BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
プロローグ
2001年1月1日午前0時15分。
新世紀、21世紀の幕開けとなったその年、アジアの極東に存在した島国、大東亜共和国で「それ」は起こった。
大東亜共和国の各主要都市を襲ったテロ。
「大東亜共和国主要都市破壊テロ事件」が。
―死亡者約500万人。負傷者重症軽症も合わせて約1000万人。行方不明者約200万人。
これは大東亜共和国過去最悪の事件として知られている―。
東京では―。
彼女は一人、倒れていた。
辺りには人々の呻き声と叫び声が聴こえていた。
彼女はゆっくりと体を起こし、そして広がる光景に絶句した。
そこは、地獄だった。
舞い上がる灰と無数の瓦礫。そして原型が何なのか掴めないよく分からない謎の肉塊。泣き叫び歩き回る人々。全身血塗れで呻く人々。
彼女は吐き気をもよおし、その場に吐いた。
そして、思い出した。
恐らく、ここの何処かに自分の大切な「仲間」たちがいるはずだということに。
そう、一緒に初詣でに行こうと約束し、近くの神社に向かっていた「仲間」たちが。
彼女は右手をついて立ち上がり、「仲間」たちを探そうとしたが、何度やっても滑ってまたその場に崩れ落ちてしまった。
不思議に思って彼女は右手を見てみた。そしてあまりのことに悲鳴を上げそうになった。
彼女の右手は血塗れで、既に原形を留めていなかったのだから。
そこにきてやっと彼女はその右手に痛みを感じるようになった。
―痛い。早く…病院に行かないと…皆を探さないと…。
そして今度は左手を使って立ち上がろうとした。今度は上手く、立ち上がることが出来た。
―やった。
しかし、そう思ったのも束の間、また倒れてしまった。
彼女はまた不思議に思い、左手を見た。
多少汚れてはいるが、何とも無かった。
しかし、右手のときと同じように、またどこか痛んだ。
彼女はそっと右足を見てみた。そしてまた驚いた。
右足もまた、原形を留めていなかったのだ。
するとますます右手、右足が痛んだ。どんどん血が溢れていくように感じる。
―痛い、痛い、痛い!
だが彼女は立ち上がった。
―皆を、探さなきゃ…。病院、行かなきゃ…。
何とか近くに落ちていた誰のものか知らない杖を使って歩き始めた。
その時、目の前に突如何台ものヘリが降り立った。
そしてその中から出てきた軍人らしき人たちは、彼女や、怪我人などのその場にいた人たちを見つけてこう言った。
―早く病院に連れて行かなければ!
彼女は連れて行こうとする彼らから離れようとした。そして叫んだ。
―皆を探さなきゃ!
しかし彼らは彼女や他の人たちをヘリに乗せた。何人か、その場に行方不明者捜索のために置いていって。
彼女は泣き叫んだ。
ヘリが、少しずつ、地上から離れていった。
―そして彼女は被害を受けていない地域の病院に入院した。「仲間」たちは誰一人として、見つからなかった。
ある日あのときの出来事がこの大東亜共和国の体制、政治方針に反対する反政府組織によるテロ行為だと判明したらしいことを、テレビのニュースで放送していた。
犯行声明も出ているらしい。
―「仲間」たちを奪ったのは、反政府組織―。
彼女は、誓った。
―私はそいつらを―、許さない。
大阪では―。
彼は、病院のベッドで目が覚めた。
自分のベッド以外には何も無い部屋で。
彼はすぐに何があったか記憶を探ろうとした。
―しかし、何も分からなかった。
彼は枕元にあるテレビを点けてみた。
そこでは、どうやら最近発生したらしいテロについての特集をやっていた。
発生したのは2001年1月1日午前0時15分。
彼はそれを見て、すぐにカレンダーを探した。カレンダーはすぐ横の壁に日めくりカレンダーが掛かっていた。
1月3日。
彼はそこで、テレビでやっているテロは、2日前の元旦に起こったのだと知った。
すると、部屋に一人の医者らしき人物が入ってきた。
―やあ、目が覚めたようだね。ところで君に確認したいことがあるんだけど…いいかな?
彼は、こくんと頷いた。
そしてその医者らしき男はいろいろと聞いてきた。
家族はどうしたのか、とか、家は何処なのか、とか、名前は何なのか、とか。
だが彼はそんな他愛の無い質問のほとんどに答えることが出来なかった。
というより、答えが分からなかった。記憶が無かった。唯一答えられたのは、自分の名前だけ。
するとその医者らしき男は中に誰かを呼んだ。
そして入ってきた男は、白髪交じりの頭と髭を生やし、上等な服を着た、年を大分食った紳士だった。
その紳士が、言った。
―君。うちに、来ないか?
彼は、またこくんと頷いた。
広島では―。
彼はただ、呆然としていた。
目の前で、尊敬する父が死んだのだ、いともあっさりと。
目の前にある父の骸は、全身血塗れになり、もう既に冷たくなり、死後硬直も始まっていた。
父は彼にとって偉大な人物だった。
たくさんの人々を自分の手で掌握し、この大東亜共和国のことを何よりも気にしていた。
いつも父は言っていた。
―歴史の波がいつか来る。それはこの国を変えてくれる。私はそれを本来より早く呼び寄せてみせる。
しかし父はそれを成し遂げられずに死んだ。
そして父は死の間際に彼に言った。
―これは、罰なんだ。いいか、よく聴きなさい。このテロはな―。
彼は思った。
―父の言ったことが本当なら、自分が父のやりたかったことをやらなければいけない。やってやる。やってやる―。
そしてまた一人、少年が廃墟と化した街を見ながら、呟いていた。
「親父のせいだ…親父が悪いんだ…俺まで巻き込みやがって…う…うあああああっ!」
彼は絶望して、ただ、泣いていた。