BATTLE ROYALE
〜 荒波を越えて 〜


第1部

試合開始


「お早う、理香」
 背後から声をかけられた
細久保理香(香川県豊原町立豊原第二中学3年1組女子18番)は、振り向きながら答えた。
「あ、奈央。お早う」
 すぐに追いついてきた
佐々木奈央(女子10番)は、理香の肩をポンと叩きながら言った。
「折角の修学旅行なのに何なんだろうね、一体。楽しみにしていたのにぶち壊しじゃない」
 理香は頷きながら答えた。
「そうよねぇ。ちょっと残念かな。でも、冒険も面白いんじゃない?」
 奈央は天を仰ぎながら、呆れたような声でボヤいた。
「能天気ねぇ。あたしはイヤだよ」

 豊原第二中学では、本日から京都・奈良への3泊4日の修学旅行に出かける予定だった。
 ところが数日前に急遽、無人島生活体験旅行に変更されてしまったのだった。
 学校側からの説明では、将来米帝などと戦争になった際のサバイバル生活の訓練のためだということだった。
 そんなことを急に言われても納得できるものではないのだが、この国では政府の決定に逆らうすべはない。説明する教師も残念そうだった。
 実際のところは、生徒よりも引率する教師の方が大変なのかもしれないが。

 ふと、遠方に目をやった理香は1人の男子生徒の後姿を見つけた。
 5月も下旬になるとかなり暑い。制服の選択は自由なので、ほとんどの生徒が既に夏服になっている。理香と奈央も例外ではなかった。
 が、2人の前方を歩いている男子生徒は暑苦しい学ラン姿だ。よく見ると、どうやら同じクラスの
藤内賢一(男子16番)のようだ。
「この暑いのにご苦労様よね」
 奈央が呟くと、理香はしずかに頷きながら答えた。
「融通が利かないってのも、あそこまで行くとねぇ。6月1日までは、絶対衣替えしないつもりなんだろうね」
 奈央は微笑しながら言った。
「まじめなのは勉強だけで充分じゃないかしらね。確かに成績は学年トップだけど」
 理香は、そこで遮った。
「それが、全てじゃないよねぇ」
 2人は、顔を見合わせて頷きあった。
 とにかく、賢一は異常なほどにまじめすぎるのだった。校則は完璧に守っているし、休み時間も勉強に費やしていた。勿論、放課後は塾に直行しているらしかった。制服に関しても、本来の衣替えの日をきっちり守るつもりなのだろう。

 校門が近づいてきた。既に、校門をくぐった賢一の姿は見えない。
 理香の視線は、反対側から校門に近づく男女に注がれた。
 男子の方は、
大河内雅樹(男子5番)だった。雅樹はハンサムでスポーツ万能、成績も上位なので、当然ながら女子には大人気だった。実際、理香と奈央も雅樹に好意以上のものを持っていて、普段から親しくしている。
 そして、並んで歩いているクラス委員長の
今山奈緒美(女子3番)も雅樹とは親しい。
 実は理香は修学旅行中に雅樹に告白することを計画していた。だが、無人島で告白するのはあまりにもムードがないので、今回は諦めるつもりだった。けれども、よく考えると奈央も奈緒美もライバルだ。2人とも理香にとっては親しい友人だが、ここは譲れない。
 それに、雅樹に好意を持っている女子は他にも何人もいる。不本意だが無人島で告白した方がいいのかもしれない。後れを取って、後悔するのだけはお断りだ。
 そんなことを理香が考えていた時に、奈緒美が足を止めて、理香たちに手を振った。
 それに対して、理香と奈央も手を振り返しながら、小走りに駆け寄ろうとした。
「雅樹君、奈緒美、お早う」
 理香は大声を出したのだが、その声は突如眼前に現れた高級車によって遮られてしまった。
 排気ガスを吸い込んでしまった奈央がゴホゴホとむせ込む一方で、高級車は校門に横付けされ、屈強な男性に続いて1人の女子が降りてきた。
「お早う、みんな」
 女子は、理香たちに笑顔を振りまきながら挨拶すると、護衛の男とともに校門をくぐって姿を消した。
 車が走り去って、ようやく理香たちは雅樹たちと顔を合わせることが出来た。
「相変わらずだな、三条は」
 雅樹の声に、理香は答えた。
「いばってないだけ、上出来だと思うけどね」
 今度は奈緒美が口を挟んだ。
「それはそうなんだけど、この中学を選んだ以上は、あたしたちと同じように行動して頂きたいと思うんだけどね」
 奈央は黙って頷いているが、それは無理というものだろう。
 話題の女子、すなわち
三条桃香(女子11番)は総統の姪なので、貴族階級と言える。だが、本人の希望であえて公立中学に通っているらしい。毎日のように車で送迎され護衛付きで行動しているが、本人はいたって愛嬌が良く、クラスメートを見下したような態度も取らないので、一応クラスに溶け込んでいるように見える。だが、理香たちは何となく近寄りがたいものを感じていた。
 理香たち4人はいつのまにか校門をくぐっていた。
 校舎までの並木が朝日を浴びて、とてもすがすがしく見えていた。
 


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