BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽・外伝2 〜
プロローグ
「犯人は・・・山口早苗、あんただよ」
しんと静まり返っていた室内に凛とした声が響いた。
部屋に集まっていた面々は色めきたった。
特に頭のハゲた警官は、顔を真っ赤にして抗議をした。
自分の推理が覆されたからだ。
「被害者はパソコンのパスワードはおろか、車のナンバーや、飼っている熱帯魚の数でさえ『30』に統一しているんだぞ。電卓に残されたダイイングメッセージ・・・30っていう数字はどう説明するんだよ!」
マナーを知らないのか、人を指差しながらまくし立てるハゲは、とてつもなく醜かった。
するとハゲとは対照的に、すっとした面立ちの少年が机の上にある電卓をその細い指で弄び始めた。
「最初は犯人がオレ様たちを混乱させるために仕組んだ罠かと思ったんだけど・・・確かにこいつはダイイングメッセージだ」
「ほら見ろ、さっきの推理は間違っているじゃないか」
落ち着いた声をかき消そうとするかのようにハゲが叫んだ。
それに対して、子供に説明するかのように優しく
「物事を一方向から見ていたんじゃ、本質は見抜けないぜ」
言うと同時に、少年のすらりとした指が優雅に電卓を横にしてみせた。
「なるほど・・・」
ハゲの横にいた黒ずくめの男が唸った。
前かがみの姿勢で歩み出たその男は、理知的な瞳を輝かせながら電卓を覗き込んだ。
確認をするように数字を指差すと
「君の言う通り、これはダイイングメッセージです。普通に考えると被害者の妻『美緒』を指す『30』という数字なんですが、これはそうじゃない。横から見ると・・・」
と、言いながらデジタル表示の数字をハゲのほうに向けた。
「あっ!」
ハゲが叫んだ。
「そう、『30』っていうデジタルの数字を横から見ると『山口』っていう漢字になるんだよ」
少年の少し得意げな声に応えるように、黒ずくめの男が山口早苗の前に立った。
「え〜 山口早苗さん。すいませんが署の方へご足労願いたいのですが・・・」
その言葉に、山口はがっくりと肩を落とした。
自供したも同然だった。
山口を伴って部屋を出て行く際、古田警部補と名乗った黒ずくめの男は振り返りざま
「そうそう・・・え〜 名前は何といったかな?」
と、問いかけてきた。
天井の採光窓から差す光をスポットライトのように浴びながら
「冬哉・・・五代冬哉」
犯人を言い当てたマジシャンはクールに答えた。