BATTLE ROYALE
誓いの空


第14話

 窓に映りこむ、その姿。
 その相手の顔を見て、勇一郎は呟いていた。
「俊希…」
 その直後、窓の外に見えた人物―
大谷俊希(2番)は、窓に向けて右手に持ったマシンガンを向けてきた。
「まずい、逃げるぞ博俊!」
 勇一郎がそう叫ぶと同時に俊希のマシンガンが連続音をあげ、書斎の窓ガラスを粉々に砕いた。そして窓ガラスを貫通した銃弾のいくつかが、勇一郎に当たり、勇一郎がその場に崩れ落ちた。
「勇一郎!」
 博俊は勇一郎に駆け寄った。銃弾は勇一郎の胸部なども貫いていて、どんどんその銃創から出血し、部屋の絨毯を鮮血で染めていくのが見えた。
 正直、助かるとは思えなかった。
「博俊…これを持って、能代と逃げろ」
 勇一郎はそう言うと、博俊に先程の図面を渡した。
「え?」
「いいか、ノリを探すんだぞ…分かったな…」
 その言葉はそこで途切れた。勇一郎が全てを言いきる前に、割れた窓から侵入した俊希が、マシンガンの銃弾の雨を勇一郎に降らせていたのだ。
 勇一郎の身体が銃弾に抉られ、動かなくなった。
「ゆ、勇一郎…」
そして俊希のマシンガンの銃口が博俊に向く。その時だった。
「勇一郎! 博俊!」
 見張りに出ていた
能代直樹(7番)が、書斎に駆け込んできた。どうやら表で見張っていたようだったが、この部屋は裏口に近いので、直樹は俊希の姿を見ていなかったのだろう。そして銃声を聞いて駆けつけたといったところか。
「ゆ、勇一郎…一体何があった!?」
「の、能代…」
 博俊は直樹の方を見ると、図面を直樹の方に掲げながら言った。いや、言いかけた。
 勇一郎のときと同じく、俊希のマシンガンが火を噴き、博俊の全身を撃ち抜いたのだった。
 博俊の身体が崩れ落ちる。部屋中が鮮血で濡れる。そして俊希は、勇一郎の死体が握っていたコルトパイソンを拾い上げた。
「俊希…お前…」
 直樹は信じられなかった。あの俊希がこうして、殺し合いゲームに乗ってしまっている事実が。
―まさか俊希が? おいおい、コイツは無愛想だけど、人殺しなんて大それたことする奴じゃないぞ? 夢じゃないだろうな? 今までのそれが全て夢だとか…そんなんだったりしてな。
 直樹は珍しく、そんな逃避した考えをめぐらせていた。それだけ俊希がやる気になった事実は受け入れ難いものだった。
 だが俊希は言った。それは直樹にとって、到底信じられない一言だった。直樹の、俊希への信用を打ち砕いた決定的な一言。
「能代…俺の邪魔をするのか? なら容赦はしない。遠慮なくこの場で撃ち殺す。俺は殺して回らなきゃならないからな…」
 そう言って俊希はマシンガンの銃口を直樹に向けた。その声は感情の起伏を感じることができず、冷淡な口調だった。
 間違いなかった。俊希は直樹を殺そうとしている。そして全く躊躇はしていない。
 そうと分かった瞬間、直樹は素早く決断していた。そしてその決断がなかったなら、直樹はその場で本当に俊希に撃ち殺されていたかもしれない。勇一郎や博俊と同じように、全身に鉛弾を撃ち込まれて。
 直樹はその手に持ったステアーAUGを俊希に向けて、撃った。
 その一発の銃弾は俊希の左肩を掠め、俊希が僅かながら身じろぎした。
 その一瞬の間に直樹は博俊の死体の手にあった図面を素早く奪い、書斎から駆け出した。だが俊希もすぐに追いかけてくる。
 だが直樹は必死で貞川家の玄関から外に駆けていった。俊希と比べると直樹の方が足は速かった。事実、俊希の姿が遠ざかっていく。
―よし、逃げ切った…。
 直樹が森に逃げ込み、そう思った瞬間だった。俊希のいる辺りから、直樹の方に何かが飛んでくる。それが手榴弾だと理解するのに直樹は少々時間がかかった。
―くそっ! そんなモンまで持ってるのかよ!
 直樹は進路を変えた。その直後に手榴弾がさっきまで直樹がいた地面に着地し、猛烈な爆風を巻き起こした。その爆風に直樹も少し吹っ飛ばされたが、すぐに立ち上がった。
―絶対逃げ切ってやる!
 そしてまた走る。やがて直樹は殿場島の最北端、エリアで言うとA−2にあたる崖までやってきていた。
 走り続けて、直樹は疲れきっていた。膝に手をやり、息をつく。俊希の姿は見えない。
―逃げ、切れた…か?
 だがその直樹の考えは甘かった。そうやって油断した瞬間、直樹はまた、自分の方にさっきも飛んできた手榴弾が飛んできたのが見えた。
「何!?」
 直樹は必死で手榴弾を避けようとした。そして手榴弾が着地し…直樹の身体は爆風で吹き飛ばされた。
 そしてその身体が、空中に躍る。地が見えない。
 崖から落ちたのだ、と直樹が理解した頃には、直樹の身体は海に向かってまっさかさまに落ちていた。そして、一つの水柱があがる。
 それを見届けてから、俊希はその場を去った。まるで、クラスメイトを殺したことに感慨を感じないかのように。

 6番 鶴見勇一郎
 8番 東野博俊  ゲーム退場

 7番 能代直樹 生死不明
 序盤戦終了――――――――

                           <残り12人?>


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