BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
4:プログラム開会式〜プログラム開始前〜
「う・・・・、う〜ん・・・・」
あまり寝心地がよろしくなかったのか、苦しそうに呻きながら遠山 慶司(男子10番)は気だるさが残る気分で目覚めた。いつの間にか寝ていた頭を揺り動かしながら、床の冷たい感触を感じる。そして、その寝ぼけた頭で、徐々に状況を考えてみた。
ん・・・、俺っていつ寝たんだっけ? え〜と、授業中だったかなぁ・・・ でも今日は終業式だしな。確か教室で・・・・
・・・・そうだ! ホームルームで変な煙が出てきて、その後、強烈な眠気が襲ってきて、意識がなくなったんだ!
そう思うと冷や水を被ったように一気に目が覚め、慶司は体を起き上がらせる。
すると慶司がいる場所は、学校ではないかなり大きな部屋、いや教室にいることがわかった。部屋といったのは、何もない広い部屋だったこと、教室といったのは黒板があったからだ。
普通の学校にしては古すぎる。廃校・・・・なのか?
そして周囲を見渡してみると、そこには自分と同じように人が大勢倒れている。いや、寝ているのか。中には寝言やいびきをかいている奴もいるほどだ。
そしてそれが3年C組メンバーだということを理解するのに、時間はかからなかった。自分のそばには健吾や武士も、横たわっている。
「おい、健吾、武士! 起きろ、おい!」
二人を起こそうと、慶司はかなり大声で叫んだ。
「ん・・・・」
「なんだよ、慶司ぃ・・・、もう少し寝かせてくれよ・・・ あと5分〜・・・」
健吾は頭を重そうにしながらも、なんとか起き上がろうとする。武士の方は、再び寝ようとしている。
そして俺の大声で何人かのクラスメイトも起き始めたようだ。体を起こそうとしている奴らがちらほらと見え始める。
「二度寝してる場合か! 起きやがれ、コラ。どうやら、俺たちは・・・」
「イテテテテ! 耳引っ張るなって・・・」
呑気に寝ようとしている武士の耳を引っ張りながら、俺はあることに気づいた。まだ頭が起きていないだろう二人の首になにか巻きついているのである。
「おい、お前ら・・・ その首に巻きついているの、なんだよ?」
俺は二人に問いかける。
「え・・・?」
「な、なんだよこりゃ! 首輪・・・・って、慶司、お前の首にも!」
健吾と武士は首輪に触れて、存在に気づいたようだ。そして武士の指摘したように、俺自身の首に手を触れてみて、初めて俺の首にも首輪らしきものがあることが確認できた。
回りを見るとクラスメイト全員に首輪がつけられていた。
学校からの一瞬の移動。どこかわからない場所。正体不明の首輪。
これだけのことが重なれば、一般的な中学生が騒ぎ出す材料になるのには十分だった。
「ちょっと・・・、ここどこよ?」
「なんだよ、この首輪はよ!」
「何が一体、どうなってるんだ!」
「いや・・・、お家に帰りたいよ・・・」
各々が思い思いに喋りだしている。すると外からこちらに近づいてくる音が聞こえ始めてきた。
ザッザッザッザッザッザッザッザッ!
その音はまるで軍隊の行進のような、規則正しく、重厚な音であった。そしてその音は、この部屋の外あたりに来た時点でピタリと止まる。
「な、なんだ・・・」
そして、教室の扉が力なく開く。誰かがここに入ってきたようだ。
その入ってきた人物は、この教室にいた人間なら誰でも知っている人物であった。
「糟屋先生!」
そう、入室してきた人物はこのクラスの担当教師の糟屋 昇先生だった。
だが、いつもとは様子がまるで違っていた。顔も青ざめているようだったし、テンションも低そうな表情をしている。
「ちょっと、先生! どういうことなのか、説明してください!」
そう先陣を切ったのは、クラスでこういった意見を気がねなく言える、女子の頼れる姉御、長川 千里(女子12番)であった。
糟屋先生は困惑しながらも、力なくその質問に答えた。
「ああ・・・、そのことについて・・・だが。唐突で悪いが・・・、今日からこのクラスの担任が代わることになった・・・」
「ハァ? どういうことですか!」
わけの分からない答えに、別名"リーダー"・大和 智一(男子16番)が続く。
「詳しくは新しい担任の先生に聞いてくれ・・・ それでは森先生、どうぞお入り下さい・・・」
早く切り上げたいのか、全く生徒には対応せずに、新しい担任とやらを招きいれる糟屋。
糟屋に呼ばれて、教室の扉が開き、そこからは海音寺中学校では見たことのない、全く知らない男が入ってきた。
身長190cmくらい。体形はがっちりしていて、髪を上に立てている髪型だ。まるでアクセサリのような、細いチェーン型の悪趣味なピアスをしている。
そして特筆するべきは、両頬。とても日常無事に過ごしていては、とてもじゃないがつかないような傷跡がある。左頬は何かに切られたような傷跡だし、右頬に至っては何かに抉り取られたような傷跡だ。
どこをどう見ても先生には見えない。贔屓目で見ても体育教師くらいか? いや、どこかのヤクザの方が非常にしっくりくる。
「え〜、みなさん始めまして! 私が糟谷先生に代わり、このクラスの担任になった、森 滋郎(もり じろう)だ。みんな、よろしくな!」
顔に似合わず、体育会系のノリで、かなり明るい声で挨拶をしてきた。黒板に自分の名前の漢字を書きながら、簡潔ながらも自己紹介を済ませた。
「あの・・・、森・・・先生」
「ん? 何かね、大和君」
「これは一体・・・、どういうことか説明してもらえますか?」
「ああ、今からちゃんと説明するから座って・・・ 話はそれからだ」
ちゃんと説明する気はあるようだ。
それを聞いてさっきまで糟谷に詰め寄っていた長川さんとリーダーはおとなしく座った。
「それと、糟谷先生。ごくろうさま。別室で待機しておいてください」
「は、はい」
そう言って、糟谷はとっとと退出していった。
糟谷が早々に退室して言った後、森と呼ばれた新担任はオホンと咳払いをして高らかに言い放った。
「まず、君たちに祝辞を述べたい」
ハイ? っと全員が思っただろう。もちろん俺もふいを食らった形となった。
祝辞? なんのことだ・・・・
だが次の言葉で、俺はもちろん、全員が凍りついた。
「おめでとう! 君たちは本年度のプログラム対象クラスに選出された!」
プログラム・・・小学校4年の教科書に出てくる言葉。
正式名称『共和国戦闘実験第68番プログラム』全国の中学生3年のクラスの中からコンピュータが選び、選ばれたクラスは最後の一人になるまで殺しあう、まさにくそったれゲーム・・・
そいつに俺たちが選ばれたってのか!
「冗談じゃねえぞ!」
「ふざけないでよ!」
「何言ってるんだあいつ?」
「イヤよ、あたしは!」
その地獄に突き落とされる言葉に、3年C組は一気に堰を切ったように全員が騒ぎ出した。プログラムに選ばれるというのは、所詮宝くじが当たる確率と同義と言ってもいい。
「まさか、俺たちが・・・」という感覚は皆にあったのだろう。あちらこちらで不満の声が続出している。
「あ〜、うるさいぞ。静かにしなさい」
パンパンと森は両手を叩くが、さすがに思春期の子供はそう簡単に静まらない。俺も納得できなかったので、騒いでいる方だったが。
ふ〜、やれやれといったポーズを取っていた森だが、片腕を掲げてパチンっと指を鳴らした。すると数人の武装をした兵隊らしき人たちが入ってきて、手に持っていた機関銃を天井に向けた。そして・・・、映画でしか聞いたことのない音を聞くはめになる。
バババババババババ! ババババババババ!
「キャーーー!」
「うわぁぁああ!」
クラスメイトから叫び声が上がる。それは紛れもなく、本物の銃だった。本物の銃撃だったのだ。
マジかよ・・・、撃ちやがった!
天井から破片がパラパラ・・・と落ちていった。それは、兵士の持っているものがおもちゃではなく、本物の銃である証明にもなっていた。
「次は威嚇じゃすまないかもな?」
嫌味のような言葉を言って、ニヤリと森は笑った。その冷酷な笑みは「次騒いだら、殺す」という暗示をかもし出していた。
本物の射撃と、森の威圧の言葉で、クラスの誰一人とて言葉を発する者はいなくなった。
瞬時に悟ったのだ。もし反抗すれば、殺されるという暗黙のルールを。
「よし、静かになったな。それではさっそくだが、ルールを説明する。基本的に反則はなし。プログラムの制限時間は3日だ。最後の1人になるまで殺しあってもらう」
予想通りの言葉が聞こえてきた。習った通り、どうやらこの中の一人しか、生き残れないというルールのようだ。
「そして生徒同士で戦うため、最低生きるために必要なものも含めて、政府から支給品が入ったデイパックが一人ずつ手渡される。入っている支給品は、食料と水が入ったペットボトル・懐中電灯・地図にコンパスだ。あと肝心の『武器』だが、これは一人一人違う。強力な武器もあれば、当然戦闘向きじゃないものもある。まあ、運も実力のうちと言うことだ!」
ハッハッハッと森が笑う。クソ、何がおかしいんだ、この先公は!
「身体能力が低い奴でも、強力な武器を引けば優勝候補だしな。まぁ、戦闘向きじゃない武器で優勝した前例は過去いくつもある。ハズレ武器を引いたとしても、決して諦めず行動してくれ。それと支給品の中の地図には本プログラムの会場の全図が示してある。ああ・・・、ちなみにここは長野県のある町だ。この地図に載っているエリア内で戦ってもらうことになる」
長野県だって? 随分と山奥に引っ張ってこられたな。
「現在我々のいるところは『廃校』だ。主な施設としては『公民館』『住宅地』『廃工場』『学校』『診療所』となっている。さらに『川』もあるからな〜。ちなみにこの地図のエリア内ならどこで戦ってもかまわん。エリア外にでると一応警告はするが、無視した場合は周辺に待機している軍の集中砲火を浴びるので注意すること。まぁ、一応有刺鉄線が引いてあるのでわかると思うがな。それと・・・」
「先生。この首輪はなんなんですか?」
森の発言を遮るように長川さんがふいに質問した。それは俺ももちろん聞きたいことだった。
「長川君、今から説明しようとしていたところだ。黙って聞いていなさい!」
説明を邪魔されたことが癪に障ったのか、少し怒気を含んで言った。長川さんはちょっと怯んで、口を引っ込めてしまった。
自分の思い通りにことが進まないと癇癪を起こすタイプだな。
「オホン、続けるぞ。君たちの首にあるその首輪だが我々、軍の粋を集めて作られたものだ。この首輪に関連してだが、そして6時間おきだが、放送で君たちにクラスメイトの死亡状況と禁止エリアというのを発表する」
禁止エリア? 何か関係あるのか?
「隠れてばかりでは、戦いが進まんのでな。その防止と逃走の予防みたいなものだ。で、その禁止エリアに入ると、その首輪のセンサーが感知して・・・・爆発する!」
な、なんだって、爆発だと! そんな危険なものつけていたのかよ。
全員に動揺が走る。中には首輪を触り始めた奴までいる。
「あと24時間以内に死亡者が出なかった場合や、はずそうとしたり、壊そうとした場合も爆発するから気をつけろよ〜。ちなみに制限時間の3日までに生存者が一人にならなかった場合も爆発するから注意しろよ」
そう言われて、おもむろに触っていた生徒は青ざめて、首輪に触れるのを辞める。どうやらこの首輪がある限り、俺たちは嫌でも殺しあわなければならないらしい。
「まあ、実際は実感わかないだろうからなぁ・・・、オイ」
何か含みのある笑いを浮かべた森が、兵士に合図を送ると兵士が2〜3人出て行った。
兵士が出て行った後、少しの沈黙がこの場を支配する。そして兵士たちは首輪をつけた糟谷を連れて戻ってきたのだ。
「も、森先生! 一体何を・・・」
「え〜、この前担任の糟谷先生は君たちがプログラムに参加することに反対せず、我々に協力してくれました」
その生徒への裏切り行為と取れる、糟谷の行動に全員の視線が注がれる。まるで、剣を突き刺すような、批難の視線を注いでいた。
糟谷の野郎・・・、あの薄情者が!
「しか〜し、私に『自分の身は保証されますか』と言ったのです。自分の保身しか考えない腐った大人ですねぇ。このような弱卒は私は大嫌いです! そこで、先生には見本になってもらいましょう」
な・・・何? 見本・・・・だって・・・
「例えば、禁止エリアに入ったとします」
そして森はポケットからリモコンを取り出すと、糟谷の首輪にリモコンを向けて、何かスイッチを押す。するとピっと糟谷の首輪から音が聞こえた。
それは悪魔のカウントダウンが始まった瞬間であった。糟谷は本能的に悟ったのか、泣きながらに命乞いをし始めた。
「ヒ、ヒ、ヒィィィィ! た、助けてくれぇぇぇぇぇ!」
ピ・・・・、
ピ、ピ、ピ、
ピピピピピピピ・・・・、
ピーーーーーーーーー
ボン!!
何か吹き飛ぶような爆発音が聞こえる。それとと共に糟谷の首はこの世から消滅した・・・・
そして頭は真下にボトリっと落ちたのである。
だが、それはまだこれから始まる悪夢の序章にしか過ぎない出来事だった。