BATTLE ROYALE
誓いの空


中盤戦
Now12students remaining.

第15話

 C−5の森の中を、石城竜弘(1番)は歩いていた。
 竜弘は立ち止まり、左手の腕時計をチラッと見る。文字盤は午前5時50分を表示していた。
「あと10分で、放送か…」
 そして竜弘はまた、右手にある探知機に目をやり、また歩を進め始めた。
 途中で逸れた
佐野雄一(4番)鈴木政仁(5番)が何処にいるかははっきり言って分からない。斜面を転げ落ちた際、探知機の探知範囲から二人は外れてしまったのだ。
 とにかく西へ西へと、竜弘は歩いていた。そしてとうとう、C−2の貞川家まで辿り着いた。
 すると、竜弘はあることに気が付いた。貞川家の中に首輪の反応が二つあるのだ。
―これは…誰かいるのか!?
 だが、その反応は動かない。ひょっとして、死体なのだろうか。だとすると、雄一と政仁の可能性も十分にあった。
―雄一とマッシーじゃないだろうな…?
 竜弘は入口に向かって走った。そして貞川家の玄関に入り、反応がある部屋を探した。
 やがて、反応が貞川永次の書斎からしていることに気が付いた竜弘は、意を決してその書斎に入った。だが、すぐに竜弘は猛烈な吐き気に襲われた。
 そこは、猛烈な血の匂いが漂っていた。そんな中で全身を撃ち抜かれた
鶴見勇一郎(6番)東野博俊(8番)の死体が転がっていた。
―全身を撃たれたのか…だとすると…また俊希?
 竜弘はまず、自分たちを襲った
大谷俊希(2番)が二人を殺した、と考えた。
―いやでも、他にマシンガンを持ってる奴がいたかもしれない…俊希だと決め付けることはできないよな…?
 竜弘は俊希犯人説を捨てた。まだ竜弘は俊希のことを信じていたかったのだ(もっとも、二人を殺したのも俊希だったが)。
 だがそこで、竜弘は妙なことに気が付いた。勇一郎と博俊がここにいるということは、
能代直樹(7番)は何処に行ったのだろうか? 三人は番号が並んでいたのだ、合流しなかった、などということはないだろう。
―ひょっとして、能代が二人を? いやしかし…能代がそんなことをするだろうか?
竜弘はどんどん分からなくなってきた。ただ、可能性を探っているだけなのに。なのに人をどんどん疑っていくような気がするのだ。
―くそっ! こんなんじゃ駄目だってのに…!
 その時、竜弘は床に血の足跡を二つ見つけた。おそらく二人の血を踏みつけてできたのだろう。一つは勇一郎と博俊を殺した人物のものだろう。そしてもう一つは二人と一緒にいた人物…つまり、直樹である可能性は高かった。
 しかもその二つの足跡は、一人がもう一人を追っているものだった。
―能代!
 竜弘は足跡を追うことにして、すぐにその場を飛び出した(その前に勇一郎と博俊の亡骸に手を合わせておいたが)。

 足跡は北に向かって続いている。
 竜弘はその足跡を探しながら慎重に足を進める。そしてB−2の森の中に入った。
 もし追われていた方が直樹でしかも無事だったとしたら、仲間にできるかもしれないし、心強いのは間違いなかった。
 そこでふと、竜弘は立ち止まった。
 足元に、少し血に濡れた紙切れが落ちているのを発見した(それは、勇一郎が見つけた『インパール5号』の図面で、直樹が逃げる途中に落としてしまった物だった)。
―何だ…これ…?
 竜弘は手にとって見たが、何かの図面らしくよく分からなかった(もともと機械とかはさっぱり駄目なのだ)。
―ひょっとしたら能代が落とした物かもしれないし…持っとくか。
 そう思って竜弘は、紙切れをポケットに突っ込んだ。
 その時だった。
『ガシシ、ガシシ、ビバガシシ、クロマニヨン人! ガシシ、ガシシ、ビバガシシ、ガムは最後飲む!』
 いきなり、変な歌が流れてきた。それがあの時、教室にいた兵士、羽縄の声だと気付くのに竜弘は少し時間がかかった。
『皆さん、おはようございます。担任のガシシです。皆元気か? 6時になったので、最初の放送になります』
 竜弘はその場に座って、支給品の中にあった地図と名簿を取り出した。
『まずは、これまでに死んだお友達の名前を発表します…えっと、何順だっけ?』
『死んだ順番ですよ、ガシシさん』
 羽縄の声が混じった。
『あっ、そうか。じゃあ、死んだ順番に発表します。まずは9番、
船石裕香さん。14番、山吹志枝さん。5番、鈴木政仁君
「えっ?」
 竜弘は思わず呟いた。
―マッシーが、死んだ? あのマッシーが? おいおい…冗談やめてくれよ…。
「嘘だろ!?」
 思わず口をついて出た言葉だった。竜弘の中では、政仁は到底死にそうにない男、と認知されていた。
―そんな…マッシーが…!
 そこで竜弘は、まだ放送が続いていることに気が付いた。
『6番、
鶴見勇一郎君、8番、東野博俊君。以上5名。次に禁止エリアを言います。だからちゃんと聞くように』
 竜弘は地図を見つめた。
『まず、7時から、F−2』
 そこは、この殿場島で唯一の港がある場所だ。少なくとも、今の竜弘には関係無さそうだった。
『次に、9時から、H−5』
 これはこの島の最南端にあたる場所だ。これも竜弘には関係がない。
『最後に、11時から、C−6』
 ここは出発地点の学校のすぐ裏手の森だ。これも問題は無さそうだ。
『これで放送は終わりです。皆さん頑張って殺し合って下さい。それじゃまた、生きてたら次の正午の放送で』
 それだけ言うと、もうガシシの声はしなくなった。すぐに竜弘は立ち上がった。
―大丈夫だ、頑張れ俺! マッシーは確かに死んだ、でもまだ雄一が残ってる。それに、能代だって死んじゃいない! 希望はまだあるはずだ!
 そう自分に言い聞かせて、竜弘は直樹の足取りを追って、また歩き始めた。
 すぐに竜弘は、A−2までやってきた。そこは、何かが爆発したような痕があり、辺りにまだ焦げ臭い匂いがたちこめていた。さながらそれは、昔竜弘が祖父の持ち物の中に見つけた、戦場写真のようだった。
―ん? 爆発物…!
 そこで竜弘は、俊希が手榴弾を持っていたことを思い出した。この場所も何かが爆発した痕があるということは、俊希が直樹を追っていた可能性が高い。
―俊希…お前…。
 だが仮に俊希が手榴弾で直樹を攻撃したとして、その直樹は何処へ行ったのだろうか? 死んでいないとなれば、ここから逃げ出したのだろうが、どうやって俊希に見つからずに逃げ切ったのだろうか?
 それが分からなかった。
 竜弘は直樹の行き先を考えながら、崖に近づき、眼下に広がる瀬戸内海を眺めた。綺麗だった。この海で、自分たちは育ったようなものなのだ。
 そんなことを考えながら、竜弘は崖下を見下ろした。そこに広がる岩場に、何かが見えた。
 それは、デイパックとライフルらしきものだった。これが誰の持ち物か。それはもちろん…直樹しかいない。実際、探知機にも反応がある。
―能代!
 間違いなかった。直樹は俊希から逃げ、ここから落ちたのだ。そして俊希は直樹が死んだと思ってその場を去った…。
「能代!」
 竜弘は直樹の姿を必死で探した。だが直樹の姿は見えない。波にさらわれたのだろうか?
―どうやって…どうやって竜弘を助ければ…そうだ!
 竜弘はあることを思い出した。昔、この崖下の岩場に下りることが可能な坂道を見つけたことを。ほんの記憶の片隅に残っていたその記憶を。
―それを使って下に下りれば!
 すぐに竜弘はその坂道を探した。竜弘の記憶は確かだった。その坂道は確かに、目立たない場所にだったが、あった。
 竜弘は急いで坂道を駆け下りた。坂は急で、滑りでもしたら竜弘の身体は岩場に投げ出されかねなかった。だがそんなことは気にしていられなかった。クラスメイトがあそこにいるのだ。
 岩場に辿り着いた竜弘は、そこにあった直樹のデイパックとライフルを拾い上げると、探知機の反応を頼りに、直樹を探した。
 そして遂に、竜弘は直樹を見つけた。
 寒々しい表情の直樹は、岩場に倒れていた。海に落ちた後、岩場に這い上がって、意識を失ったらしい。
「能代! しっかりしろ! 能代!」
 竜弘は直樹の身体を揺すった。

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