BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


序章

1:プロローグ〜プログラム開始1週間前〜

 ここはある高級そうな雰囲気漂う部屋・・・。
 そしてその男は静かに椅子に座り込んでいた。
 決して寝ているわけではない。静かに、そして鋭く周囲を警戒することを決して忘れてはいない。

 そんな男が待機している部屋に一人の男が入ってくる。
 顔の方はあまりいいとは言えない。いやむしろ醜い部類に入るだろう。醜悪な顔しており、何か見ていてムカムカするような顔だった。少なくとも、静かに座っていた男はそう感じていた。
ブレイド・ウルフ総統閣下がお呼びだぜ」
 醜いと認識した男の、下品な声が静かな部屋にいやというほど響き渡る。
 ブレイド・ウルフと呼ばれた男は不愉快でならなかった。
 これが同僚の声だと思うと気がおかしくなる。ゆえに、こんな生物の吐く息を一秒でも吸っていたくない。
 そんな不快な気持ちを噛み締めるように、その男の返事に答える。
「ああ・・・、わかった、すぐ行く」
 そういって私は部屋を退出する。
 下品な男・・・確か<バルザック>だったか・・・、あいつの顔は<心>と共にいつ見ても醜い。反吐が出そうだ。一瞬でも顔をあわせるのが嫌になるな・・・。
 自分が嫌だと思っている人物でも、仕事を同じとする同僚ならば、嫌でも顔を会わせなければならない。ましてや、仕事が同じなら一緒に行動することもあるのだ。耐えられない、そこまではいかなかったが、気分はいいものではない。
・・・そんな気持ち悪さの残る気分でも<この部屋>を前にするといつになく、心が洗われ、身が引き締まる。まるで毒を吸った自分の穢れた体が、みるみる浄化していく感覚のように・・・
 そしてゆっくりと荘厳とした扉にノックをする。

 コン・・・コン・・・

総統閣下ブレイド・ウルフ、参りました」
「入れ」
 自分にとって神聖なお声が自分の耳に響き渡る。

 ガチャ・・・
 入室を許可され、部屋に入るとそこには荘厳な部屋の中でもひときわ豪華な椅子に座る40台後半の男性・・・ある種のオーラが纏っているが如き威厳を漂わせている。
 そう、この目の前にいる御方こそ、大東亜共和国の全権委任者、総統閣下である。大東亜の全国民の頂点に君臨する絶対権力者、そして全国民を導く偉大なる指導者である。
「一体、何用でしょうか?」
 そう、私は疑問だったのだ、ここに呼び出されたこと自体が。私の任務はあくまで総統閣下の警護で、総統閣下ご自身が私を呼ばれることなどめずらしいことだったからだ。
「うむ、単刀直入に言う。実はお前にプログラムに参加して欲しい」
 総統閣下の突然の任務の言い渡しに私は首を傾げながら答えた。
「プログラム? というと、共和国戦闘実験第68番プログラムのことですか? あの中学生同士が闘うという・・・」
「そうだ」
 そう聞いてさらに解せなかった。
 なぜいまさらこの私が民間の、しかも中学生と戦うなど・・・
「閣下、お言葉ですが私の任務は閣下の警護です。その任務は私にとって最重要かつ重大な任務と心得ています。今更、私がそのような不利益で不毛な戦いに参加するなど・・・・」
「まぁ、理解できないのも無理もない。お前には最初から説明しよう。今回のプログラムの主旨を・・・。その訳もな」
 そうやって総統閣下はその重い口を開き始めた・・・

 ・・・数分間の説明を私は静かに聞いていた。そして私はこの<プログラム>の主旨を理解した。私が投入される理由も。
 なるほど・・・さすがは総統閣下。私の考えなぞ及ばない・・・・。いや、そのような疑うこと自体、愚劣な行為であったか・・・。
「わかりました。そのような理由であるならば、喜んでプログラムに参加します」
「うむ、よろしく頼む。それと、任務に就く前にお前にはこの<書類>を渡しておく。一度目を通しておけ」
 そういって、5枚くらいになる書類を渡された。私はそれをとって速読で文を読み取ってみる。どうやら本プログラムに関しての資料のようだ。中にはプログラム担当官ですら、知りえない最重要機密まで載っている。
総統閣下
 私はある提案を総統閣下に許可願うために御声を掛ける。
「なんだ?」
「任務を円滑にするために"紫電(しでん)"の所持を許可してもらいたいのですが・・・」
 "紫電"とは我が愛刀のことだ。長年、死線を共にしてきた相棒というわけだ。総統閣下は少し考え込んでいるようだ。
「ふむ・・・わかった。特別許可をしよう。ああ、その資料にも書いてあるとは思うが、今回のプログラム対象クラスは茨城公立海音寺中学校3年C組だ」
 そう聞いて、私は総統閣下の言いたいことを悟った。
 海音寺中学・・・・すべてお考えのとおりということですか。

「なるほど、それは都合がいいです・・・ では、私は任務につきます!」
「うむ、それでは期待通りの戦果を頼むぞ」
「ハッ! それでは失礼いたします。」
 総統閣下に敬礼をし、私は部屋を退出した。そして部屋を出た私は少し笑っているのに気がついた。苦笑しているのか・・・嬉しいのか・・・。
 フ・・・、まさかこのような形で戦場に戻ることになるとはな・・・。
 運命の皮肉を感じられずにはいられなかった。そして私は心の中で、2年前・・・・、自分が最後に戦場に立った14歳の秋を思い出していた。

「よう、プログラムの参加が決まったんだって?」
「まさか戦闘経験もなさそうな中学生が相手とはねぇ・・・」
 総統閣下の謁見を終え、久しぶりの戦場に立つ緊張感を持続させたまま、部屋−といっても警護待機室だが−の扉を開けてみると、自分の目の前にはあまり視界に入れたくないバルザックと30代前半くらいの女・・・<マルサ>と仲間内では呼ばれる女がいた。
 この女、外見はそこまで悪くないのだが、バルザック同様、中身は醜悪だ。私から見ればオバサンに見えるし、バルザックと並べて見れば、醜悪コンビとして私の目を汚す材料となる。

 そんな私の気持ちを挑発するように二人はプログラム参加について話してくる。
「しかし中学生に負けるなんてことはねぇだろうがよ? クックックッ」
「フフ・・・、足元をすくわれないようにね。ウルフボーイ♪」
 どうやら私をからかっているつもりらしい。
 よくも悪くもこの組織はプライドの高い奴が多い。本当の殺し合いと言っても、所詮戦闘に関しては素人でしかも子供が参加するこのプログラムは、二人から見るとプログラム参加も所詮「低俗なお遊戯」のようだ。
 この二人の見るに耐えないやりとりを見て私はさらに不愉快な気分になり語気を強める。
「フン・・・、私を誰だと思っている、ナメるなよ・・・!」
 そう言って、はっきりとわかるくらいの殺気を二人に浴びせてやった。
 そうすると二人は明らかに竦んでいる。
「う・・・」
「フ、フン!」
 バルザックは声を詰まらせ、マルサは急にそっぽを向いてしまった。
 完全に臨戦態勢の自分の殺気を敏感に感じ取ったようだ。

 <心>が恐怖に歪んでいる・・・
 この二人の表情に満足した私は、プログラムに向けての準備をし始めた。
 総統閣下のご期待に答えるために・・・・。
 <刃の狼>に戻るために・・・・。
 2年前に封印した獰猛な牙を再び研ぎ澄ます準備を・・・・。


                           


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