BATTLE ROYALE
誓いの空


第17話

 殿場島に唯一ある、エリアで言うとB−7に存在する砂浜。
 そこに、
草川麻里(3番)は立っていた。麻里の視線の先には、ただただ広がる海。瀬戸内海しか見えない。霞がかった空模様の今では、本土を臨むことすらままならない。
 だがそれでも、麻里は海を眺める。
 今の彼女には、それ以外やることがなかった。
 もうすぐ、待ち人が現われる。待ち人が現われてから、彼女は二人でここから離れるつもりだった。
 だが、彼女は一つだけ気になっていたことがあった。待ち人のことだ。
―何故あの人は…あんな道を選んだのか…。

 砂浜より少し南には、松の木が防砂林として大量に植えられていた。
 その木の一本の陰に、
吉岡美佳(16番)は息を潜めて隠れていた。
 その手には、テトロドトキシン入りの注射器。標的は、砂浜で無防備にその全身を晒し、美佳に背中を向けている草川麻里。
―殺す…生き残るのはこの私…生き残るのに相応しいのは私…さあ、もっと隙を見せなさい! すぐにこの注射器の中の毒をあなたの首筋から注入してやるわ。
 もちろん、いくら麻里が無防備で、しかも何も持っているようではなくても、注射器を素早く近づいて刺す、などという行為をそう簡単にできるはずはなかった。
 しかし、そんな判断ができないほどに美佳は狂ってしまっていた。
 近くに人影はない。
 誰も自分のやることを止められる物はいない。
 美佳は確信した。
―優勝してやるわ…殺して…殺して…殺しまくってやるわ!
 美佳はニタァっと笑った。それはそれはおぞましく、醜く、狂気に歪んだ怪物のような笑みを。
 やがて、麻里が動きを見せた。何と麻里はその場に腰を下ろしてしまったのだ。
―なんて無防備なの? 馬鹿よあの娘! 本当に馬鹿よ! 何考えてるの? この状況で! 武器も持たずに座りこむだなんて! もらったわ! これで一人獲物ができたも同然よ!
 美佳はなるべく音を立てないように、麻里の方へと足を進めていった。
 少しずつ、少しずつ、麻里の方へと。
 その時、美佳は自分の後頭部に何かが押し付けられる感触を感じた。
 美佳はそっと、後ろを振り返ってみた。そこには、大きな回転式拳銃を(
鶴見勇一郎(6番)の持っていたコルトパイソンだった)美香の頭に押し付けている、大谷俊希(2番)がいた。
―なっ…何よ何よ何よ!
「吉岡…草川を殺そうとしていたのか…」
「うるさい! 私が生き残るのよ! お前も…お前も死ね!」
 美佳は叫ぶと、俊希に向かって注射器の針先を突き出した。
 だが俊希は素早く反応して、その注射器を右足で弾き飛ばした。そして俊希は美佳の右腕を持っていたマシンガン(麻里の支給武器で、ベレッタS21ペネトレーターというものだった)のグリップで思い切り殴りつけた。
 美佳の右腕は、その一撃で変形してしまった。
「い…痛いぃぃぃぃぃ!」
 美佳は何もかもを痛みで忘れてのたうち回った。その姿はもがく小動物のようで、何か無様だった。
「終わりだ、吉岡」
 俊希はそう呟くと、美佳の後頭部をコルトパイソンで撃ち抜いた。美香の頭は弾け飛び、生前のなかなか美しかった顔など分からないほどになった。
 もっとも、狂気にとらわれたその顔は、ちっとも美しくなかっただろうが。

「…草川」
 俊希は砂浜に座り込んだ麻里に話しかけた。
「…どうしたの? 今の音…」
「…悪い。ちょっと油断してたみたいで、吉岡に接近されていた。吉岡は狂っていたようだしな、始末しておいた。見ないほうがいいと思う」
「そう…ねえ、俊希君…本当に、良いの? 私…何か…嫌だよ…俊希君がこんな…」
 麻里が俯いて言った。その言葉に俊希は、動じることなく言った。
「いいんだ。約束しただろ? 俺はやり遂げるから」
「でも…」
「まあ、移動しよう。禁止エリアが近いんだしな」
 そう言うと、俊希は麻里の手を掴み、走り出した。麻里もそれに合わせる。
 正直、辛かった。自分が原因を作ったとはいえ、自分のために俊希が人殺しになることが。

 16番 吉岡美佳 ゲーム退場

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