BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽・外伝 刻の雫 〜


Appendix

「夢か…」
 いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 ───もうすぐ、正午の放送だ…
 オレは時計を見ながら思った。
「本部」で受けた左手の傷は、痛みが痺れへと変わってきた。
 出発してすぐに血止めをする為に縛っていたのだが、痛みが治まらないので日が昇るのを待って病院へ向かった。
 どこからか撃たれないかとビクビクしながら歩き、ようやく午前9時頃に病院の見える海岸線まで来た所で爆発音が響いた。
 病院の方から黒い煙が上がるのを見て、オレは慌てて薮の中へと逃げ込んだ。
「ちくしょう、やる気になっている奴は…いるんだ」
 6時の放送で8人が名前を呼ばれた。
 その中の一人、迫水良子(女子7番)が「本部」出口の所で死んでいるのも目撃していた。
 未だその事実を受け入れられずにいたが、爆発によって一気に現実感が増した。 
 今、オレは「プログラム」の真っ只中なのだ。
 病院を諦めて、商店街の薬局へと向かったのは薬を求めての事だった。
 しかし、薬局の店内は無情にも荒らされていた。
 ぐちゃぐちゃになった店内を見たオレは、ヘタリ込みそうになった。
 何とか気力を振り絞って、数件隣にある洋品店へと潜りこんだ。
 タンスの上に置いてあった救急箱からオキシドールを取り出し、左手にぶちまけた。
 もの凄い痛みがあったが、なんとかガマンした。
 殺されるよりは痛くないだろうと思ったのだ。
 包帯を巻いて、支給品の水を飲んだオレは、そのまま眠ってしまったのだ。
「それにしても、一年生のあの事件を夢で見るなんてな…」
 オレの目から涙が零れ落ちた。
 今のこの現実が夢であって欲しかった。  
 出来る事なら、あの時に戻りたかった。
「冬哉、俊介、真吾…どこにいるんだよ……」
 誰も見てはいないので、オレは存分に涙を流す事が出来た。
 声を出すことは出来なかったが、泣くだけ泣いたら少し落ちついた。
 ───もう一度、みんなに会いたい
 その想いだけが、湧き上がってきた。
 オレは支給された武器、Vz61スコーピオンを握りしめて立ち上がった。
 弾頭が鉛ではなくウッドチップという木で出来ているので、殺傷能力は無いに等しい。
 しかし、外見上は分からないので、脅しには十分な威力を発揮しそうだった。
 裏口から足音を立てないように出て、周りを見渡した。
 誰もいないのを確認したオレは、西に向かって駆け足で移動した。
 商店街の中心部辺りに来たところで、視界の左側に動くモノを捉えた。
 慌てて向けた銃の先には横山シスターズの姉、横山純子(女子20番)が立っていた。
「う、撃たないで…お願い!」
 目に涙を浮かべた純子は、何も持っていないことを示すかのように両手を挙げた。
 オレの掌に粘りのある汗が浮かんでくるのが判った。
 銃口を純子から外したが、引鉄に架けた指だけはそのままにしておいた。
 純子は、安心をしたように大きく息を吐くと
「よかった、御影君はやる気じゃあないよね?」
と、訊いてきた。
「仲間もいないし…悪いけど、正直分からないよ」
 自分の意志とは違う言葉が出た。
 いや、本心が出たのかもしれない。
 唇を噛むオレに向かって、純子は意外な一言を口にした。
「友達…見たわよ」
「ど、どこで…どこで見た?」
 オレは間髪入れず純子に訊き返していた。
 純子は驚いて身を引いたが、左手に見える山の方に視線を移すと
「山の方にある、教会で…」
と、つぶやくように言った。
「教会だな、ありがとう」
 礼を言って駆け出そうとするオレに
「千佳子に会ったら、教会で待っているように伝えて」
と、純子が頼んできた。
「分かった、約束する」
 返事をする事さえもどかしく感じながら走り出したオレの耳には、純子のつぶやきが届いてはいなかった。



「フフッ、あなたの友達とは…言っていないわよね……」


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