BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第36話
「まあ、どうぞ?」
龍彦にそう促されて、光恵は扉を開けて中に入った。早紀もそれに続く。
結局あの後、光恵は龍彦の誘いに乗って彼の言う隠れ家―A−9エリアにあるロッジに早紀と共にやってきていた。
それは、龍彦の話というのが気になったこともあったが、正直、早紀の言葉に心が動いたのもあった。あれだけ固かった決意が、早紀によって軟化していくのが感じられた。
―早紀には負けたよ、全く。
そんな思いだった。
中に入ると、ロッジの中はスタート地点のあのロッジよりは規模が小さいものの、比較的小奇麗にしてあって、設備も揃っているようだった。
そして龍彦に促されつつ、食堂へと入っていくと、そこのテーブルについていた男子生徒がこちらに気付いて立ち上がり、近寄ってきた。
「龍彦、仲間が出来たのか?」
その男子生徒―灘崎陽一(男子14番)は、龍彦に話しかけてきた。
「ああ、まだ確定じゃないけどな」
「そう…でも、ここに来たからにはやる気じゃないってことだよな?」
陽一がそう言って満面の笑みを浮かべた。その笑顔はプログラムのプレッシャーで少し疲労が見えるものの、いつも通りの明るい陽一のものだった。
確かに、光恵も早紀も、やる気が無いのは確かだ。しかし、早紀はともかく光恵は、まず龍彦たちの話を聞かないことには、仲間になどなれそうに無かった。
「…それで、話って言うのは何?」
光恵は、陽一の隣に座った龍彦に聞いた。
「ああ、これから話すよ。とにかく、二人とも座って」
龍彦にそう言われて、光恵も早紀も二人と向かい合う形に座った。そして龍彦が話し始めた。
「俺はスタート前から、この会場から逃げ出す方法を考えてたんだが、ひとつの計画を思いついたんだ」
―えっ!?
光恵は驚いた。まさか龍彦が、スタートする頃に既に脱出の方法を考えていたということに。しかし、龍彦の知識量や頭の回転を考えると、別段不思議にも思えない。
「その計画を実行するのに、俺は仲間を探してた。そしてスタートしてしばらくしてから、陽一と合流した。ちなみに俺の武器はさっきから持ってるこの拳銃で、陽一は指揮棒だったよ」
そう言うと、龍彦はテーブルに置いていた拳銃、ニューナンブを指差した。そして続ける。
「陽一以外の仲間を求めているところに、二人が現われたんだ。全くありがたかったよ」
「他には、いなかったの? 合流してくれる人」
早紀が問いかけた。
「最初、貴と秀美ちゃんにも声をかけたけど、貴は話に乗ってはくれなかったよ」
「そういえば、水島君と秀美…」
「二人の死体なら、俺も見たよ。銃声が聞こえて行ってみたら…見つけた。二人の死体を。銃は見つからなかったけどな。殺した奴が持っていったんだろう」
そこで光恵は気になったことがあった。そして龍彦に言った。
「何で、水島君と秀美が銃を持ってたって、分かったの? 最初に合ったときに確認したの?」
「…いや、最初は確認してない。直前に貴たちに会ったっていう粟倉に聞いたんだ」
―粟倉貴子(女子1番)が?
光恵は何故そこで貴子の名が出てくるのか分からなかった。貴子は別に貴や秀美とは親交が無かったはずだからだ。
「貴たちはやる気になってたらしい。それで粟倉は追われてたってわけだ。その後で妹尾にも襲われてたところで会ったんだ」
「じゃあ、何で粟倉さんとは合流しなかったの?」
早紀が聞く。
「ああ、粟倉は上斎原たちと合流する約束をしてたそうでな。でも、上斎原たちにあったらここを教えて、合流するそうだ」
「そう…」
「あと、念のために持ってる情報を今のうちに教えておくよ。俺たちが知ってるやる気になった奴は、妹尾と美星だ」
「妹尾君はさっき話に出てたから分かるけど…美星さんも?」
光恵は聞いてみた。正直、妹尾純太(男子11番)がやる気になるのは分からないでもない。しかし、美星優(女子12番)がやる気、というのは分からなかった。
「ああ、陽一がスタート地点で芳泉を殺したところを見たらしい。注意が必要だろうな」
「…ありがとう。で、肝心の逃げ出す方法って?」
そう言うと、陽一が答えた。
「もう、話した方が良いんじゃない? 龍彦」
「…そうだな」
龍彦がそう言って、少し姿勢を直したときだった。何か物音がロッジの玄関から聞こえてきた。
―誰か、来た?
光恵は少し身構えた。隣の早紀も、少し身を強張らせた。
「ちょっと、様子を見てくる。陽一、行くぞ」
「ああ」
そう言って、龍彦は陽一を連れて玄関の方へと向かった。そしてしばらく経った時、龍彦と陽一が一人の男子を連れて戻ってきた。
「児島だったよ。児島がドアを叩いてたんだ」
陽一が言うと、二人に連れられて入ってきた児島真一郎(男子7番)が、光恵たちの方を向いた。
その時、真一郎の顔が一瞬緊張が解けて緩んだ。しかし、すぐに元に戻っていた。少しそれが気になった。
「ボディチェックもした。児島の武器らしい物はこれしかなかった」
龍彦がそう言うと、ジッポライターをひとつ、光恵たちに見せた。
「…そろそろ返してくれないか? やる気じゃないことは分かっただろ?」
真一郎が言う。確かに、光恵にも真一郎に殺気のようなものは感じられなかった。だが、まだ信用して良いものかどうかは分からなかった。
「俺はやる気なんかじゃない。誓ってもいい。信じてくれ」
真一郎が更に言う。そして龍彦はしばらく真一郎を見た後、言った。
「大丈夫、別に俺は児島を疑ってはいない。お前がやる気になりそうも無いってことは分かってるつもりだ」
「…そうか、ありがとう」
真一郎はそう言ってしばらく黙った後、龍彦に聞いた。
「なあ、俺も仲間にしてくれるか?」
「ああ、歓迎するぜ?」
「ありがとう」
そう呟くと、真一郎は陽一に促されてテーブルについた。そして龍彦が全員を見回して言った。
「さて…それじゃあ、新しい仲間も出来たことだし、最初から話そう」
<残り25人?>