BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
試合開始
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第1話
時は2006年12月。
「眠い…体がだるい…」
和歌山啓一(岡山県大佐町立上祭中学校3年男子21番)は、学校へ向かう、雪の積もった道を歩いていた。
この大佐町は、鳥取県との県境と、県内ではかなり北にあるため、朝からかなりの雪が積もっていた。
「寒いな…啓一」
隣を歩く宇崎義彦(男子2番)が話しかけてきた。
義彦は、中学校に入ったときからの親友だったが、啓一は何故か彼の家で遊んだことは無かった。
他の親友、狩野貴仁(男子5番)や白鳥浩介(男子9番)の家に行ったことはあったが、義彦だけ、なかった。
それに家族についての話を内輪でしていても、義彦と、あと国吉賢太(男子7番)などは、あまり話さなくなる。
その理由を一度、啓一は義彦と賢太に訊いてみようかと思ったが、訊いてはいけないことなのかもしれないと思い、やめておいた。
「今日は…旅行の打ち合わせなんだよな?」
「そうだよ」
義彦が訊いてきたので、啓一はそう返した。
二人が通う上祭中は、規則がかなりゆるく、旅行なんかも生徒で決めていたりする。
今回も「受験前にもう一回楽しく過ごしたい」という3年生の申し出を聞いた3年担任の横川将晴が自腹で連れて行く、と言ってくれたのだ(もちろん許可は取ったらしい)。
「でも…だるいよな…旅行自体は楽しみだけど…」
義彦が、吐いた息を白くしながら呟いた時だった。
「オッス、義彦、啓一!」
後ろから狩野貴仁が飛びついてきた。
「こ、こら貴仁! あぶねーって!」
啓一は、貴仁に向かって言い、貴仁がニシシ、と歯をむき出しにして笑った。
そこで気付いた、すぐ後ろに、国吉賢太がいたことに。
賢太はいつもと同じだった。柔和な感じで微笑んでいた。
「相変わらず面白いよね、皆」
「そうか? 時々貴仁が弾け過ぎてんのには迷惑してるぞ」
「あっ、ひでえよ義彦ー!」
「アハハハハ!」
そのまま四人で笑った。そこで啓一はあることに気が付いた。
「あれ? そういやコースケは?」
そう、いつもは貴仁や賢太と一緒に通学している白鳥浩介がいないのだ。
「さあ、俺は知らないけど」
「僕も見てないね…」
貴仁と賢太が揃って言った。
「まあ、先に行ってるんじゃないか? コースケの奴、旅行って聞いて大喜びしてたから…」
義彦がそう言うと、何となく啓一も、「多分そうだろう」と自然に思っていた。
やがて四人は、学校に辿り着いた。
時計は8時20分を指している。
「なあ、今ふっと思ったんだけどさ…うちの学校って…ぼろいよなあ…」
貴仁が呟いたのを聞いて、啓一は、―確かにそうだ、と感じていた。
最近、中学校の校舎は鉄筋コンクリートになっているものが多いようだが、上祭中は未だ、木造の小さな何年前から建っているのかよく分からない木造校舎を使っている。
さらにクラスも各学年一クラスしかなく、ここ数年の生徒数がかなり多くなっても増改築のための金が無いからか、教室を増やさずにいる。
そのため、啓一たちも男女四十二人で一クラスのみ、という状態になってしまった。
―もっとも、こんなことになったのも、五年前のあの事件のせいなんだけどな…。
―大東亜共和国主要都市破壊テロ事件。
啓一はその言葉を頭に浮かべたとき、テレビで五年前、十歳の時に何度も見て脳裏に焼きついたその凄惨な現場映像を思い出した。
この東洋の全体主義国家、大東亜共和国の各地主要都市を突如襲った爆破テロ。
死亡者約500万人。負傷者重軽傷合わせて約1000万人。行方不明者約200万人という、過去最悪の事件。その後反政府組織「紅の星」から犯行声明が出たため、政府はこれをテロ行為と判断。しかし現在も首謀者を捕らえるまでには至っていない―。
啓一はこの事件について知っている情報を全て引っ張り出した。
―もともとこの国には反政府組織は多かったが、ここまでやらなきゃいけないような、酷い国だろうか?
そんな風に啓一は考えていた。
それほど暮らしにくいわけでもないし、こうやってささやかながら、幸せに暮らせる。それなのに何故、テロ行為を行わなければならないのか?
それが、啓一には分からなかった。
とにかく、あのテロがあった直後、肉親を亡くしたりしてこの町のようなところに疎開―とでもいうのだろうか、とにかく引っ越してくる人がたくさんいた。
―そういえば、義彦や焼津洋次(男子19番)もその頃に引っ越してきたはずだ。じゃあ、義彦も焼津洋次も肉親を亡くして此処に? ―いや待て、引っ越してきた奴のほとんどが、精神バランスを崩していると聞く。でも義彦や焼津洋次にはそんなところはないじゃないか?
―俺、何考えてんだ?
そんなことを考えているうちに、教室の前まで啓一たちはやってきていた。
―まあ、そんなことはどうでもいい。今は関係ない。とにかく、今やることは旅行の打ち合わせ、それ以外に何にもなし!
啓一たちは、教室のドアを開けて、中に入った。
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