BATTLE
ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜
エピローグ2
1997年、7月。
神野優が無事帰郷してから、1ヶ月が経った。
優は東京都、世田谷区のマンションに、一人で暮らしていた。
帰郷後の出来事の後、優は家族が待つであろう家へと向かった。
ほんの2、3日しか故郷を離れていなかったはずなのに、どこか懐かしく感じた。
しかし、家には誰もいなかった。父も、母も…優のプログラム参加に反対して、処刑されてしまっていたのだった。
こうして優は、正真正銘の一人ぼっちになってしまった。
そして優は一人、ここ東京に引越し、再び中学校に通うようになった。
しかし未だ立ち直ることの出来ていない優は、他のクラスメイトとの交流をせず、一人で過ごしていた。
彼女を優勝者とは知らないクラスメイトたちは、ちょっとずつ、優のことを気にしないようになっていった。
7月13日の夜。
優はいつものように食事を済ませると、一人でテレビを見ていた。
他愛のないバラエティー番組だった。はっきり言ってつまらなかった。
しかし、こうでもしていないとますます気分が滅入りそうで、仕方なく優はテレビを点けっ放しにしていた。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
―誰だろ? 今この辺に私に用のあるような人なんて…。
そう思いながら、優はドアを開けた。
「…お久しぶり」
そこには、あの時プログラム会場から消えて行方をくらました、御森泰介が立っていた。
その時は軍服姿だった御森も、今はくたびれたジーンズに黒のTシャツと、それなりのお洒落をしていた。
「…何の用でしょうか? それに山煮さんは…」
「山煮は下にいるよ。僕たちはお尋ね者になっているから、こんな時間にしか来れないんだ、申し訳ない」
御森はそう答えた。
「まだここに来た用を聞いていませんが…」
優が聞くと、御森は申し訳なさそうに頭を掻いてから、答えた。
「ああ、そうだったね。実は、君が1人で寂しくしていると聞いてね…。君の家にもう1人、寂しくしている子を置いてやってくれないかな?」
「どこからそんな話を聞いたんですか…」
御森は優の質問には答えず、後ろを振り返った。
「来なさい」
そう言われてやって来た少年に、優は見覚えがあった。
「時田裕司…君?」
少年はこくん、と頷いた。
「彼は親戚に引き取られていたんだが、そちらの方々と折り合いが悪くてね。そこに君の話を聞いたものだから…いいかな?」
「で、でも…彼は私のことを…」
「恨んでいる…かい?」
言いたいことを先に言われてしまい、優は黙って頷いた。
「大丈夫だよ、僕と山煮で、説明はしておいた。もう納得してくれているよ」
「はあ…」
「それじゃあ、そろそろ僕は…」
そう言って御森は歩いていき、姿が見えなくなった。
―その後、優は2人と2度と出会うことはなかった。彼らがどうなったのか、その情報すらも、優の耳には入ってこなかった。
こうして優の家にやってきた少年、裕司は最初はまだ少し優を警戒しているようなふしがあったが、1週間もすると慣れてきており、地元の小学校に通うようになった。
それから3年の月日が流れた。
優は、また一人で家にいた。
―裕司君…大丈夫かしら…。
2日前、時田裕司の通う中学校がプログラムに選ばれたのだ。
しかし裕司はそれを政府のコンピューターにハッキングして(その技術は確かに時田賢介が言っていたように素晴らしいものだった)、それを知り、優に言った。
―神野さん、俺のクラスが、プログラムに選ばれた。どうすればいいでしょうか?
優は答えた。
―自分がしなければならないと思うことをしなさい。ある? そう思うこと。
裕司が言った。
―俺は脱出したいと思います。でも俺…出来るでしょうか?
優は更に言った。
―何も守るものがなかったら何も出来ないわ。でも守るものがあったら何かが出来る。やり方は間違っていたけど、3年前の私のように。
裕司は微笑んで、言った。
―ありがとうございます。俺、守るものを探します。
優は待った。裕司が、生きて帰るのを。
そして翌日…。
裕司は帰ってきた。隣には一人の女の子が立っていた。
何だかふわふわした大人しそうな女の子だった。
―彼女が、裕司君の守りたい人なのかな?
優は思った。
裕司は教えてくれた。今回のプログラムは2人の優勝枠があり、裕司と彼女がそれに入ったこと。
裕司が窮地を彼女に助けてもらい、「守りたい」と思うようになっていったこと。
そして―、自分は何も出来なかったが、2人、脱出した生徒がおり、その2人と米帝で会う約束をし、4人でこの国を変えるために戦うことを誓ったこと。
「じゃあ、行くんだ」
優は言った。
「はい。もし良かったら、神野さんも一緒に行きましょう?」
裕司の言葉に、優は言った。
「私は…いいわ。ここに残る」
「しかし、一人は嫌だって、言っていたじゃないですか」
しかし、優は言った。
「もう、一人じゃないわ。もう…大丈夫よ」
「そうですか」
裕司はそう、呟いた。
2人は1週間はこの国に残るのだという。
優は2人を眺めながら思った。
―紀世彦君。凪。私はもう一人じゃない。たとえここには私一人でも、常に近くに紀世彦君や凪や、裕司君がいる。
―私は、生きる。これからも、精一杯―。
BATTLE ROYALE〜殺戮遊戯〜 完