BATTLE
ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜
第84話
「はあっ…」
紀世彦は溜息をつくと、床に座り込んだ。
隣でも、優が座り込み、息をついている。
2人は康利を倒したあと、F−8にある1つの民家にやって来ていた。
2人が入り込んだ部屋は―、多分リビングなのだろう、比較的大き目のテレビに、赤いカーペット、その上に木のテーブルが置いてあった。
「紀世彦君…これから、どうするの?」
―もう私たちしかいないよ。2人で殺し合うしかないんだよ?
暗にそういうことを言いたいのだと、紀世彦は思った(優はそう考えていないかもしれないが。とにかく紀世彦はそう思った)。
「…優は、どうしたいんだ?」
紀世彦は逆に優に聞いた。
―ああ、意地が悪いな、俺。
優が口を開いた。
「私はもう、殺し合うのは―嫌」
「つまり、このまま時間切れまで待つってことか?」
「…そういうことに、なるね」
優のその言葉を最後に、2人は黙り込んでしまった。沈黙が流れた。
5分ほど経っただろうか、優が、言った。
「…昔の話、しない?」
「…いいけど」
優は、ゆっくりと話し始めた。
「私、8年前のこと、まだ覚えてたんだ…。クラスの他の男子が、私が片目になったことで、からかわれたことあったじゃない?」
「…あったなあ…」
「そしたら紀世彦君がその人たちを叱ってくれたっけ…覚えてる?」
「ああ、覚えてた。凪は別のクラスで、俺しかそういうこと言える奴がいなかったんだよな」
「そう。あの時から私、紀世彦君のことが…好きだったんだよ?」
紀世彦は、答えた。
「ありがとう。俺も…嬉しいよ。最高だ」
「そう言ってくれて、ありがとう」
優が、微笑んでいた。それは過去に紀世彦が見たことのない、最高の微笑みだった。
「…もう、夜も遅い。眠ろう」
「…うん」
2人は、眠りについた。
2人が眠りについてから3時間ほど経っただろうか。紀世彦は1人、起き上がった。
優は深い眠りについているようで、到底目を覚ましそうになかった。
紀世彦はズボンのポケットから写真を取り出した。
ずっと、大切に持っていた、紀世彦の宝物だった。
紀世彦はそれの裏に民家に置いてあった鉛筆で文章を書くと、優の傍らに置いた。
「じゃあな…優」
紀世彦はそっと、民家のドアを開けた。
外に出ると、空は闇に包まれていた。
―優の心は、こんな風になってしまうのだろうか?
―そうはなってほしくない。
「優は…生きるんだ」
紀世彦はゆっくりと歩き始めた。
行き先はもう決まっていた。紀世彦の決意が揺らぐことは、なかった。
優は、朝になり、目を覚ました。
「紀世彦君…起きてる?」
優は言った。だが、気が付いた。
紀世彦の姿は何処にもない。荷物だけが残っている。
「女子8番、神野優さんですね?」
その声に、優が顔を上げると、軍服を着た、あのときの教室では見なかった男が立っていた。
「失礼…私は、この会場に御森泰介担当官代理の依頼でやってきた、山煮と言います。担当官の稚下野六郎殿は、事情により担当官の任を解かれたため、御森殿が代理を…」
山煮という男の話を遮って、優は聞いた。
「―その山煮さんが、何故ここにいるんですか?まだプログラムは続いているんですよ?」
すると、後ろから御森が現れ、言った。
「今回のプログラムは…終了しました」
「え?」
優は訳が分からず、問い返した。
「神野優さん。あなたが今回のプログラムの…優勝者です。あなたがまだ優勝に気付いていなかったので、直接ここまで来させていただきました」
―え?
優は、ますます何が何だか、分からなくなった。
「そんなはずありません! まだ紀世彦君が生きているはずです!」
「…」
御森が何も言わなかった。目に涙が浮かんでいるように見えたが、すぐに顔を優から逸らしてしまったので、分からなかった。
山煮がまた、言った。
「彼は、あなたにメッセージを残しています。…これです」
山煮は1枚の写真を優に手渡した。
優はそれを受け取ると、読んだ。
『優。これを優はちゃんと見つけているだろうか? だったらいいのだけど…。俺は優を失いたくないと、さっき話したとき、以前よりも思うようになった。俺のことを好きでいてくれてありがとう。俺も、優のことが、好きだった。ずっと、ずっと。勝手に逝って、ごめんな。でも分かってくれ。許してくれ、ごめん、ごめん。高円寺紀世彦』
「そんな…! う…うわあああああん!」
優はその場に崩れて泣いた。泣き続けた。
山煮が、うなだれていた。
<残り1人/ゲーム終了・以上埼玉県立北屋中学校3年A組プログラム実施本部選手確認モニタより>