BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
3:拉致〜死への送別〜
さきほど廊下から走って帰ってきたおかげか、チャイムが鳴った後にもかかわらずなんとかホームルームに間に合った。なんとか担任も来ておらず、各々が談笑する風景が見られた。
その後、担任の糟谷(かすや)先生が俺たちのすぐ後に入ってきて、夏休み前最後のホームルームが行われた。
しかしとにかく糟谷先生の話は長い。糟谷先生の担当は国語なのだが、黒板にあまり字を書かず話すことが多い授業が多いので有名だ。これはノートなどを取らなくて楽なのだが、それゆえ話を聞いておかなければならず、しかも形にはまった口調に同じことを繰り返すことが多い。
このホームルームもこれまたお決まりの退屈話を聞かされ、俺はかなり眠気を誘われた。まるで子守唄でも聞かされている赤ん坊の気分だ。
ったく、眠いぜ・・・。 校長と同じ話をするなよ。聞かされる俺たちの気持ちにもなれっつうの。
しかし、さすが一学期最後の日だけあるのか、授業をよくサボる連中やあまり見ない奴も見かける。
まずは陸奥 海(男子15番)・神部 姫世(女子5番)のカップル。
この二人はよく授業をサボったりする。普通なら先生から指導を受けるところだが、彼氏の陸奥はこの界隈で非常に名の知れた不良である。しかも手口が決して露呈することがなく、彼自身、補導歴は一度たりともない。かなり容赦のない性格と言われており、先生一同も悪質な報復を恐れてか、陸奥に関してはほぼノータッチ状態である。
彼女の神部は常に陸奥にくっついているといっても過言じゃないくらいで、同年代の女子といる姿を一度たりとも見たことない。陸奥がいる時は必ずこの女はいる。ゆえに陸奥がいない時はこの女はいないという方程式が成り立っている。
陸奥の取り巻きの狩谷 英寿(男子5番)・久慈 雅人(男子6番)・椎名 潤一郎(男子8番)も、陸奥ほどではないが学校にこない時があるので、この陸奥グループが一堂に会するのもめずらしい光景だと言える。
そして不登校組と呼ばれる存在の鵜飼 守(男子3番)や真中 冥(女子15番)も今日は姿を見せている。
鵜飼は非常に特異な存在と言える。特にイジメとか受けたこともなさそうだし、成績も悪くない。不登校といっても、かなり不規則に休む程度で、なんだかんだ言って、授業の半分近くは来ている。要するに、出席日数を稼ぐために学校に来ているように見えるのである。あまりに不規則ゆえに友達もいない状態である。
女子の真中は、さきほどの鵜飼とは打って変わって典型的不登校児である。昔、イジメにあったらしく、それを期に人と付き合わなくなったらしい。3年になって少し来ただけで、あとは全然学校に姿すら見せなかった。完全な不登校である。不規則な鵜飼が来ていることはあまり驚かなかったが、この真中が来ているのを見て多少ながら驚いた。それほど姿を見るのは久しぶりだったからだ。
さらに学期末に転校してきた李 小龍(男子17番)。
お隣の友好国・韓半民国の留学生で、ものすごく中途半端な時期に転校してきた異質の中学生だ。さらに外国の留学生なのに大東亜語も完璧に話す。そのあまりの流暢な大東亜語にこちらに住んでいたのかと思わせるほど上手だ。居住の準備や周辺整理などという理由で、自己紹介の時以来学校に来ていなかったので、姿を見るのも久しぶりだ。
3年C組は良くも悪くも個性的な連中が多い。いい奴と悪い奴の区別も非常にはっきりとしている。そんな一癖もふた癖もある俺たちが久々に全員集合状態だ。こんなめずらしいことはない。
そんな来ているのがめずらしい輩に意識を向けていると、お決まりの会話をしている糟谷の話がどうやら終わりの方向に向き始めた。
「それでは中学最後の夏休みだ。受験も控えてる身だから勉強を怠るなよ。部活もこの夏で引退のものはしっかり頑張れよ。それでは最後にプリントを配るからな」
Yes! さっさと終わってくれ、糟谷センセ。
心の中でガッツポーズを決める慶司。だが糟谷が少々困惑した表情を浮かべる。
「・・・ん? みんな、すまんがプリントを職員室に忘れたようだ。ちょっと待っててくれ」
エーっとクラス中からブーイングが起こる。そんなみんなの声なんて我解せずといった表情で糟谷は教室を出て行く。
だがこの時、糟谷の表情が少々強張っていたのを俺はもちろん、誰も気がつかなかった。
まったく、しっかりしてくれよ。はやく遊びにいきたいというのに・・・。
俺は心の中で毒づいていた。糟谷の忘れ癖は今に始まったことではないので、少々慣れていたが、これが終わったら遊びに行くだけに焦らされている感覚があったからだ。
「まったく、早く終わってくれよな〜」
そう言ってため息が零れる俺に、隣の席の健吾が呟く。
「あと少しじゃないか。もう少し辛抱しろよ」
健吾らしい真面目なお答えを拝命いたしました。
「ハイハイ、ワカリマシタヨ」
俺はそんな健吾に対して機械的な返事をした。
俺は一刻も早く遊びに行きたいんだって〜の。
ガラッ、っとちょっと教室の後ろのほうが開くのが聞こえた。
みんなは騒いでいて気がつかなかったが、俺は糟谷が早く帰ってこないか耳を澄ましていたので何とか聞こえた。その程度の音であった。
カランカラン
その音がした方向を振り返ってみると、何かペンライトのようなものが転がっていった。ちょっと小さい白っぽい・・・・、ぱっと見でそんな風に見えた。
「なんだ?」
そう俺が言った瞬間であった。
ブシューーーーー!
ふいにそのペンライトのようなものの両端から、いきなり白い煙が吹き出たのである。まるで消火器の消火液が吹き出る勢いのように、瞬く間に教室中に白い煙が蔓延しだした。
「キャーーー!」
「なんだ!」
「うわ、煙かよ!」
「なによ、これぇ!」
とっさの出来事にクラス中がパニックになる。
それもそうだ。煙といったら火事とかを連想する。混乱を起こしても何の不思議もない。
煙の発生源を偶然見つけた俺でさえ、この出来事には慌てた。
「おい、健吾、武士、この煙は!」
しかし隣に座っていた健吾は空ろな表情をしている
「う・・・・・」
空ろな表情のままそう呻いたあと机に頭から倒れこんでしまった。
周囲をよく観察してみると、さきほどの喧騒がまるで嘘のように騒ぎ声は聞こえなくなり、みんな横になったりうつ伏せになっている状態であった。
「な・・・、こ、これぁ・・・」
そんな俺も言葉を言い切る前に、強烈な睡魔に襲われた。その眠気に誘われるがままに、俺の意識は闇へと消えていった・・・
教室の中が静かになったのを見計らって、ガスマスクをつけた兵士らしい人物が教室の様子を伺う。そして全員が眠りに入ったのを確認すると、外に待機している連中に合図をする。その合図の後に数人のガスマスク兵士が教室に雪崩込んできた。
そんな中、一人だけ違う服装をしたガスマスクの男が兵士たちに指示をだす。
「よし、すみやかに確保。早急に表の車に詰め込め」
「ハッ!」
上官風の男の命令の元、兵士たちが作業にかかる。
指示を出し終えた上官風の男が教室をでる。あまり被り心地のよくないガスマスクをはずし、外の新鮮な空気を思いっきり吸い込む。男がいる廊下には、男以外に一人の先生風の男が立っていた。顔は蒼白でビクビクしている感じを受ける。
「あ・・・あの、森教官・・・」
「おお、糟谷先生。この度のご協力、感謝します。いやぁ、先生は大東亜教師の鑑ですな」
「い、いえ・・・。あのこれで私は・・・」
「ああ、それなのですが、そういうわけにはいかないのです。一応、先生も当地までご一緒してもらいます。何分プログラムの決まりでしてね・・・。ご理解下さい」
丁寧な口調で森と呼ばれた上官風の男は説明する。
「は、はい。わ、わかりました」
糟谷は多少不満ながらも、しぶしぶ了解したようだ。
「全員の収容、完了いたしました」
「うむ、それでは会場まで向かうぞ」
そして海音寺中学校3年C組を全員収容した車はある目的地へと向かった・・・。