BATTLE ROYALE 2
〜
The Final Game 〜
[ Grand Finale ] Now all students remaining but...
< 59 > グランド・フィナーレ
・・・・・・チャイムが聞こえた。
懐かしい、あの学校のチャイムだった。
それは、いつも変わらずに鳴り続けていた、時を告げる鐘の音だった。
桜の花びらとともに暖かい陽射しが舞い降りる春の日でも。
気持ちよく晴れ渡った空に太陽がじりじりと照り付ける夏の日でも。
色づいた草木が山を染め上げ葉を落としてゆく秋の日でも。
すべての世界を銀色に変えてしまう白い雪がしんしんと降る冬の日でも。
その鐘の音は、聞こえていた。
終業のチャイムの音色。
どんなに面白い授業のときも。
どんなに退屈な授業のときも。
最後は必ず、この音色が聞こえていた。
どんなに楽しいと感じた時間も。
どんなに悲しいと感じた時間も。
始まりがあるものには、終わりがある。
そんなあたりまえのことを、あたりまえだと気づかせてくれる音だった。
決して美しい音色であるとは言えないかもしれないけれど。
決して力強い響きであるとは言えないかもしれないけれど。
それでも、どんな美しい言葉にも負けないくらい、どんな力強い音楽にも負けないくらい。
その鐘の音は、聞いた人の心を揺さぶり、身体全体に響き渡っていく。
さわやかに晴れ渡った蒼い空の下。
大気をわずかに振動させて。
鐘の音が聞こえた。
終業のチャイムが・・・・・・。
§
遠くで鐘が聞こえた。
聞き覚えのある音だった。
それは、とても懐かしい感じがした。
なんだろう、この感覚・・・・・・。
典子は思った。
悪い気分にはならなかった――いやどちらかと言うと、心地良いと言うべきなのかもしれない。
まだ、鐘が鳴り続けていた。
心地よい微風が、典子の頬を撫でていった。
うとうととまどろみの世界にいた典子は、それで、ゆっくりと目を開いた。
ちょうど、そのときだった。
「起立ーっ!」
どこかで聞いたことのある、爽やかな声が典子の耳に届いた。
それに続いて、ガタガタと机や椅子を鳴らす音。
典子は眠気をこらえ、慌てて椅子を引いて立ち上がった。
「礼!」
正面に向かってちらっと頭を下げる。
見ると、なんだかミミズがのたくったような文字の書かれた黒板を残して、初老の男性教師が教室を出て行くところだった。
白髪混じりの頭髪がドアの向こうに消えたのを確認すると、その場がどっと騒がしくなった。
典子は、まだいまいちハッキリしない頭で、思った、ぼんやりと。
なんだろう、この懐かしい感じは・・・・・・。
いままでずっと忘れていたなにか――そう、とても大切な“なにか”――が、急に目の前に現れた感じだった。
寝起きだからだろうか、なぜか視界が全体的にぼんやりとした感じだった。
その場でしばらく突っ立っていた典子の肩を、誰かがいきなりぽんと叩いた。
驚いて振り返った典子の前に、きちんとセーラー服を着こなした三つ編みの女生徒が立っていた。
「あ――」
典子は少し鼓動が早くなっている胸に手を当て、ほっと息をついた。
その女生徒が、典子のよく知っている人物だったので。
目の前にいる女生徒――内海幸枝(女子二番)が、すらっとした腰に両手を当てて立っていた。
おなじみのスタイル、おなじみの髪型、それなのに典子はなぜだか、とても懐かしい気持ちになった。
まるで随分と久しぶりに会った友人のような、そんな感じだった、よくわからないけれど。
幸枝が言った。
「珍しいじゃない、典子が授業中に居眠りするなんて?」
幸枝の言葉に、典子は少し首を傾げた。
訊いた。
「あたし? 寝てた?」
「そりゃもうおもいっきりね。ね、さくら?」
そう言って、幸枝はたまたま自分の後ろにいた小川さくら(女子四番)に話を振った。
「えっ? あ――うん、そうね」
突然に話を振られてさくらは少し驚いたようだったが、ちらっと曖昧に微笑んで頷いた。
「具合でも悪かったの?」
「あ、ううん、そうじゃなくて・・・・・・」
さくらの少し心配そうな口調に、典子は小さく苦笑して頭を振った。
続けた。
「なんていうか、すごくヘンな夢を見たような――気がして」
「ユメ?」
「うん――」
典子は頷いてそう語尾を引っ張った。
内容はまったくと言っていいほど覚えていなかった。
しかし、なんとなく、心のどこか、わずかにささくれ立った部分にひっかかるような、奇妙な感覚が残っていた。
まあ、もっとも夢なんてどれもそういうものなのかもしれないけれど。
典子は小さく首を振って、その考えを振り払った。
言った。
「でも、どうせ夢だしね」
「そうそう、深く考えないに越したことはないわよ」
典子の言葉に幸枝が腕を組んでうんうんと頷いた。
それがなんだか面白かったので、典子とさくらは思わず顔を見合わせて、くすっと笑んだ。
ちょうどそのとき、ぱんぱんに膨れ上がったショルダーバッグを担いだ山本和彦(男子二十一番)が、律動的な足取りで近づいてきた。
何が入っているんだろう、典子は意味もなくそう思った。
和彦はちらと典子と幸枝に視線を移した。
言った、さくらに向かって。
「さくら、今日は一緒に帰らないか?」
さくらは、ぱっと嬉しそうに笑んだ。
本当に嬉しそうだった――そう、まるで、その言葉を何年も何年も待ち焦がれていたかのように。
「うん!」
さくらが答えた、とびきりの笑顔だった。
そんな様子を見ていた幸枝が、くすくすと笑いながら和彦に言った。
「山本くん、“今日は”じゃなくて“今日も”でしょ? あたしたちに気を使ってくれなくてもいいわよ」
「ま、まあそうとも言う――かな、うん」
すこしどもりながら、和彦は照れたように鼻の頭をかいた。
端整な顔立ちをしている和彦には、少しそぐわない仕草だった。
「じゃあ、俺、昇降口にいるから」
それだけ言い残すと、和彦はまるでその場から逃げ出すように、早足で教室のドアの方に歩いて行った。
和彦がドアを開けると、その向こうはまるで朝日のような眩しい輝きに満ちていた。
一瞬、まだざわついた教室内をその輝きが照らし出した。
典子は思わず目を瞑り――ばたん、とスライドドアの閉まる音が、放課後のざわついた教室に奇妙に響いた感じがした。
目蓋を開けると、そこには何事もなかったかのように、穏やかな時間が流れていた。
「それじゃあ、あたし、もう帰るね。ばいばい」
いそいそと荷作りを終えたさくらが、典子と幸枝に向かって手をひらひらさせた。
「はいはい、お幸せにねー」
「うん、またね」
幸枝と典子はそう言って、急いで和彦の後を追って教室を出て行くさくらの背中に手を振った。
ドアの向こう、純白の日溜りのような光の中に、やはりさくらの背中が消えていった。
ドアが閉まりさくらの姿が見えなくなると、幸枝はやれやれと言いたそうなため息をひとつ、ついた。
「愛されちゃってるぅって感じよね。羨ましいなぁ」
その言葉が本当に羨ましそうに聞こえたので、典子は小さく笑んで、言った。
「そうね。羨ましいね――」
「何いってんの。あんただってそうでしょ?」
典子の背中を肘で突きながら、幸枝がそう言った。
「え?」
どういう意味か典子が聞き返そうとした、ちょうどそのとき。
「おい滝口、まだかよ? 俺、もう帰るぜ?」
「あっ。待って待って。おれも帰るよ」
そんな声が聞こえ、典子はその声のした方を振り返った。
ドラムバッグを肩に担いだ旗上忠勝(男子十八番)のあとを、滝口優一郎(男子十三番)が慌てて追いかけているところだった。
野球のユニフォームでも入っているのか、まるではちきれてしまいそうなバッグを背負った忠勝の背中が、大股でドアに向かって行った。
途中、忠勝のその大きなドラムバッグが女生徒の机にガンとぶつかり、机の上に頬杖をついていたその女生徒はあからさまに顔をしかめた。
相馬光子(女子十一番)だった。
「あっ――悪りィ」
「だめだよ旗上」
おざなりな謝罪で済ませて行こうとした忠勝を、優一郎が捕まえた。
「そんなんじゃだめだよ、ちゃんと相馬さんに謝らなきゃ」
「あ? あ、ああ・・・・・・悪かったな、相馬」
「別に、いいけど・・・・・・」
相馬光子がまた、いつものつまらなそうな表情に戻って、言った。
「――って、おい滝口、時間ないぞ。急げ」
「あ、うん」
慌てて腕時計に目をやった忠勝の言葉に、優一郎もちょっと驚いたように頷いた。
忠勝はかまわずに教室のドアを勢いよく開け、その光の中に姿を消した。
優一郎は、上履きをサンダルのように突っかけたまま教室を出て行った忠勝のあとを追おうとし――振り返った。
言った。
「じゃあ、さよなら、相馬さん」
光子はちらりと優一郎の方に視線を投げかけ、――そして、それから、小さく笑んだ。
本物の天使のような、優しそうな笑みだった、それは。
優一郎は顔を真っ赤にして、思い出したように忠勝を追って教室を出て行った。
「待ってよ旗上! 早過ぎるよ!」
優一郎の声が、閉まったドアの向こうから聞こえてきた。
光子はしばらく、頬杖をつきながらその残響に耳を傾けているようだった。
その表情は、典子がいままで見たことのないほど、穏やかなものだった。
「変わったよね、相馬さん」
典子の背中から、幸枝の静かな声が聞こえた。
そうなのだろうか。
典子は思った。
そうかもしれない、そうでないかもしれない、わからない、そんなことは。
それは本人だけが――いやことによると本人すらも、わからないことなのかもしれないけれど。
けれど、それでも。
「・・・・・・そう、かもしれないね」
典子は曖昧に、そう答えた。
一人、また一人。
クラスメイトが徐々に教室を出て行った。
北野雪子(女子六番)と日下友美子(女子七番)が、くすくすと笑いながらこの教室をあとにして行った。
矢作好美(女子二十一番)と倉元洋二(男子八番)が、お互いに何気ないふうを装って、しかしそれでもしっかりとお互いに意識を向けながら、間を置かずに出て行った。
教室内に残っている生徒は、まばらだった。
今日の日直に当たっているのか、琴弾加代子(女子八番)が、黒板消しで先程の初老の教師が書き残した文字の跡をきれいに消しているところだった。
加代子は女子の中でも比較的小柄な体格で、黒板の上の部分を消すのにてこずっていた。
懸命に跳ねたりして消そうとしているが、なかなかうまくいかないようだった。
それを見ていた杉村弘樹(男子十一番)が少し苦笑しながら、加代子に近づいていった。
「手伝ってやるよ」
「えっ?」
弘樹はぶっきらぼうに言った――それでも見る目がある人ならば、その言葉に多少なりとも親切心とは異なる感情が含まれていることに気がついたかもしれないけれど。
驚いて目を見開いている加代子に、弘樹がもう一度、繰り返した。
「だから手伝ってやるって。いいから、貸してみろ」
「あ――うん」
加代子がおずおずと弘樹に黒板消しを渡し、――弘樹はそれを受け取ると、何事もなかったような表情で加代子が消せなかった部分をさっと消した。
「あ、ありがとう、弘樹くん」
「・・・・・・」
加代子の言葉に弘樹はしばらく硬直していたが、はっと気づいたような表情になった。
言った、かなり慌てたように、早口で。
「い、いや、またなんか困ったこととかあったら、言ってくれよな、加代子」
「ふふっ・・・・・・。うん、そうする」
加代子が微笑んで、それにつられるようにして弘樹もぎこちない笑みをこぼした。
その光景を少し離れたところから、千草貴子(女子十三番)が眺めていた。
口元にわずかに笑みをたたえていた、あ〜あ、まったくやんなっちゃうわよね、弘樹ったら全然進歩してないじゃん、露骨にバレバレだっつうの、――そう言いたそうな笑みだった。
典子はぼんやりと貴子を見ながら、そう言えば、とふと思った。
いつから彼らは、お互いをファーストネームで呼び合うようになったのだろう?
思い出そうとしてみたが、そもそも加代子と弘樹が会話をしている場面ですら、思い出すことはできなかった。
典子が貴子から視線を外すと、そこには背の高い、左耳に美しい細工のピアスリングをした男子生徒が立っていた。
「豊、帰りに俺の家に寄ってかないか? ちょっと面白いもん、手に入れたんだ」
三村信史(男子十九番)が、瀬戸豊(男子十二番)の肩に腕を回して、そう言った。
豊はちらっと苦笑した、言った。
「今日はデートの約束してたんじゃなかったの? ほら、あの――高校生の、なんとかってひと」
「あ? ああ、あれ――、いや明日だったと思ったけどな、確か。まあ、例え今日だったとしても俺はおまえをとるぜ、豊。デートなんていつでもできるからな」
信史がとぼけた声で、とぼけたことを言った。
それで、豊がまた笑い、頷いた。
「なら、いいけどね。おれ、その人に恨まれたくないし、――シンジの彼女にも、なりたくないしね」
「ははっ、バッカ言ってんじゃねーって。ほら、行こうぜ」
信史が豊の首に腕を回したまま、引っ張った。
豊は、わかったよシンジ、と言ったあと、ふと思いついたような表情をした。
「あ、そういえば、・・・・・・は? ・・・・・・も一緒に誘わないの?」
典子には、豊の口から誰かの名前が発せられたような気がしたのだけれど、その部分だけ何故だか耳鳴りのようなキーンという音が響いて、聞き取れなかった。
豊の言葉に、信史の表情がわずかに変わった。
すっと静かな表情になり――言った。
「・・・・・・か? あいつは、今日は予定が入ってるみたいだからな。とても重要で、あいつにしかできない予定だ。・・・・・・らしいといえば、らしいがな」
それで、豊はすべてを了解したようだった。
「――そっか。じゃあ仕方ないね、帰ろうよシンジ」
「ああ」
そんな光景を見ているうちに、典子の胸にふと、何かがひっかかった。
彼はどこにいるのだろう・・・・・・?
そう考え、しかしその『彼』が誰であるのか、なんでそんなことを思ったのか、典子にはわからなかった。
大切な人物のはずだった、その『彼』は。
自分にとってかけがえのない存在だったはずだった。
けれど――『彼』とは一体、誰のことだっただろうか?
断片的な映像が、典子の脳裏に次々と浮かび上がってきた。
目が覚めたら見知らぬ教室にいて、不安で押し潰されそうだった自分の心を落ち着かせてくれた、『彼』。
何度も、何度もその身を危険に晒しながらも、必死に自分を守ってくれた、『彼』。
見知らぬ場所でのつらい生活にくじけそうになった自分を、そのたびに何度も頑張れと励ましてくれた、『彼』。
古くて小さいアパートのキッチンで、それでも自分の作った手料理をせいいっぱい誉めながら食べてくれた、『彼』。
それら場面が典子の頭の中を駆け巡り――、教室の床がぐにゃり、と歪んだ気がした。
「・・・・・・典子? なにやってんの?」
横合いから幸枝に声をかけられ、典子ははっと我に返った。
心臓がドキドキと鼓動を繰り返していた。
うっすらと滲んだ額の汗を、典子はそっと拭った。
何だったの、いまのは――?
わずかに荒くなった呼吸を整えながら、典子は考えた。
空想とか、妄想とか、そう言ったものではないことは明らかだった。
かと言って映画やテレビドラマで見たシーンなどとは違うこともわかっていた。
臨場感とか、迫力とか、雰囲気とか、そんなものは全然関係なかった、その映像には。
ただ、『感じた』。
『彼』の息づかいや、瞳の輝き、言葉の力強さ、そして何より――無条件で心が温かくなるその存在感。
先程の断片的な映像からですら、それは十分感じ取ることができた。
「典子? やっぱあんた具合でも悪いんじゃないの?」
心配そうに典子の顔を覗き込みながらそう言った幸枝の声が、妙に遠く感じた。
「ううん、だいじょうぶ。そうじゃない――の」
そう言った途端、典子は恐ろしいほどの吐き気に見舞われた。
違う――
典子は思った、いや――『感じた』。
なにかが違う。
なにかが間違っている、この世界は。
でも、じゃあ何が・・・・・・?
わからなかった、それは。
ただ、なんだかわからない違和感がじっとりと典子の周りにまとわりついているようだった。
「典子サン? どしたんだい、顔色が悪いけど」
肩越しにかけられた声に、典子ははっとした。
またしても典子のよく知っている声だったので。
典子が振り返った先には、――ぎょろりとした愛嬌のある瞳があった。
国信慶時(男子七番)だった。
「ノブさん・・・・・・」
典子は彼の名を呼び、――そして思った、なんて懐かしい響きなんだろう。
クラスメイトの名前なのに、随分と長い間、その名を呼んでいなかったような、そんな錯覚にとらわれた。
――錯覚? ほんとうに?
典子の心の中、誰かがそう囁いた気がした。
「気分が悪いんなら、保健室、行った方がいいよ。俺、ついてったげるからさ」
慶時が言った、優しい声だった。
「そうね・・・・・・。典子、そうすれば? あんた今日ちょっとヘンだったし」
幸枝が、典子と慶時とを交互に見ながら、そう言った。
「さあ」
慶時が促すように典子の肩に軽く手を置いた。
刹那――。
典子の背中にぞくっと悪寒が走った、いや悪寒ではない、とにかくなにか――とても嫌な予感だった。
また、思った、――違う。
彼は――ノブさんは、国信慶時は、そう、間違いなく、死んでいるはずだった。
典子の立っていたリノリウム・タイルの床が再び、ぐにゃりと歪んだ感じがした。
地震とかそういったものではない、明らかに『この世界そのもの』が歪んでいた。
そして典子は、思い出した。
慶時が自分の目の前で、その頭を拳銃で撃ち抜かれたその瞬間を、典子は確かに自分の瞳で見ていたのだ!
おもちゃのような拳銃から、風船が割れたような音がした次の瞬間、彼は――。
「やめてッ!」
咄嗟にそう叫び、典子は慶時の手を振り払っていた。
「あ・・・・・・」
慶時は、少し傷つけられたような、悲しげな表情を一瞬、見せた。
しかしすぐにちらっと笑んで、言った。
「あ、ああ、ごめん。おれ、はは――馴れ馴れしすぎたかな。ホントに、ごめんよ」
「違う、そうじゃない! だってノブさん、あなたあのとき――、どうして? なんであなたがここにいるの!?」
典子は叫んだ、そうでもしないとおかしくなってしまいそうだった。
ある映像が典子の脳裏に、この世界とは比べ物にならないくらいの圧倒的な質量を持ってよみがえってきた。
『ぶっ殺してやる!』
それは慶時の――いまの優しそうな表情の彼とはとても思えないくらいに取り乱した、言葉だった。
典子には見たこともない慶時の表情はしかし、激しい怒りをみなぎらせていた。
そして彼がその後どうなったか、典子にはわかっていた。
見覚えのある教室、懐かしいこの雰囲気、そして――いるはずのないクラスメイト。
とても心地よいこの世界はしかし――典子の知っている世界ではなかった。
少なくとも典子はこの世界にいるべき人間ではないはずだった。
『殺してやるぞ、ちくしょう! 殺して肥溜めにぶち込んでやる!』
そうだ――。
確かに慶時は、彼は、坂持という担当官の隣にいた兵士に撃ち殺された、しかも自分の目の前で。
忘れるはずがない、忘れられるはずがなかった、あのときの彼の血の温かさと、そして涙に濡れた悔しそうな瞳は。
それなのに、その彼は――いいや彼だけじゃない、あのとき死んでしまったクラスメイトたちが、目の前にいた。
まるで何事もなかったかのように、まるであれは夢であったかのように。
ひょっとして――そうなのだろうか?
実はあれは自分が見たたちの悪い夢で、こっちが現実世界なのだろうか、それとも――?
「典子サン? こんなとこで、なにしてるんだい?」
そんな声が典子の耳に届いた。
聞き覚えのある、それは声だった。
いやそれだけではない、その声は典子の記憶の一番底、宝箱の中に大切に大切にしまってある人物のものに、間違いなかった。
典子はがくがくと震えそうにのをこらえて、ゆっくりと振り返った。
果たして彼は――七原秋也(男子十五番)は、教室の校庭に面した窓を背にして、そこにいた。
いつのまに日が傾いたのか、秋也の背後には赤く燃える西日が窓からまっすぐ射し込んでいていた。
遠くに見慣れた風景――典子が14年間暮らした町並み――が、赤と黒のコントラストに染まっていた。
逆光になった秋也の表情は、典子からは窺い知ることはできなかったのだけれど、典子には秋也が優しそうに微笑んでいるような気がした。
「秋也くん・・・・・・?」
典子は秋也の名を呼んだ。
この言葉もまた、典子の心の宝箱に大切に保管してあるものだった。
しかし、秋也の名を呼んだ次の瞬間、またあの眩暈に似た、目の前がぐらりと歪む感覚を覚えた。
それでも典子は小さく頭を振って、その感覚を拭い去ろうとした。
秋也がここにいる――典子の一番大切にしたかったものが、すぐ目の前に。
ぽろり、と典子の大きな瞳から涙がこぼれた。
なぜ――あたしは泣いているんだろう?
典子は思った。
なにも悲しくなんかないはずなのに。
自分の好きな人が、とても、好きな人が目の前にいるというのに。
なんで泣いているんだろう、――なにを悲しんでいるんだろう、あたしは?
「の、典子サン、どうしたんだい? なんで泣いてるんだ? 俺、なんかマズイこと言ったかな――」
目の前の秋也が、慌てたような口調でそう言った、表情はまだよく見えなかった。
気がつくと、西日が差し込む薄暗い教室の中にはもう、誰もいなくなっていた。
つい先程まで、すぐ側にいたはずの幸枝と慶時は、まるで最初からいなかったかのように消え失せていた。
電気もついていないがらんどうになった教室を、静寂が包み込んでいた。
窓の向こうに見える山並みに、ゆっくりと陽が沈んでいくのが見えた。
東の空はおそらく、仄かな藍色と紫色のグラデーションになっているに、違いなかった。
典子にはわかっていた、どちらの世界が幻想で、どちらの世界が現実なのか。
もうとっくにわかっていた、そんなことは。
けれど――それを認めてしまうことに、典子は躊躇いを覚えていた。
たとえ幻想でもいい――次の瞬間には陽炎のように消えてしまってもいい、それでもあたしは――。
「秋也くん、あたしやっぱり、秋也くんと一緒に――」
そこまで言って、典子は言葉を切った。
夕日を背にした秋也のシルエットが、ゆっくりと首を横に振ったので。
徐々に光が失われていく世界で見た秋也の表情は、優しそうでも、少し寂しそうでもあった。
「典子」
秋也が典子のファーストネームを口にした。
先程とは、口調が明らかに異なっていた。
その名前を大切そうに、慈しみながら、秋也は典子の名を呼んだ。
典子は思った、いつからだろう、彼が自分を「サン」付けで呼ばなくなったのは。
それを思い出そうとし――思い出せなかった、いつのまにかそうなっていた。
秋也が言った。
「俺も、典子と一緒にいたいと思ってる。たぶん典子と同じくらいに」
「だったら・・・・・・!」
典子が叫びかけ、秋也がそれを優しく制した。
「だめなんだ。俺たちは、まだ、一緒にはなれない。俺は典子にそうなってほしくない」
「・・・・・・」
典子は黙り込んだ。
夕日はもうほとんどが山肌に姿を隠し、あたりはすっかり薄暗くなっていた。
もうどこの家も電気をつけてもいいはずなのに、窓から見える懐かしい風景は、まるでゴーストタウンのようにしんと静まり返っていて、ただ電柱にぶらさがっている街灯のみが苦しそうに明滅を繰り返しているだけだった。
その暗闇に溶け込んでしまいそうな秋也のシルエットが、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あのとき、俺がなんて言ったか、覚えてるかい?」
あのときとはいつのことなのか、普段の典子ならばきっとわからなかったに違いない。
けれど、秋也が「あのとき」という言葉を発したと同時に、典子の脳裏にはそのときの光景――即ち典子と秋也が最後に言葉を交わしたあのとき、あの場所――が、はっきりとよみがえっていた。
「ええ」
典子がゆっくりと二度、顎を引いた。
「覚えてるわ」
『典子・・・・・・、生きろ。生きて、生きて、もうこれ以上ないくらい幸せになって欲しい』
『それが俺の、望みだから』
秋也は苦しそうに、けれどはっきりとそう言った。
もはや表情すら伺うこともできなくなっていたが、秋也は照れたようにちらっと笑ったようだった。
「いまとなっては後悔してるよ。川田と同じようなことしか言えなかった、やっぱり俺には作詞の才能はなかったみたいだ」
「ううん――」
典子も笑んで、小さく首を振った。
「わかるわ、秋也くんの言いたかったこと、川田くんの言いたかったこと。いまのあたしには、とてもよくわかる」
「・・・・・・そうか」
秋也はわずかに頷いたようだった。
窓の外に視線を移すと、赤みが徐々に薄れていく空に真っ黒なカラスが一羽、南の方向に向かって飛んでいくところだった。
秋也はしばらくそれを眺め――ほうっと小さなため息をついた。
それから、ゆっくりと言葉を紡いだ、まるで歌を歌っているようだった、――例えばそう、秋也がたまに典子や幸枝たちに歌って見せた、レノンの“イマジン”みたいな優しい口調。
「典子は、この世界がなんなのか、わかっているのかい?」
典子は一瞬、目の前の秋也を見つめた。
秋也は黙って、典子をじっと見つめ返した。
唐突で、酷くおかしなものに聞こえたかもしれない、その質問は。
しかし典子には、秋也の言わんとするところがすぐさま理解できた。
「ええ」
小さく頷いた。
「わかる――わ。実のところ、あまりわかりたくないんだけれど、あたしはたぶん、理解している」
「・・・・・・」
秋也はなにも言わずに、すぐ後ろにあった机――金井泉(女子五番)の机だった――に腰かけた。
「これは、あたしのなかの世界。あたしの願望の世界。目が覚めれば消えてしまう、儚い夢の世界。そうでしょう?」
典子は言った。
必死に涙をこらえていたせいか、語尾が少し震えてしまったけれど。
思った、まったく、自分の夢の中でくらい、自分の感情をコントロールできればいいのに。
「そうだな――」
秋也が言った。
「そういうことになるかもしれない。俺はもう典子の中にしか存在しないから」
「うん・・・・・・」
秋也の言葉を肯定してしまってから、典子はああ、と心の中で呟いた。
ばかだな、あたし、本当はどっちが夢でどっちが現実かなんて、どうだっていいのに。
秋也がいる世界の方が、典子にとっての現実だった、――現実とみなすべき世界だった。
たとえそれが自分の内側に構成された世界だったとしても。
秋也くんさえいれば、あたしはもう他になにも――。
「典子」
秋也がまた、典子の名を呼んだ。
今度は幾分強めの口調だった。
秋也が言った。
「典子は、俺の死を無駄にするのか? ――いや俺だけじゃない、川田や、慶時や、三村や、クラスのみんなの死を、無駄にするのか?」
「む、無駄って――?」
かつてない秋也の口調に、典子はたじろいだ。
秋也が続けた。
「俺は、典子にそんなふうになってもらうために、典子を助けたかったわけじゃない。わかるだろ?」
「で、でも、でもあたしは・・・・・・」
典子は何かを言おうとし、自分でも何を言っていいのかわからないまま、口を閉ざした。
秋也の言葉が、典子の胸に突き刺さっていた。
始まりのあるものすべてには、終わりがあるものだ。
秋也とともに過ごした日々――楽しかった時間。
秋也が再び巻き込まれた“プログラム”――つらかった時間。
どんなに楽しくても、どんなに苦しくても、必ず終わりが訪れた。
それは時に唐突に、そして紛れもなく、着実に。
終業のチャイムとともに必ず授業が終わるように――。
すべての『世界』には、始まりと、そして終わりがあった。
典子にはわかっていた。
唐突に始まったこの世界にも、もちろん終わりが存在するということを。
それが、秋也との永遠の別れになるということも。
この世界もいつかは消え去り、そして典子は目を覚ますだろう、秋也のいない『現実の世界』で。
しかし、それでも典子がいつまでも秋也の幻影に、すなわちあり得ない幻想の世界に固執していれば、典子は現実世界には何の影響も及ぼさない存在になってしまう。
それは秋也が命をかけて作り上げた世界を、典子自身が破壊することに他ならなかった。
典子はようやく口を開いた。
「あたしは、秋也くんとずっと、ずっと一緒にいたかった。もちろんいまでもそれは変わらないわ、多分この先ずっと、変わらないと思う」
「それは――」
秋也が口を開き――しかし、途中で言葉を切った。
典子は続けた。
「けれど、あたしは、あなたのしたことに――いいえ、あたしたちのしたことに対して、責任がある。最後まで見届けたい。あたしたちが命がけで紡いできたメッセージが、誰かに届くのか、それとも誰にも届かないまま消えてしまうのか、それはわからないけれど・・・・・・」
そこまで言って、典子の言葉の語尾が微かに震えた。
泣いたって何にもならない、そんなこと、もうとっくにわかっているはずなのに。
つっ――と、冷たい液体が典子の頬を伝っていった。
それは涙だった、もちろんのことながら。
しかし典子は、それを恥ずかしいとは思わなかった。
ただ黙って、涙を流した。
そして、言った。
「あたしは、あなたたちの死を、絶対に無駄にはしない・・・・・・」
突然、あたりがぱっと明るくなった。
教室中に眩しい光が満ち溢れた。
典子は思わず目を細め、右手を目の上にかざした。
誰かが蛍光灯のスイッチを入れたのだろうか――、そう思ったとき、教室内はいつもの喧騒に包まれていた。
学生服を着た男子生徒、セーラー服を着た女子生徒、大勢の生徒たちが典子を取り囲んでいた。
みんながみんな、微かな笑顔を浮かべて、典子を見つめていた。
全員、典子の見知った顔だった、――当然だ、『クラスメイト』なのだから。
内海幸枝(女子二番)と目が合うと、幸枝は笑いながら小さくウィンクをして見せた。
だから言ったでしょ、あなたも十分、愛されちゃってるっていうのよ、――幸枝はそう言っているようだった。
三村信史(男子十九番)が、ポケットに手を突っ込んだまま、ちらっと苦笑して肩をすくめた。
妹が世話になったな、あいつが幸せな恋をしていられるのも典子さんのおかげだ、ありがとう、――そう言ったような気がした。
杉村弘樹(男子十一番)と琴弾加代子(女子八番)が並んで立っていた、弘樹は軽く加代子の肩に腕を回して典子の方を見つめていた。
弘樹が小さく頷いた、――俺は自分のしたことが間違っていたとは思わないし、いまでも誇りに思ってる、そう思える生き方ができてよかった、典子さんもそう思える生き方をしてくれ。
加代子が笑んだ、ちょっと恥ずかしそうに、――典子のその信じる心が、ほんの少しだけでもあたしにあったらよかったのに、ね、弘樹くん?
弘樹と加代子は互いに顔を見合わせて、それから幸せそうに微笑んだ。
榊裕子(女子九番)が、典子を見て小さく嘆息した、――典子はすごいわね、一人の男の子をずっと信じ続けていられるなんて、あたしにはできなかったわ、悔しいけれど、やっぱり彼には典子が一番お似合いね。
そう言った裕子の表情は、やはり穏やかな笑みをたたえていた。
相馬光子(女子十一番)が、いつものあの表情のまま、典子を見つめていた、――アンタには負けるわよ、ホント、いまどき珍しすぎるわよ、無形重要文化財級よ、自分でそう思わない?
そして――桐山和雄(男子六番)が、じっと典子の方を見ていた。
典子はあのときのことを思い出し、少し居たたまれない気持ちになったのだけれど、桐山和雄はその表情からは典子を恨んでいるようにも許しているようにも見えなかった。
次の瞬間、典子は自分の目を疑った。
桐山の口元がわずかに緩んだように見えた、――ほんのわずか、本当に一瞬の出来事だった。
目の錯覚かもしれないけれど(それにしても夢の中で錯覚とはおかしな話だ)、少なくとも典子には、桐山が笑っているように見えたのだった、もちろんいまはいつもの無表情に戻っていたが。
それから――大柄でたくましい身体つきの川田章吾(男子五番)が、典子の瞳を見つめていた。
そうして無精髭を生やした顎を右手で撫で、唇をちょっとすぼめた。
ちぃ、ちぃ、ちゅく――、川田は口笛で、小鳥の鳴き声を真似てみせた、それはあのときのバードコールの音と酷似していた。
典子が川田を見つめ返すと、川田はひょいと肩をすくめ、左の親指を立てながら右目をぱちっと閉じて見せた。
その仕草は、あの大阪梅田の私鉄ターミナルで見た短いムービーを思い起こさせた。
川田は一言もしゃべらなかったが、典子にとってはそれだけで十分だった。
その川田の隣、国信慶時が目を細めながら、典子を見ていた。
その瞳は、自分にとってなにか一番大切なものを見ているような、そんな穏やかな瞳だった。
典子は慶時になにか言おうと口を開き――しかし慶時はにこっと笑って、右手をひらひらと宙で振った。
ちょっとだけ寂しそうな、けれどもとても幸せそうな、そんな表情を見せながら。
そして最期に――。
「典子」
秋也が微笑みながら典子の名を呼んだ。
ずっとシルエットしか見えなかった秋也の表情が、ようやくはっきり見えるようになっていた。
懐かしさ、嬉しさ、悲しさ・・・・・・そういったものをすべてひっくるめた感情が、典子の心を満たしていった。
決してプラスの感情ばかりではなかった、悲しさはもちろん、寂しさや、苦しさといった負の感情も混ざっていた。
しかしそれらは、典子の心の中であるひとつの感情に変化していった。
それは即ち、――人生をせいいっぱいに生きてみよう、どんな苦しいことや悲しいことがあっても、せいいっぱいでいいから走って、走って、走り抜けてみよう。
そういうプラスのエネルギーだった。
ウィア・ボーン・トゥ・ラン、――わたしたちは走るために生まれたのだ。
立ち止まってしまえば、走るのをやめてしまえば、その人はそこで終わってしまう。
秋也が、言った。
「典子――、君は俺たちの希望なんだ。人は互いに信じ合って生きていけるかもしれない、人生を楽しくせいいっぱいに生きていけるかもしれない、そういう希望なんだ。俺たちのすべてを、典子に託したい。これからもつらいことがあるかもしれない。けれどそのときは思い出してくれ、俺たちは、いつも一緒だ、いつも、典子のそばにいる。いいかい?」
典子は頷いた、ゆっくりと、それでも、はっきりと。
答えた。
「わかったわ。あたしもその希望を持って・・・・・・頑張るから。せいいっぱいに生きるから・・・・・・! だから・・・・・・!」
世界が眩いばかりの光に包まれていった。
典子の中にだけ存在する曖昧な幻想世界の扉が、ゆっくりと音も立てずに閉じていく。
見慣れた町並みが光の渦の中に消え、それに続いて懐かしいにおいのする教室が消失した。
そしてもちろん、いるはずのないクラスメイトたちも――。
赤松義生(男子一番)と稲田瑞穂(女子一番)の身体がすうっと透き通ったかと思うと、ぱちん、と光の風船がはじけるように、周囲の光に同化していった。
二人とも、その存在が消える瞬間、とても穏やかな笑顔を見せた。
続いて飯島敬太、内海幸枝が、同じように消えていった。
クラスメイトが次々に光の中に飲み込まれていく――。
川田章吾が、桐山和雄が、琴弾加代子が、杉村弘樹が、相馬光子が、三村信史が・・・・・・。
誰もが典子に優しく微笑みかけながら、光の渦の中に消えていった。
こうして典子の前から、すべてのクラスメイトが、いなくなった。
最後に残ったのは、優しい、けれど少し哀しそうな笑みを浮かべている七原秋也だった。
そしてその秋也の身体も徐々に透き通っていき――。
典子は両足に力を込めて、秋也の身体に抱きついた。
思い切り、それでも優しく、腕に力を込めて抱きしめた。
言った。
「あたし、せいいっぱい生きるから・・・・・・! だからみんな――秋也くん! ずっと見ていてね・・・・・・! あたしのこと、ずっと見守っていてね・・・・・・!」
典子の腕の中にある秋也の存在はどんどん薄れていき、そしてどんどん大きくなっていった。
そうして、最後に――。
典子の腕の中の温もりが、ふっと消えた。
それが、幻想世界の扉が閉じた瞬間だった。
典子は自分の身体を抱きしめたまま、その場に膝をついた、そして、泣いた。
悲しくはなかった、それは、もちろん、嬉しいわけでもないのだけれど。
とにかく泣いた、泣いていたかった、これからはもうどこででも泣けるわけではなくなるので。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、典子は小さな声で、呟いた。
「秋也くん、ありがとう・・・・・・。それから――」
どこからともなく、チャイムが聞こえた。
終業のチャイムだった、ひとつの世界が終わる合図、その世界を鎮める鐘の音――。
短くて儚い、けれどとても美しいそのレクイエムは、典子の心全体に染み渡っていった。
典子は再び歩き出した。
その鐘の音に負けないくらい、美しい言葉をそこに残して――。
「さようなら――・・・・・・」
[ Grand Finale 完 Epilogueへ続く・・・・・・ ]