BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜


24

[Magic,dream,or true love?(塩谷哲)]

 朝日が木漏れ日となって入るダイニングの小さなテーブルにレーションが7つ並べてあった。横山純子(女子20番)と千佳子(女子21番)の姉妹が先ほど準備をしたものだった。
 テーブルの周りには彼女たちの他に日本刀を脇において正座の姿勢もよい遠藤絹子(女子2番)、どことなく不機嫌そうな広瀬知佳(女子17番)、その正面に沢渡雪菜(女子9番)と片膝を立てて座っている五代冬哉(男子10番)がいた。もう一人、黒田亜季(女子5番)は二階の張り出した天井部で見張りをしていた。
 レーション自体が朝の食卓に不釣合いであったが、テーブルの真ん中に置かれたスマイソン6インチとS&W チーフスペシャルが、より異彩を放っているのだ。
「それじゃあ、いただきます」と千佳子がレーションの容器を取った。それに続いてみんなが目の前の容器を引き寄せた。
 このレーションは専守防衛軍の兵士に、実際に支給されているもので容器の大きさはB5サイズ、深さは約5cm位のものである。中身はペーストやスティック状になっており水と一緒に摂取すると容量を増すのであった。
「栄養価は高いんだろうけど、これ作った奴はファーストフードの食いすぎだな」と冬哉が言う通り、味はまずまずであった。
 だが、みんな一口程度手をつけただけで食は進まなかった。それは味のためばかりではなかった。
「私、亜季ちゃんと交代してくるね」と言って絹子が席を立った。
 絹子が駆け上がった階段から亜季が降りてきてテーブルについた。
 しかし彼女も食が進まないらしく、チーズとクラッカーを齧った後はベジタブルのペーストをもてあますようにこねくり回していた。
 それを見て冬哉が立ち上がると、みんなの方を向き大きく手を横に広げた。
 そしてゆっくり右手をかざすと、そこからトランプを出して見せた。ハートの10であった。それを床に落とすと次は左手から同じ様にカードを出した。クローバーの3。次々に何も持っていない手からカードを出した。
 10数枚出したところでまた両手を広げると、今度はポンと手を叩いた。
 すると何も無かった空間に1メートルほどのステッキが飛び出した。みんなは不思議な出来事に目を丸くして見ていた。
 そのステッキは手を開いている冬哉の胸の前で明らかに浮いているのだ。
 さらにそのステッキはゆっくりと浮き上がり、その中心が冬哉の顔の前まで来ると地面と垂直に浮いたまま冬哉の体の周りを廻りはじめた。おとぎの世界に迷い込んだようであった。これには見ているみんなが思わず拍手をした。
 冬哉はあわててステッキを手にとると
「やめろって、誰かに聞かれたらどうするんだ」
 と拍手をしないように言った。全員がはっとして拍手を止めたが、その目は感動と興奮で輝いていた。冬哉がダンサーのようにターンをすると手に持ったステッキは消えていた。またもや起こった不思議な出来事に、驚きの表情を浮かべている女性陣に
「少しは楽しんでもらえたかな? つぎのショーは昼食の時だ。オレ様の新しいネタを披露するからな」と言って両手を広げぺこりとお辞儀をした。
 知佳や亜季は興奮が冷めない感で、いろいろと話をしながらレーションを口にした。
 横山姉妹も同様にスティックをつまんでいる。冬哉は少し安心しながら全員の荷物を置いている階段の所まで行った。
 そして自分のバッグを手にとった時、シイューと言う音が聞こえた。舌打ちをするような感じの摩擦音だ。
 真吾が武術の型を見せてくれた時にしていた呼吸の様にも思えた。冬哉はカバンを足元に置いて周りを見た。この一瞬が明暗を分けた。
 みんなのカバンを置いている所から茶色の紐のようなものが出て、冬哉の右手に伸びてきた。冬哉は驚きと痛みでその場から飛び上がる様にして離れた。
「ぐっうぅ」右手を押さえ、転がる様にして倒れるとみんなが驚いて駆け寄ってきた。
「どうしたの冬哉君!」雪菜が冬哉を抱き起こそうとした。しかし冬哉は
「来るな! ヘビだ。危ないぞ!」と、言って雪菜をダイニングの方へ押し戻した。
 全員が固まった様に動きを止め、そして冬哉を負傷させた小さな生き物を見た。
 それはまだ戦闘意欲を失わず、鎌首を上げこちらを見ていた。
 沈黙を破ったのはいつのまにか一階に降りてきていた絹子であった。いや、正確に言えば彼女の持つ刀であった。
 右足を一歩踏み出すと同時に絹子は刀を抜き、そのままヘビに向かって真横に薙いだ。
 チンッという音とヘビの頭が落ちるのが同時であった。
 フッと息を吐いて絹子が額の汗をぬぐった。冬哉の方を見ると雪菜が右手をロープで縛り噛まれたらしい場所へ口をつけている所だった。恐らく毒を吸い出すのであろう。
「どう、大丈夫?」と絹子は聞いた。
 雪菜は答えず、次々と血の混じったつばを吐き出した。
「五代君・・・」
「何で? 何でこんな所にハブなんかが・・・」
 広瀬知佳と横山千佳子が同時に言った。
「沢渡、あれ毒蛇か?」と、冬哉があごでヘビの死骸を指すようにして聞いた。
 冬哉の右手から毒を吸い出しながら雪菜はうなずいた。
「誰? 誰が冬哉君のカバンにハブを入れたの?」と、それまで黙っていた亜季が叫ぶ様にして言った。
「亜季ちゃん落ちついて・・・」と、さっきから亜季の肩を抱いていた純子がなだめたが
「私、許せない。ここにいる人だけは信じあおうって言ったじゃない! 知佳ちゃんあなたじゃあないの?」と、ますます声を荒らげて言った。
「待てよ、黒田。どこからか勝手に入ったのかもしれないだろう」と冬哉は壁にもたれながら苦しそうに言った。
「そうよ、こう言う時こそみんなを信じないと・・・」と千佳子が亜季の肩を抱いて言ったが、亜季はそれを振り払うと
「なによ! 私にはあんたが一番信用できへんねん!」と言った。
 千佳子は顔が引きつりながらも
「何、それ。どう言う事?」と、亜季に言った。
「自分の胸に聞いてみなさいよ!」と、千佳子にはき捨てる様に言い、亜季は横を向いた。
 雪菜は亜季が昨夜の事を聞いていたのだと思った。やはりあの時、亜季は起きていたのだ。
「そうよね。でも私は沢渡さんも信用できないわ」と知佳が言い出した。横にいた絹子も純子も知佳の発言にギョッとした。
「だってそうでしょう。私達の誰もがヘビの方に注意が行っていたのに、沢渡さんだけ冬哉君の手当てをするなんておかしいやん!」と、にらむ様にしながら雪菜に言った。
 雪菜は言い返す事もせず、冬哉の腕の状態と時計を見ていた。
「雪菜のお姉さんは看護婦だから、すぐに傷の手当てをしただけでしょう。あんたこそ五代君の気を引こうとして変な事言わんといて!」 と、千佳子が怒鳴るように言った。 
 知佳は怒りと恥ずかしさで真っ赤になり、千佳子をにらみつけた。その目には涙が浮かんでいた。それまで黙って聞いていた絹子が
「喝!」
 と、気合をかけた。
 全員がその気迫に押され押し黙った。絹子は全員の顔を見渡すと
「五代君が言った通り、ここにいる人だけは信じましょう」と言った。
 みんなが絹子の言葉にうつむいたその時、純子がダッシュをしてテーブルに置いていたS&Wチーフスペシャルを取ると
「誰? もう・・・こんなのイヤ! だからこんな事をする人は出て行ってよ!」
 と言って銃口をみんながいる方に向けた。
 全員に緊張が走った。
 純子が引鉄を引き絞ろうとした瞬間、ダララララララーというけたたましい音と共に室内が次々と破壊された。外から誰かが銃撃を加えたのだ。
 亜季が悲鳴をあげてしゃがみこみ、絹子は奥のキッチンへと逃れ、知佳はテーブルにあるもう一丁の拳銃スマイソン6インチに飛びつき、純子は千佳子をかばいながら発砲した。
 もしも、この状況をプログラム担当官である朝宮みさきが見ていたら、きっとこう言っただろう。
 プログラムにふさわしい朝食風景になったと・・・

【残り 31人】


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