BATTLE ROYALE
仮面演舞


第37話

 そこは、J−8エリア辺りに位置する林道脇の林の中。
 その林の中の一本の木にもたれ掛かって、
旭東亮二(男子5番)桑田健介(男子6番)のものだったコルト・ガバメントを手で弄んでいた。
 亮二は、二人を殺した。自分の取り巻きだった健介と、
柵原泰幸(男子9番)
 しかし、別に良心の呵責といったものは感じていなかった。

―あいつらは弱い。だから俺に殺された。それ以外に何があるって言うんだ?

 それが亮二の思いだった。


 幼い頃から、亮二の周囲には暴力が渦巻いていた。武闘派ヤクザとして知られていた男を父に持った亮二としては、それは当然のことだった。家には拳銃などもあり、偶然見つけたときには母に怒られた。
 父は強大な力を背景に大きな権力を得ていたが、ある日対立する組のチンピラ(こういうのを鉄砲玉、というらしい)に刺されてあっけなく逝った。
 その時、亮二は悟った。

―力が全てなんだ。死んだらおしまいなんだ。だから、他人を殺してでも自分は生きて…半永久的に力で君臨しなければならない。

 そして亮二は力で周りを制圧していき、やがて『帝王』と呼ばれるまでになった。


「……」
 亮二はコルト・ガバメントを腰に挿すと、ポケットにしまっていた煙草、ワイルドセブンを取り出した(この煙草は亮二がいつも吸っているものだったが、これが最後の一つだった)。
 そして一本を口に銜えると、ライターで煙草に火をつけた。煙草の煙が体内に入り、亮二の心を満たす。
 亮二は、大好きな煙草を吸いながら、自分の優勝を想像した。
―優勝以外、有り得ない。俺はここにいる奴らの中で一番強いんだ。死ぬはずが無ぇ。
 そんなことを思っているときだった。近くで雪を踏む音がしたのを亮二は聞いた。
 亮二は腰に挿していたコルト・ガバメントを抜くと、撃鉄を起こして音のした方向へと向けた。相手は撃鉄を起こした音が聞こえたのか、声をかけてきた。
「や、やめて、殺さないで! 私、やる気なんかじゃないから…!」
「そう言われても、お前が誰なの分からねぇんじゃ、殺すしか無いぜ?」
 亮二は煙草を銜えたまま、声の主に向かって言った。
「わ、分かったわ。今から出るから…殺さないで」
 そう言って木の陰から出てきたのは、
美星優(女子12番)だった。背中に両手を回して立っている。
「お願い…殺さないで。その…何でも、するから」
 優のその言葉を聞いて、亮二の心に性欲が湧き上がってきた。
 優は女優をやっているほどの美少女だったし、正直言って亮二の好みのタイプの女子だった。
「ほう…何でもするのか…」
 そう言って亮二は優に近づいた。
―どうせだから、ここでひとつ頂いとくか。楽しみだって必要だしな…。
 その瞬間、優の背中に回っていた手が動き、亮二は腹部に痛みを感じた。そして見ると、亮二の腹からレイピアが生えていた、いや、刺さっていた。そしてそのレイピアの柄を、優が握っていた。
「て、てめぇぇぇェェ」
 亮二が吼えたその瞬間、優はレイピアを抜いた。血液が噴出し亮二の身体が少しふらつく。優が言った。
「誰があなたなんかに触れさせるもんですか。しかし少しふらつくだけなんてさすがに強いわね。さすがは『帝王』ってところかしら」
「殺してやる…」
 そう呟いて、亮二はコルト・ガバメントを構えた。更に優は言う。
「殺されてたまるもんですか。私だって生き残りたいの」
 そして亮二が、優目掛けてコルト・ガバメントの引き金を引こうとした瞬間、優は何かに驚いた表情を見せると、走り去っていった。 亮二は二発ほどガバメントを撃ったが、優に当たることは無かった。
―ちくしょう、ふざけやがって…ぶっ殺してやる!
 優に対して亮二が、激しい殺意を抱いた時だった。亮二は背後に気配―殺気のようなものを感じて、振り返った。そして亮二は驚愕した。
「ば、馬鹿な…!」
 そこには、白刃を煌かせた日本刀を右手に持った美しい黒髪の仮面の人物―そう、放送で既に名前を呼ばれたはずの
シバタチワカ(転校生)がいた。
仮面の奥の眼が、歪んだ気がした。

                           <残り25人?>


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