BATTLE ROYALE
仮面演舞


第41話

 もう結構な距離を走ったはずだった。しかし、あの『仮面』はまだ後ろにいる。いやそれどころか、どんどん距離を縮めているようにも、至道由(女子6番)には見えた。
 雪に足をとられながらも、追ってくる
シバタチワカ(転校生)
―しかし。
 由は思った。シバタチは確か、最初の放送で名前を呼ばれていた。つまり…死んでいるはずだった。
 ということは、今自分を追っている『仮面』は―別人ということになる。

―じゃあ、あれは誰? あの、倒れてる旭東君を見下ろしてた『仮面』は、誰?

 答えは出ない。分からない。
 由は恐怖と戦いながら走る。背後から雪を踏む音が聞こえてくる。由の心臓の鼓動が早くなっていく。怖かった。ただただ怖かった。
 その恐怖は、
木之子麗美(女子4番)が殺され、伊部聡美(女子2番)と共に逃げた時より、その聡美が鯉山美久(女子18番)に殺された時(由は聡美が殺される様は見ていなかったが、きっと殺されてしまったと思っていた)のものとは違った。
 あの時も由は恐怖した。しかし今味わっている恐怖の正体が、分からない。
 背筋が凍りつきそうだった。
「助けて…助けて…!」
 由は一瞬振り返った。背後から追ってくる『仮面』が、拳銃―ルガーを由に向けた。
 直後、銃声が響いて、由は足に痛みを感じた。下を向くと、ウェアの右足部分に穴が空き、じわりじわりと血が染み出し始めていた。
「うっ…」
 その痛みに由は顔をしかめて、撃たれた足を押さえた。しかし、それがいけなかった。
 そのほんの一瞬の間に、『仮面』は由に接近していた。由はそれに気付いて後ろに避けようとしたが、既に遅かった。
『仮面』は素早くルガーを腰にしまい、日本刀を両手で握り袈裟懸けに振るった。白刃が糸状の閃光となって煌くように、由は見えた気がした。
 その刃は由の小さな身体を左肩から右腰へとかけてバッサリと切り裂いた。鮮やかに切り裂かれた切り口からは、由の新鮮な血液が迸る。
 痛みは不思議と無かった。激しく噴出す血液にあまり驚きは感じなかった。もう感覚が麻痺している。既に三つも死体を見たのだから無理は無い。
 しかし、やはり血が出すぎたようだった。
 由の意識は徐々に薄れていった。膝が崩れ、雪の上に倒れていく。最後に見えたのは、『仮面』が何故か止めを刺さずに去っていく姿だった。

 しばらくして、由の意識は現実へと帰ってきた。
 身体は意識を失う前と同じように、雪の上にうつ伏せに倒れている。身体の下は血で真っ赤に染まっていた。
 初めて痛覚を覚える。『仮面』に斬られた身体が痛む。しかし由は、力を振り絞って立ち上がった。今いる場所は分からないが、目の前には山が見える。そしてその中腹に立つ一軒の山荘。
 そこを目指して由は歩き出した。足取りはふらついていたが、そんなことを気にする余裕は無かった。
 由が目指すもの、それは―目の前で死んだ麗美、自分を逃がそうとした聡美。彼女たちの―親友たちの代わりに生きることだった。

―私の命は―私だけのものじゃない…。

 由はゆっくりと歩を山荘へと進めていった。


 それとほぼ同じ頃、
粟倉貴子(女子1番)は目的地―C−1エリアに佇む山荘を目前としたエリア、ロープウェイ乗り場があるD−2エリアまでやってきていた。
 少し前まで、貴子はあのショットガンの何者かとの追いかけっこを続けていた。
 相手はしつこかった。姿はなかなか見せようとはしなかったが、確実に貴子を追いかけていた。だが、貴子は一旦南の方角へ全力で走り、素早くUターンすることで相手を撒くことに成功した。
 その分疲弊した貴子は再度休息を取っていた。その結果、貴子の山荘への到着は更に遅れることになってしまった。
 貴子はしっかりした足取りで山道を登り始めた。
―もう少し…もう少しで雪たちに会えるんだ…!
 逸る気持ちを抑えながら登り続ける。そして遂に、貴子は山荘の前までやって来た。
―ここだ。
 そして貴子が玄関口へと近づこうとした時、ふいに声をかけられた。
「…貴子?」
 声に気付いて貴子は振り返った。するとそこには、貴子の親友の一人の
幸島早苗(女子5番)が立っていた。その手には自動拳銃―ブローニングハイパワーだったが握られていたが、その銃口は下を向いていた。
「やっぱり、貴子だ…」
「ごめんね、遅くなって。でも、ちゃんと来たよ」
「うん。中に入って」
 そう言って早苗は貴子を玄関口へと促した。促されるままに貴子がドアを開けて中に入ると、中には四つの人影があった。そしてそのうちの一つが近づいてきた。
「貴子!」
 その人影―
上斎原雪(女子3番)は、相手が貴子だと確認すると貴子へと駆け寄ってきた。
「貴子ぉっ! もう、会えないかと思ったよ…」
 雪が貴子に向かって言う。
「うん、ごめんね、ホントに…」
「でも、これで全員揃ったんだね」
 そう言って、残る三つつの人影の一つ―
益野孝世(女子14番)がやって来て、言った。残る二人の玉島祥子(女子8番)吉井萌(女子17番)もやって来た。
「貴子ちゃんが無事で、ホントに良かった…。皆心配してたんだよ?」
 萌がいつもの口調で言う。相変わらずだ。
「誰かやる気の人にやられたりしてないかな、って心配したんだから…」
 祥子が呟く。
「うん…ホントにごめん」
 そこに雪が割って入ると、言った。
「とにかく、今までに何があったが、貴子に教えて欲しいんだけど…良い?」
「別に、大丈夫」
 貴子が答えると、孝世が立ち上がった。
「孝世、どうしたの?」
「話、するんでしょ? なら見張りしてる早苗も呼ばなきゃ。だから行って来るね」
「ありがと、孝世」
 雪がそう言うと、孝世はドアの外へと出て行き、やがて早苗を連れて戻ってきた。
「それじゃ、話してくれる?」
「分かった…話すわね」

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