BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第38話
刹那、シバタチの手に握られた日本刀が動いた。亮二は痛む腹を抱えながらも、それに反応してみせる。
閃光のように走るシバタチの太刀筋が、亮二がさっきまで立っていた場所を捉えていた。それに反応してかわした亮二をシバタチが見る。その眼は、人間の眼ではなかった。何か別の念に突き動かされる、怨霊の眼にも見える。
その時、亮二はあることに気付いた。
「待て…。お前、あの時ロッジにいた転校生じゃないな」
その言葉に、シバタチが反応したことに亮二は気付いた。それで亮二は確信した。
―こいつは、あの転校生とは別人だ!
それは間違いないだろうことだった。亮二は瞬間的に気付いた。相手があのシバタチワカでは有り得ないことの決定的証拠を見つけたのだ。おそらくは本人―このシバタチになりすましている『仮面』もそれに気付いていて、隠そうとしていたそれを。
―とにかく、俺は死んだりしない! 俺は強い、『帝王』なんだ。『帝王』に負けは許されない!
「―!」
瞬間、『仮面』が亮二目掛けて日本刀で斬りかかる。『仮面』はあっという間に亮二との間合いを詰めた。しかし、その胴ががら空きなのを亮二は見逃さなかった。
亮二はコルト・ガバメントを構え、撃鉄を起こした。その動作はあまりにも早く、『仮面』の仮面の奥の眼が驚愕に歪んだ。
思い切り引き金を引き、三発の銃弾を放つ。放たれた銃弾は『仮面』の胴へと向かっていき、赤いウェアに穴を開けた。『仮面』の身体が傾ぐ。亮二は勝利を確信した。
しかし、次の瞬間だった。
『仮面』は一瞬傾いだ身体を起こすと、素早く日本刀を振るった。
横薙ぎに振るわれた刃が亮二の左肩を捉え、その傷から鮮血が噴き出す。
「ぐあ…っ」
亮二は必死で痛みを堪えると、すぐに後ろへと飛び退いた。すぐにあの刃の間合いから退かなくてはならなかった。
―何だよ、あれ…。普通死ぬぞ、至近距離からあれだけ鉛弾喰らわされたら! まさか…銃の対策をしてるっていうのか…? くそっ!
―なら、狙うのは…!
亮二は再びコルト・ガバメントを構えた。狙うのは、首輪が着いているであろう喉。そこならば、防弾装備はしていないだろうと、亮二は踏んだ。
引き金を引き、再び銃弾を放つ。銃弾は正確に、『仮面』の喉を撃ち抜く…はずだった。
だが、『仮面』は銃弾が放たれた瞬間その身体を横に移動させていた。亮二は困惑するしかなかった。
―何だと!? 何で避けられるんだ! そんなバカなことが…。
直後、再び『仮面』が亮二との間合いを詰めてきた。今度は上段に刃を振るおうとしている。
―くそっ!
亮二は半ば自棄になって、コルト・ガバメントを撃った。すると、放たれた銃弾は『仮面』が振るおうとしていた日本刀の柄に当たった。衝撃で日本刀が『仮面』の手から飛び出すと、雪の中に突き刺さった。
やった、と亮二は思った。『仮面』は日本刀以外に武器らしい武器は持っていなさそうだった。多少なりともこれで優位に立てた。亮二がそう思っていた時だった。
『仮面』が、腰から一丁の拳銃を抜いて亮二に向かって構えた(その銃は水島貴(男子18番)が持っていたルガーP08だった)。
―マジかよ。まだ、奥の手があったのかよ…。
亮二はコルト・ガバメントの銃口をすぐに『仮面』に向けようとした。しかし、遅かった。
一瞬早く、『仮面』のルガーが火を噴いた。銃弾は亮二の胸を正確に貫いた。亮二の身体が、ゆっくりと崩れ落ちていくと、雪の積もった地に落ちた。
亮二はまだ辛うじて意識はあったが、もうすぐ自分が死ぬであろうことは悟っていた。
亮二は思った。
―お前は…転校生になりすましているお前は…一体何者…。
すると『仮面』が、その仮面を外し始めた。そしてその外された仮面の奥から現われた顔を見たとき、亮二は感じた。
―まさか…お前がやりやがるとは、な…。畜生…俺は、負け、るの、か…。俺は、ていお、う、なの、に…。
亮二は必死で、生きるためにもがいた。しかしそれらの努力は徒労にしかならなかった。やがて亮二の意識は深淵へと沈んでいった。
そしてそれっきり、亮二の意識は戻っては来なかった。
<AM10:35>男子5番 旭東亮二 ゲーム退場
<残り24人?>