻は,幼虫
が殻に潜っていることがあるので捨てないように注意する。



 4)幼虫の屋外飼育
   幼虫の屋外飼育は、餌の貝を飼育している場所に幼虫を入れて銅育するが、幼虫の発生の様子は観察困難である。管理としてはやはり飼育場所が乾燥しないこと、餌の貝が十分繁殖するように環境を管理することが必要である。
   幼虫の屋外飼育の開始時期としては、以下のような段階が考えられる。
  @交尾した成虫、A卵、B孵化幼虫、Cある程度成長した幼虫、D終令幼虫

  近年、ヒメボタルの分布も次第に明らかになってきたが、その生息地が道路建設や宅地造成、街路灯の増設等により次第に狭められ、保護する必要が生じてきた。絶滅してしまわない前に保護し、ヒメボタルの生息場所を確保し、いつまでもヒメボタルの光が消えないことを期待したい。


愛知ホタルの会表紙
戻る
戻る