BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


エピローグ1

 神野優(埼玉県立北屋中学校3年A組女子8番)は兵士たちに連れられて、本部に戻った。
 途中には、高円寺紀世彦(男子7番)と共に誓いを立てた高山洋一(男子11番)の死体があった。
 しかし、優はずっと俯いており、ほとんど洋一の死体を見ることは出来なかった。
 隣に立っていた御森泰介(埼玉県立北屋中学校3年A組プログラム担当官代理)や山煮も、気分が良くないのだろう、ずっと俯いていた。
―殺し合いは…終わったんだ…。
 やがて本部に辿り着き、モニタールームに入らされた。
「やあやあやあ! 君が優勝した神野優さんかい?」
 そこには紺色のスーツを着込んだ、いかにもお偉いさんといった感じの男がいた。
「御頭(おかしら)教育長…来ておられたのですか!」
 御森と山煮はすぐに大東亜共和国独特の変わった形の敬礼をした。
「いやいや、そんな畏まらなくていい。ついさっき船で来させてもらったよ。ところで稚下野君は何処かね?」
「か、彼はちょっと今出られる状態では…」
「…そうじゃないんだろう?」
 御頭がそう言った瞬間、御森と山煮の表情が固まった。
「稚下野君はもう死んでいるんだろう? 最近の稚下野君と御森君の関係が良くないことに気付いていたから、ここに」
 御頭は高級そうな革靴を履いた右足でモニタールームの床をつついた。
「盗聴器を仕掛けたんだよ」
「そんな…」
 優は唖然としていた。
―私のところにあの稚下野が来なかったり、放送も御森さんがやっていた理由は、これだったんだ…。
「よって君たちを…処刑するよ。何、全てこの場で内密に処理するよ」
 御頭が懐から拳銃(コルト・ガバメントだった)を抜いた。その時だった。
「ぐわあ!」
 御頭の全身が銃声と共に貫かれた。
 見ると、兵士全員が御頭にアサルトライフルを向けており、その銃口からは、全く同じように細く、白い煙が上がっていた。
「ぐ…があっ…貴様等…」
「我々は、御森殿と山煮殿の志を尊重します!」
 兵士たちが声を揃えて言った。
「うぬう…」
「申し訳ありません、教育長殿。私どもは、この国と決別します」
 御森がアサルトライフルを構え、撃った。
 再び御頭の全身に穴が開き、御頭の体は鮮血の噴水を放ちながら、仰向けに倒れると、もう、動かなかった。
「これで俺たちは反逆者だ」
 御森が言った。
「諸君、今回の我々の行いが原因で死んだ人たちの骸を丁重に扱い、本土に持ち帰るように」
 山煮が兵士たちに向かって言った。
「はっ!」
「私たちは姿をくらますことにするよ。優勝者である神野さんも、連れて帰るように」
 そう言って、2人は本部から出て行った。
 兵士のうちの一人が、優に向かって言った。
「それでは、帰還します。よろしいですね?」
 ややあって優は答えた。
「…はい」

 船で島を離れた優は、本土に辿り着くと待ち構えていた兵士たちに、優勝者の映像を撮るために連れて行かれた。
 彼らは島にいた兵士たちとは違い、傲然とした態度で優をビデオカメラの前に立たせ、言った。
「笑え。にっこりと笑え」と。
 しかし優は笑わなかった。いや、笑えなかった、と言ったほうが正しいのかもしれない。
 兵士たちも最初は何とか優を無理にでも笑わせようとしていたが、やがて無理だと分かると、諦めて映像を撮影し始めた。
 その後で優は専守防衛軍のジープに乗せられ、自分の学校、北屋中学校のある地区へと向かった。
 そこには学校関係者や教育委員会の人間らしき人たちが待ち構えていた。そしてもちろん―、
 クラスメイトの遺族たちも。
「死ね、人殺し!」
「お前がうちの子を殺したんだ!」
「のうのうと生き延びやがって! 悪魔!」
 いろんな罵声が浴びせられた。そのどれもが、優には苦痛に感じられた。しかしその中に、紀世彦や倉田凪(女子6番)の家族がいなかったのに気付き、優は少しばかり安堵した。
 その時、叫び声と共に、一人の少年が飛び出してきた。
「人殺し! 兄貴を帰せよ!」
「こら、下がれ!」
 圭吾の兵士の静止も聞かず、その少年は優が乗ったジープへと近づいてきた。
「あの…停めて下さい、下ろして下さい!」
 優は運転手に頼み込み、ジープを停めてもらうと、ジープを降りて、少年のところへ向かった。
「君…名前は?」
 少年は泣きながら、答えた。
「時田…時田、裕司」
―ああ、やっぱりこの子が彼の言ってた…。
 優は、自分が撃たれる様を見ていた、あの時田賢介(男子16番)の顔を、思い出した。
「…お父さんと、お母さんは?」
 優は再び聞いた。
 少年は答えた。
「2人とも国に逆らって死んだ。もう俺一人だよ!」
―そんな…。
 優の目から、涙が溢れた。
 そして膝をつき、目の前にいる少年を抱き締めた。
「は、離せ、離せよお! お前が兄貴を殺したんだろ? そうなんだろ? 離せよ、離せよお!」
 少年はひたすら暴れていた。
「…ごめんね?」
 少年が、その声を聴くと、急にじっとした。
「ごめんね…私、人殺しだよ…。何も出来なくって、殺すのをやめても誰一人守れなくって…、大事な人まで失って…私…私…」
 後の言葉は、続かなかった。
 少年は、呆然としていた。
「う…うわあ…うわあああああああああああん!」
 優は、精一杯の声を出して泣いた。
 その姿に、今まで優に罵声を浴びせていた死んだクラスメイトの家族たちも、急に黙り込んでしまった。



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