BATTLE ROYALE
仮面演舞


第39話

 正直、気付かれるとは毛ほども思っていなかった。
『私』がシバタチワカ本人では無い『証拠』はうまく隠したつもりだったが…この男、旭東亮二は気付いてしまったようだ。
『私』は足元でもう動かなくなった亮二の死体を見下ろしながら、思った。

―意外と、頭が使えたようだ。

 そう思いながら、『私』は亮二が持っていたコルト・ガバメントをその手から剥ぎ取り、傍らのデイパックから予備の弾を回収した(スリングショットも見つけたが、必要は無いと思って放置しておいた)。
 次に、雪の中に突き刺さっていた日本刀を抜き、外していた仮面を着け直す。
 それらの一連の作業をこなしながら、『私』はこれまでのことを思い返していた。

 あれは出発してからしばらく経った時、移動中だった『私』は背後に気配を感じて、振り返った。
 直後、背後にいた人物―本物のシバタチワカは『私』の口を塞ぐと、話しかけてきた。
―あなたに、話があるの―。

 シバタチが『私』に話した内容は、あまりにも衝撃的なものだった。そして同時に『私』の心に、激しい絶望と無力感、殺意が湧き上がってきたのを感じた。
 シバタチは『私』にあることを言ってきた。自分の代わりにシバタチとして、復讐してはくれないか、と。
 正直な話、迷った。
 復讐心は芽生えていた。それは間違いない。だが同時に、『私』は『私』自信の不甲斐無さに腹を立てていた。
―『私』は、愚かな人間だ―。
 そんなことを思った。そして『私』はシバタチに言った。
―復讐はしたい。だけど『私』はその事実すら知らずにのうのうと生きてきた。だからそんな『私』を、殺してほしい。
 しかし、シバタチは言った。
―死ぬのは勝手。でもね…あなたは奴らの罪を許せる? 許せないはずよ。悪意なき悪の業が深いことを、思い知らせるべきだとは、思わない?
 その後、しばらくの間シバタチに説得された。
 そして『私』はシバタチから仮面と日本刀を譲り受けた。『私』その時から『私』とシバタチワカの二役を演じることになった。
 しかし一つだけ言えることがある。『私』は決して、シバタチやその裏にいる人間の思うようには動かない―。

 あれから、随分と時間が経った。シバタチは死んだこととして放送された。『私』は、なかなか凝った演出をするな、と思っていた。
『私』はシバタチを演じるための準備を整えて、復讐を行ってきた。
大元茂(男子3番)成羽秀美(女子10番)水島貴(男子18番)、そして旭東亮二…。
 正直、旭東亮二には手こずらされたが、まだ自分には神が憑いていることを亮二の死を確認した瞬間確信した。
―神は神でも、死神が憑いている。これは間違いない。
『私』は、常にそう感じている。

 仮面を着け終え、『私』が日本刀を再度握りなおす。その時だった、『私』が何者かの気配を感じたのは。
『私』は気配のするほうに向かってルガーの銃口を向け、撃った。
 銃弾は雪の中に突き刺さり、それに驚いたのか気配の主が木の陰から姿を現した。その人物―
至道由(女子6番)は、ガタガタと震えながら旭東亮二の死体と『私』を見比べている。
「な、何…これ…あなた…」
―殺す。殺してしまえ。大罪人を、裁け!
『私』の心が、深層心理が、そして『私』に憑いている死神が叫ぶ。彼女を、殺してしまえと。
 ルガーの銃口を、再び由に向ける。由はビクッと身を竦ませると、踵を返して走り出した。『私』はそれを追う。ルガーを撃つ。撃つ。撃つ。
―何としても、殺す。
『私』は撃つ。彼女の―渡場智花の弔いのために。そして、あの時無力だった自分を痛めつけるために。


「―『彼女』が、男子5番を殺害。さらに女子6番を追っているようす」
 作東京平二尉は、そう言いながらソファーに座っている福浜幸成(岡山県岡山市立央谷東中学校3年C組プログラム担当教官)に歩み寄った。
「…そうか。しばらく動きがなかったが、遂に…。先が楽しみだよ」
 福浜はそう言ってテーブルの上にあったカップを取り、コーヒーを啜る。
「『彼女』は、非常によく動いてくれますね」
 傍らの犬島繁晃三佐が呟く。
「正直、私は『彼女』のことをよく知っていただけに辛かったのですが―、それは先生も同じでしょう?」
「勿論だよ。私は『彼女』が智花の死でどれだけ苦しんだか分かっている。しかし…我々の悲しみを晴らすにはこれしか方法が思いつかなかった。非道なことをしているとは思うよ」
「ええ…」
 二人のやり取りを京平が聞いているとき、モニタールームに浅口薫三曹が入ってきた。
「何か、あったの? 京平」
「ああ、君の後継者がまた動き出したんだよ」
「…『彼女』が?」
 薫が尋ねてきた。
「そう、今五人目を追ってるところだ。君が…本物のシバタチワカが仮面を渡した『彼女』がだよ」
 そう言って、京平はモニターに向き直った。
 はっきり言って、京平はまだ悩み続けている。本当に、自分たちはこれで良かったのかと悩む。
 しかし、もう後戻りは出来ない。それは間違いなかった。
 モニターでは、『彼女』の出席番号の反応が至道由の反応を追い続けていた。

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