あなたの赤ちゃんがダウン症と診断されたら

このページの文章は、JDSN「平成11年10月 ダウン症健康フォローアップ手帳」のなかの、兵庫県立塚口病院小児科赤ちゃん体操教室 藤田弘子先生の文章から引用しました。先生の著書には「ダウン症児の赤ちゃん体操」などがあります。なお、引用に当たっては、大阪府立母子保険総合医療センター 企画調査部の許可を得ています。

 

ご 両 親 に 

@寿命をきめてかからないこと

 生まれてまもなくの赤ちゃんがダウン症と言われ、さらにもし短命ですと聞かされたら、親たちはどんなにか切なく、せめて苦しい思いだけはさせたくないと過保護になってしまうことでしょう。

 ダウン症は100年以上も前から研究され、過去において虚弱で長生きできないとされていました。

 今日では心臓病など乳幼児の治療が飛躍的に改善され、たくさんの元気な中学生、高校生、そして社会人になり職場で活躍しています。そして50歳、60歳に達している人たちがいるのです。

 

A赤ちゃんを心から抱きしめてやってください

 お母さんのおなかの中で10ヶ月ものあいだがんばって育ってきました。その努力をたたえ、心から赤ちゃんを抱きしめて下さい。親子のきずなを心と心で通いあわさねば、赤ちゃんに微笑みが生まれないでしょう。いまこそお父さん、お母さんの支えを必要としています。夫婦で積極的に子育てに取り組みましょう。そうすれば、いつか子のことめぐり合ったことを感謝するときがくるでしょう。

 

B赤ちゃんをかくすのはやめましょう

 赤ちゃんがほかの子とちょっと違うからといってはずかしくなんかありません。自分たちの子ですと胸をはれるようになりましょう。

 お姉ちゃんやお兄ちゃんは赤ちゃんが生まれたと喜んでいます。子どもたちはうれしいのです。赤ちゃんもまた嬉しいのです。 

 赤ちゃんを育てていくためには多くの人たちの支えが必要となります。赤ちゃんのことを、親せきや友人はもちろん、近所の人にも、もっともっと良く理解してもらいましょう。赤ちゃんもまた、おじいちゃん、おばあちゃんそして近所の人たちとの交際を求めています。多くの人とのかかわりが成長の大切な肥やしです。

 

C家族一人一人の人生を大切にしましょう

 赤ちゃんばかりに気を取られて、ほかの兄弟たちの世話を怠りがちになりますが、どの子にとっても大切なお母さん、お父さんであることを忘れてはなりません。

 お姉ちゃん、お兄ちゃんも本当は赤ちゃんがかわいいのですが、これまでのようにお母さんが、かまってくれなくなると赤ちゃんをにくむことさえあります。赤ちゃんに少し手がかかることを、兄弟にも理解させ、みんなで赤ちゃんを助けてあげるよう話しましょう。

 とかくお母さんは自分を犠牲にしてすべての責任をとりがちです。自分自身の生き方をよく見つめ、もし仕事を続けることが大切と思っておられるなら可能な状態を作り出すよう、努めてみましょう。

 お母さんが精神的に満たされていれば赤ちゃんにも喜びが伝わってくるはずです。

 

Dたくさんの先輩たちが手を差しのべています

 あなたのまわりにダウン症の子を育てている家族をみつけることができます。初めての経験で壁に当たったとき、豊かな経験から学ぶことがたくさんあります。 (以下略)

 

ダウン症児の心と体の発達

@発達のきざしを見つけ応答しましょう。

 ダウン症の赤ちゃんはおとなしくよく眠ります。それで、つい人との触れあいが少ない傾向になりがちです。親もまた、気持ちが沈むとつい育児に手をかける時間が少なくなってしまいます。

 大抵の赤ちゃんは、ちょっと時間が長くかかるだけで健常児と同じ発達のステップを踏む力を備えています。注意深い観察で弱くても発達のきざしとなるサインを見つけ、それを引き出す筋道の通った手助けが必要です。

 

A親からのかかわりはこころの栄養です

 親は誰でも抱いたり、名前を呼んで微笑みかけたり無意識のうちに赤ちゃんをあやします。ここでもう一歩、赤ちゃんの立場に立ち、おむつかえの時に「気持ちいいな」、ミルクやごはんのあと「おいしかった」、倒れて泣くと「おお、痛い、痛い」など心の思いをはっきり分かるように言葉と感情で返してあげると、体験を体で覚え、また知らず知らずのうち言葉の発達につながるでしょう。

 

B人見知りは対人関係発達の印です

 楽しく繰り返す親子のやりとりで情緒的に強く引き合う”愛着”が育ちます。見知らぬ人があやすと泣きべそをかくのは慣れ親しんでいる人と見知らぬ人を見分ける能力と見なれない人への恐れの感情が育っている証拠です。

 このとき親がそばにいると次第に落ちつきを取り戻し、見知らぬ人と新しい関係が生まれ、赤ちゃんの世界が広がります。

 

C離乳食の開始は先延ばしにしないで少しずつでも進めましょう

 離乳は栄養の問題だけでなく、味や形になじむ、舌や口の動き、飲み込み運動、さらに消化力などいろいろな新しい経験を含んでいます。離乳完了の時期は多少遅れる場合があっても、開始は特別の事情がない限り思いきって進めましょう。

 

D赤ちゃん体操で筋力を高め、関節の変形を防ぎます。

 骨格筋はおおまかにいって2種類の筋細胞が混じっています。生後すぐは、その一つ、ゆっくりとした運動を支配する持続神経支配の筋が多くを占めますが、よく体を動かすと動きの早い神経に移行して次第に機敏に動く筋肉が増加します。

 ところがダウン症の赤ちゃんは筋肉が弱く、寝かせておくと腕や脚の関節を伸ばしたまま、じっとしているので敏捷な筋肉がなかなか増えてこないのです。そこで生後出来るだけ早い時期に他動的な運動、とくに関節を曲げて屈筋をよく動かすと動きが活発になるとともに、良い姿勢を身につけることができます。一人歩行ができるまでは、全身の動き、とくに這い這い姿勢や関節の動きに注目してください。できれば専門家のアドバイスをうけるようにしましょう。

 

Eしつけの目標を立てて家族みんなで育てましょう

清潔の習慣をつける    豊かな感情を育て情緒の安定をはかる    わがままを抑える力を養う    探索活動を大切にして好奇心を伸ばす    まわりの人々や動物に対する思いやりのこころを育てる    手を掛け過ぎないようにして身辺自立を育てる    意思表示ができるように、言葉だけにとらわれず、顔の表情、発声、身振りなどを敏感に感じとって通じ合う