BATTLE ROYALE
仮面演舞


第42話

 また少し雪が降り出してきた山荘の外、玄関口の前。
 そこで吉井萌は、外の見張りをしていた。さっきまで見張りは幸島早苗がやっていたのだが、交代の時間が来たので、萌と交代したのだ。
 萌は、その手に握られたもの…変わった形のマシンガンを見た。プロジェクトP90―もともとは益野孝世に支給された武器だったが、一番強力なのは間違いなかったので、見張り役がこれを持つことにしたのだった。
 さらに山荘の中には、早苗の支給武器だった拳銃もある。他の武器は上斎原雪が斧、玉島祥子が足踏み竹、そして萌は車のプラモデルと今ひとつだったので、この二つが守りの要になるのは間違いない。

 萌は、さっき合流してきた粟倉貴子が話した話の内容を反芻していた。
 貴子によれば、ここに来るのが遅れたのは、出発した後
浦安広志(男子2番)に追われたことと、少し前まで何者かにショットガンのようなもので狙われていて、それから逃げ切るのに時間を要したからだという。
 正直萌は、貴子の到着が遅かったこともあって心配でならなかったのだが、その代わりに貴子は多くの情報を持ってきてくれた。
 貴子の知る限りでは、今のところやる気になっているのは
赤磐利明(男子1番)妹尾純太(男子11番)美星優(女子12番)らしかった。ただ美星優については、人伝に聞いた話だというから何処まで本当かは分からないだろうとも思った。
 そして一番良い情報。
政田龍彦(男子17番)が、脱出の計画を思いついているということ。
 それに乗ることが出来れば、脱出も不可能ではないはずだ。この話を貴子から聞いたとき、萌たちは喜びを隠せなかった。
 絶望的だと思っていた脱出が、現実のものになるかもしれない。そう思うと、萌は心が騒いだ。

―脱出が出来る…出来るんだ! 萌も、貴子ちゃんも、雪も、早苗も、祥子ちゃんも、孝世も、他の皆も!

 とりあえず、龍彦の計画に乗るか乗らないかの話し合いの結果、全員一致で乗ることが決まった。そして正午の放送の後、龍彦の待つA−9エリアへと移動することが決まった。
「……」
 萌は山荘の方を振り返る。さっき時間を確認したところ、時間は11時12分だった。正午が待ち遠しかった。

―早く、正午にならないかなぁ…。

 萌がそう思ったとき、萌の視界に人影が入ってきた。その人影は、山荘へと続く山道を登って近づいてくる。
―誰? やる気の人だったらどうしよう…! 萌まだ死にたくないよ、死にたくないよ…!
 手に持ったプロジェクトP90を人影に向けた。その時、人影が萌に向かって話しかけてきた。
「ちょっと、そんなもの向けないでくれ」
 はっとして、萌はその人影を見た。その人影の正体―
西大寺陣(男子8番)が、トンファーを持った両手を天に掲げて、萌の前に立っていた。
「じ、陣君…!」
 萌は慌てて銃を下ろす。
「吉井…? あっ、そうかここ、上斎原が言ってたところだな」そう言って陣は手を下ろした。
 そこで萌は、上斎原雪が
大元茂(男子3番)に襲われたとき、陣が助けてくれたらしいことを思い出した。
「ってことは…貴子もいるのか? ここ」
 陣が聞いてきた。やっぱり、と萌は思った。貴子の恋人の陣が、雪に貴子がここにいると聞いて気にならないはずがないからだ。
「うん、さっき来たよ。何なら、貴子ちゃん呼んで来ようか? それとも中に入る? 貴子ちゃん、きっと喜ぶと思うよ」
 そう言うと、陣は首を横に振った。
―…え? 何で?
 萌には、陣が貴子と会うことを拒む理由が分からなかった。一度会った雪によれば、陣は『やらなきゃいけないことがある』と言っていたという。
「…やらなきゃ、いけないことってやつ?」
「上斎原から、聞いたんだな」
「うん」
 陣は少し天を仰ぐと、やがて言った。
「その通りだ。俺のやらなきゃいけないことはまだ、できてないんだ。それができるまでは…俺は貴子とも、周平とも、重宏とも合流はできない」
「そう…なんだ」
「とにかく、貴子が無事かどうかだけ知りたかったんだ。それだけだよ。じゃ」
 陣はそう言って立ち去ろうとした。
「ねぇ」
 萌は呟いた。それが聞こえたらしい陣が、立ち止まって振り返る。
「何を、やらなきゃいけないの?」
「それは、教えられない。終わってまた会ったら教えるよ」
 そう言うと、陣はもう一度踵を返して走っていった。やがてその後ろ姿が森の中に消えた。
「……」
 萌は陣が走っていった方向をじっと見ていた。そして、陣と情報を交換するのを忘れていたことを、今更思い出した。

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