BATTLE
ROYALE
〜 The Gatekeeper 〜
プロローグ〜門番の章・1『新生』
それは、ほんの些細な好奇心だった。学校の帰りに見つけた、格好の遊び場。
少年は明日からの楽しい日々を夢想していた。友人たちとここを使って遊べば、さぞ楽しいに違いない――。
ただ、それだけだった。
少年は、その『遊び場』に侵入することを試みた。侵入は本来ならば難しいことだったのだろうが、まだ子供の彼には、とても容易いことだった。
『遊び場』はあまり使われた形跡はなく、汚さと埃っぽさが相まってとてつもない不気味さを醸し出している。その雰囲気に少年は呑まれそうになりつつも、探索を続けた。
そこにはやはり、ただの無垢な感情しかなかったのだ。
薄暗い中を、少年は進んでいく。雰囲気がもたらす、恐怖に似た快感……。彼はそれに酔っていた。
――こんな楽しい場所、誰にも教えるもんか。ここは僕だけの遊び場だ!
しかし途中で、彼は微かに音を聞いた。何者かが会話している声と、微かな物音。それらの音は、彼の視線の先にある金属製のドアの奥から聞こえた。防音性が良いのか、音はほんの僅かしか聞こえなかった。しかしその音は、少年の耳に確かに届いた。先客がいたのだ。
――こんなところに、誰だろう?
少年は、強い好奇心を抱いた。その音の主は、こんな所で何をやっているのだろうか? そう思って彼は少しずつ、ドアの方へと近づいていく。声は少しずつ大きく聞こえてきた。
そこで彼は気付いた。その金属製のドアが、僅かに開いていることに。
彼はドアの隙間から、中を覗いてみることにした。単なる好奇心だった。
しかし、少年は中に広がる光景を見て戦慄した。そこに広がっていた光景は、少年がこれまでに到底見たことなどないであろうほどに、おぞましいものだった。しかし彼は幼すぎた。彼にはそのおぞましさが理解できなかった。だからこそ、彼はその光景をじっと見つめていた。
自分の知る世界とは違う世界が、そこにはあったから。
だが、そのうちに彼は大変な事実に気付いてしまった。その光景の中心には――。
そこから先のことは、あまり覚えていなかった。気づけば、彼はその部屋の中で立ち尽くしていた。呆然として、ただただコンクリートの床を見つめながら。周囲には、さっきよりもおぞましい光景が広がっている。
――何故、ここにいたの?
急に、声をかけられた。振り返ると、一人の少女が立っていた。少年は彼女に見覚えがあった。確か同じ小学校に通っている、女の子。その彼女が、ごく冷静に少年の姿を見つめている。
――い、いや、僕は……ただ、ここで遊ぼうと思って……それで――。
しどろもどろになりながら、少年は言葉を並べようとする。しかしその言葉の続きを、彼女が制した。
――……君は、優しい人だから。私は、よく知ってる。
――おかげで、助かったんだと思う。でも――。
そこで彼女は言葉を止めて、後ろに振り返った。そしてその右手に何かを握った。直後に、彼は二度と忘れることのできない光景を見ることとなった――。
その日から、少年は変わった。誰にも本当の姿を見せることなく、偽りの姿を本当の姿のように見せながら生きている。それは、今も変わらない。
全ては、あの日のために。それが、彼の思いだった。
――あの日を守るために、生きる。それが、俺の生きる意味なのだから。
その思いを心に秘めた少年は、そのまま残りの長い人生を生きてゆくことになる。ただひたすら、守るため。それは盗掘者から宝を守るために、自ら門番に名乗りを上げたかのごとく。
こうして、彼の新たな人生は始まった。それが正しい道かどうかは、彼には分からなかった。だがたとえ正しくなくとも、この道は永遠に変わることがない。それだけは、よく理解していた。