BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第18話
「あ…ああ…あひゃあぁぁ!」
大谷俊希(2番)が吉岡美佳(16番)を殺し、草川麻里(3番)と共に立ち去る一部始終。それをたまたま見てしまった人物がいた。
美佳のその凄絶な死に様を見て、間抜けな叫び声を上げてへたり込んだ森木真介(12番)こそその人物だった。
―大谷もゲームに乗ったんだ…僕を助けた大谷が…。
真介は出発する前に、俊希に危ないところを助けてもらっていた。そして出発するときは、比較的楽観的でいられた。
出発前に、友人の宮崎紀久(11番)が言ってくれたのだ。
―皆こんなクソゲームに乗らないって、俺は思うぞ、と。
そこで真介は大切な友人の紀久と脇坂将人(17番)をとことん信用しようと考えた。それは俊希をはじめ、他のクラスメイトも同様だった。
―そうだ、皆で脱出してやるんだ! こんなゲーム、乗ってたまるか!
しかし、そんな真介を玄関で待っていたのは、紀久だけで、他のクラスメイトは一人としていなかった。
―嘘だ…。
絶望に打ちひしがれていた真介に、紀久が話しかけた。
―ごめんな、皆を…集めてやれなくて…。誰も…いなかったんだ…。
真介はその時、紀久に向かって叫んだ。
―ノリさん、嘘をついたな! 皆僕たちを信用なんかしてなかったじゃないか! 皆信用できないんだ! 皆敵なんだ! 紀久だって同じさ!
そしてその場を逃げるように走っていった。
さらに真介は見てしまった。今、自分の目の前で変わり果てた姿になっている吉岡美佳が、愛猫の死体を前に、醜い笑みを浮かべていた姿を。
この光景を見たことは、ますます真介の猜疑心をかりたてた。そして恐ろしくなってその場を逃げるように立ち去った。
だがそれでも、真介は深層心理では自分を助けてくれた俊希のことは僅かにではあったが、信用していた。それが真介の自我を保っている柱だった。
しかし今、俊希は吉岡美佳をいとも簡単に殺してみせたのだ。その眼は、教室で自分を助けたときの眼ではなかった。血に飢えた殺人鬼の眼だった。少なくとも真介の眼にはそう映った。
これをきっかけに、真介に自我を保たせていた『大谷俊希への信頼』という柱は轟音と共にあっけなく崩れ去った。
―あの大谷だって…あんな風に吉岡を殺せるんだ…。そうさ、皆優勝を狙ってるんだ! 『権利者』とかいうのになって生き残ろうとしてるんだ! 間違いない! なら僕だって…!
真介はすぐにデイパックの中を漁り、一本の鉄パイプを取り出した(これは夜のうちに真介が集落で手に入れたもので、実際の支給武器はマリオネットだった)。
―眼には眼を…歯には歯を…っていうじゃないか。皆がやる気なんだったら、こっちからやってやるまでだ…。
真介は立ち上がると、もと来た道を引き返し始めた。
その頃、真介のいるB−7の南、C−7に宮崎紀久と脇坂将人がいた。紀久は集落で調達したモップ(支給武器は10円玉が五枚で、ハズレとしか思えなかった)、将人は支給武器のバールを携えて。
「今…北のほうで銃声したよな…?」
将人が言った。
「ああ…聞こえたな…。叫び声なんかもしたような感じだった…」
紀久も言う。
「誰か襲われてるんだとしたら、助けないと!」
「…こんな装備じゃ、勝てるとは思えないけどな…」
紀久は呟いた。正直、紀久はほんの少し弱気になっていた。誰も待っていなかったことや、真介に嘘つきと言われ、逃げられたことが尾を引いていた。将人と合流することで少し気分を変えられたが。
「でも行くんだよ!」
将人が言った。
「俺は、助けを求めてる人を見殺しにはできないよ…」
将人のこの一言は、紀久の心の琴線を震わせた。
「…分かった。行こう」
「よし」
そして、いざ銃声のした方向へ向かおうとしたところだった。その方向から、誰かが歩いてくるのが紀久には見えた。
「将人…誰か来たぞ」
やがてその人物の顔がはっきりと見えた。それは、紀久の前から逃げるように走り去った友人、真介に相違なかった。
「し、真介…」
将人がそう声をかけた直後、真介が叫んだ。その眼は血走って、かっと見開いていた。
「寄るな! お、お前らだってやる気なんだろ!? そうだろ? そうに決まってるんだ!」
「真介! 俺たちはやる気なんてない!」
紀久は真介を説得しようと話し始めた。だがその言葉を真介が遮った。
「うるさい! 大谷だって…僕を助けた大谷だって、やる気なんだ! 冷たい眼をして、吉岡を簡単に殺したんだ! それなのに、何を信じろって言うんだよぉ!」
「俊希が…!?」
紀久には信じ難いことだった。あの大谷俊希が、そんな行為をするようには思えなかったからだった。
「とにかく、僕は生き残ってやる! みんなやる気なんだったら、殺される前にこっちからやってやる―!」
そう叫ぶが早いか、真介は手に持った鉄パイプを振り上げ、紀久と将人に向かってきた。
鉄パイプが紀久の頭部目掛けて振り下ろされる。だがそれを将人がバールで払った。
「邪魔するなぁぁぁ! 将人、お前から先に殺してやる…!」
真介がそう叫んで鉄パイプを再び振り上げた瞬間、紀久は気付いた。真介の背後に、何者かが忍び寄っていることに。
「危ない真介! 逃げろーっ!」
そう言われた真介が一瞬だけ振り返ったときだった。背後の何者か―横溝朋美(15番)が横薙ぎに振るった斧が、真介の首に刺さり、引き剥がされた。そして声も上げずに首から鮮血を吹き出しながら崩れ落ちた真介の首にまた朋美の手によって斧が振り下ろされ、真介の首は胴体から切り離されてしまった。
「真介…」
紀久は、真介を殺した朋美を見据えた。その眼は静かに紀久を見つめていた。
すると不意に、将人が紀久の腕を掴んだ。
「ノリさん、逃げるぞ! このままじゃ俺たちも危ない! 真介が死んだのが辛いのは分かるが…逃げるぞ!」
「わ、分かった」
そして紀久は将人と共にもと来た道を走って戻り始めた。朋美は別に追って来ることはなかった。
12番 森木真介 ゲーム退場
<残り10人>