BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
2:海音寺中学校1学期終業式〜プログラム開始前日〜
夏も盛りに入り炎天下の普通の中学校に、授業の始まりと終わりを告げるチャイムが鳴り響く。そして体育館から生徒たちがぞろぞろと出てくる。そのそれぞれが疲れたという顔を見せながらも、希望に満ち溢れた顔をしている。それもそのはずだ。今あった行事が終業式で、拷問のような校長先生の話が終わり、あとはホームルームさえ終われば待ち焦がれた夏休みなのだ。学生だけに与えられる長期休暇、いわば特権。少年少女たちは各々が計画を立てて、有意義な夏休みを過ごすことになるのだろう。
そんな生徒たちの雑踏の中に、3人の男子生徒が歩いている。この3人はこの海音寺中学校ではちょっとした有名人だ。
「ふわぁ〜〜〜〜・・・、やっと校長の退屈なお話が終わったかよ」
遠山 慶司(男子10番)は本当に退屈な校長の長話に疲れたのか、大欠伸をしながら言った。
「だな。これでやっと夏休みだもんなぁ」
「授業もテストもない幸せな日々が来るな!」
そんな俺にあいづちを打つこいつらは、俺の親友でもあり、サッカー部の仲間でもある那節 健吾(男子11番)と御手洗 武士(男子14番)だ。小学校からの腐れ縁って奴で、いわば幼馴染ってわけ。俺たち3人はサッカーではこの界隈でも、名を知られた存在で、結構有名人なんだぜ。健吾は少し真面目な性格、武士は結構大雑把な性格だ。俺はというと・・・、ノリがいいかな、お調子者タイプかもしれない。
「健吾、武士、ホームルーム終わったらどうする?」
何気なくそんな質問をすると、健吾がジト〜とした視線を俺に投げかけてくる。
「・・・お前なぁ、午後から練習あるだろ?」
「え、そうだったっけ?」
こんな夏の日差しの強い日に、練習だって? 冗談じゃないぜ、ってか死ぬ!
「でも午後のサッカーの練習は自主練だって言ってたぜ?」
「だろ〜。健吾、武士みたいにもっと気楽にいこうぜ。いいじゃないかよ〜、夏休みは入る前くらいはよ〜、少しは遊びたいんだよ〜」
俺は健吾に縋りつくようにおどけながら訴える。
「ったく、しょうがないなぁ」
健吾がまるでやんちゃな子供を見る母親のように、俺と武士を呆れ顔で見ていると、
「遠山君、那節君、武士!」
と凛とした女子の声が聞こえた。
「あれ? 美津さん」
「亜希子、どうした?」
目の前には武士の彼女(羨ましい!)の美津 亜希子(女子19番)と少し小柄な女子の黛 風花(女子17番)とC組の元気娘・大塚 真澄(女子4番)の3人がいた。武士と美津さんはクラス公認の熱愛カップルでもある。
「武士、ホームルームが終わったら練習あるの?」
「いや、今日は自主練だけだから」
武士が何気なくそう答えると、美津さんは顔を輝かせて武士の返事に答えた。
「そっか、それじゃみんなでどこか遊びに行かない?」
「こいつらも連れてか?」
どうやらこいつらとは俺と健吾のことらしい。まったく一番の親友に向かってこいつとは何だよ。
「もちろん! あたし達も複数だしね♪」
武士と美津さんの恋人の会話に少し嫉妬したのか、俺はからかうつもりで話し掛ける。
「なんだよ、武士。俺らは邪魔者扱いかよ〜」
「ハイハイ、で誰が来るの?」
くそぅ、軽く流されたか…。
視点を変えてみると、クスクスと黛さんと大塚さんも笑ってる。
「え〜とね、あたしと風花、真澄に千歳に笑美でしょ、蘭に千里。あとは浜田君に大和君も来る予定よ」
笑っている二人とは対照的に美津さんは武士の答えに冷静に応じている。さすが公認カップル、もう慣れたってことか。
「へぇ〜、いつものメンバーはともかく、お笑い芸人やリーダーも来るんだな」
俺も武士の意見と同じ考えを抱いていた。
そうだな…、今言った女子7人はいつも一緒にいるメンバーだからともかく、浜田やリーダーも来るのかよ。ちょっと意外だな。
ちなみに説明しとくと、浜田 亮三(男子12番)ってのはC組のお笑い担当の奴だ。笑いを取る行動はキレがあり、特に物真似がうまい。なかなかウケも上々で、将来の夢はお笑い芸人だって言ってる少し変わった面白い奴でもある。
もう一人の通称『リーダー』の大和 智一(男子18番)は、まさしくリーダーって言葉がふさわしいほどの頼り甲斐のある奴だ。クラスの奴はほとんど彼を信頼していて、まさに3年C組のまとめ役だ。
この二人はクラス全員と等しく付き合うタイプだが、プライベートで美津さんたちのグループと付き合いがあるなんて聞いたこともない。まぁ俺が知らないだけかもしれないが。
「まぁ、いいじゃないのよ。それで来るの?」
少し疑問に思っている俺を尻目に、美津さんは話を進めようとする。武士もそれに即答した。
「ああ、行くよ。慶司と健吾はどうする?」
「もちろん行く!」
武士の問いかけに俺は即答した。
だっておもしろそうじゃん。俺だって15歳だ。少しはサッカー以外のことで生きぬきもしたいさ。
「あ、ああ・・・・」
健吾はとまどいながら言っていた。俺はそんないつもとは様子が違う健吾に内心、苦笑していた。まぁ、理由はわかってるけどな・・・。
その原因となっている方向をチラっと見た。
そこには大塚さんと話している黛さんがいる。ちょっと小柄な普通の女の子。実は健吾はこの少女・黛さんが好きなのだ!
だがその事実は本人自体ガードが固く、このスクープは親友である俺と武士しか知らない。
そして俺たちも決してこのことを喋ってはいない。もし情報が出まわった場合、真っ先に疑われるのは俺たちだからだ。さっきも言ったとおり、健吾は少し真面目な気があり、冗談があまり通じない。
もし、知れれば本気で俺たちを抹殺するだろう。もちろんシャレじゃない。なにせ、一回喋りそうになったときにどこからともなく現れて、後頭部にジャンピングシュートが来た経験がある。あれがサッカーボールだったら、ゴールネットを突き破るが如くの威力の蹴りが飛んできたわけ。・・・・あの時は本気で死ぬかと思ったさ。
ということで、俺はもちろん、近くにいた武士も喋る気はまったくない。理由は至って簡単、命が惜しいから。
しかし、健吾も恋愛に関しては引っ込み思案だ。さっきも気になるのか、チラチラと黛さんの方を見てるしな。まあチラッといっても、目がほんの一瞬、そちらの方に向く程度だが・・・
まったく、だったら、さっさと告白してしまえばいいのに・・・
そんなこんなで黛さんたちの方向を見て考え事をしていると、少し様子が違っていることに気づく。
あれ、黛さんがなんか赤くなって俯いてるな・・・
あ! しまった、考え事してたからずっと見てたんだ。そりゃ恥ずかしくなるわ・・・
自分の迂闊さに気づいてとっさにそちらの方向と別な方に視線をはずした。
しかし、その先には年頃の少女という目の保養とは別物の、冷や汗がでるような光景を目にした。その視線の矢先には、鬼の形相の健吾が・・・・、まさに目で殺さんと言わんばかりの熱視線を俺に浴びせている。
うわ…、これはあとが大変だ。健吾、お前顔に似合わず、やっぱり嫉妬深すぎだろ・・・
そんなさきほどまで暑かったためにかいた汗とは別物の汗が吹き出ていたのを確かに俺は感じ取っていた。
キンコーーーン、カンコーーーン!
そんな俺達の会話と雰囲気を立ちきるように、開始と終了を告げるおなじみのチャイムが鳴った。
「あ、チャイムが鳴った! 教室戻らないと!」
まさに助け船と思った俺はそう叫んだ。本当に今ほど感謝したこともない。
「そうだな」
「それじゃホームルームのあとで集まりましょ」
武士と美津さんもそう言って会話を打ち切る。
そして、遅刻しないように全員ダッシュで教室に戻っていった。
ふぅ、助かったぜ・・・。これで何とかごまかせればいいが。
そんな安易な思考をしていた俺。この時は気づきもしなかった。
このチャイムが今まで自分が聞いていたチャイムではなく、この後訪れる地獄の幕あげを告げる開始のチャイムだったことを・・・