BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


第83話

 佐藤康利が放った銃声は、紀世彦のところにも当然聞こえていた。
「銃声…委員長か!」
 そこで紀世彦は自分の犯したミスに気が付いた。
―しまった! 寺の本堂から離れすぎた! これじゃ、別方向から来られたらお終いじゃないか!
「くそっ! 優! 時田! 葉月さん!」
 紀世彦はすぐに本堂のほうへ向かおうとした。そこに、人影が来るのが見えた。
 優だった。
「ゆ、優! 無事だったのか…あっ、時田と葉月さんは?」
「…撃たれちゃった、佐藤君に…」
「そんな…」
「とにかく、時田君は私に紀世彦君と逃げるように言った! だから、早く逃げよう!」
「でも、でもまだ2人は生きてるかもしれないじゃないか! 行って確かめてくる!」
 紀世彦は本道へ向けて階段を駆け上がった。
「ま、待って、紀世彦君!」
 優も後を追った。
 すぐに紀世彦は本堂に辿り着いた。康利はもう去ってしまったらしく、人の気配はなかった。
「時田…葉月さん…? 大丈夫か? 大丈夫だったら、返事してくれよ…?」
 紀世彦は本堂の中へと入った。
 そこには、赤いペンキをぶちまけたかのような血の海が広がっており、その血の海の中に、賢介と葉月は、いた。
 葉月は全身に穴が開いており、これが致命傷になったのだろう、左胸に一つの穴があり、他の穴よりも大量に血液が流れ出ていた。
「葉月さん…」
 紀世彦は呟いた。
 賢介もまた全身を銃弾で貫かれたであろう穴が無数に開いており、頭部にも一つの穴があった。
「時田君…」
 優が、声に詰まってしまい、泣き始めた。
―委員長…、許さねえぞ…!
「優、お前は何処かに隠れてろ!」
「え?」
「委員長は絶対に俺が倒す! だから何処かに隠れてろ!」
 優はその言葉を聞いて、一瞬黙ったが、すぐに言った。
「私も行く。私も、紀世彦君に協力する!」
「いいのか?」
 紀世彦は確認を取った。
「いい」
 優はきっぱりと言った。その目には迷いはなかった。
「…じゃあ、行くぞ!」
 2人は本堂を出た。

 そして2人はひたすら康利を探したが、なかなか見つからなかった。
 そして、とうとう午後6時。放送の時間になってしまった。
 2人は藤川圭吾(男子20番)の死体が残るI−7を通り抜け、H−8までやって来ていた。
「それでは午後6時の、放送を始めます…。まずは、死んだ生徒たちからです…。男子20番、藤川圭吾…、女子16番、野村葉月…、男子16番、時田賢介…以上3名。続いて、禁止エリアです。7時から、G−8。9時から、J−3。11時から、D−3。以上です。残った高円寺君、佐藤君、神野さん。頑張って下さい。僕は、それしか言えません…。それでは、放送を終わります」
 御森の放送が終わった。
「くそっ、委員長の奴…何処に居やがるんだ…」
 紀世彦が、そう呟いたときだった。
「紀世彦君…あれ…」
 優がある方向を指差した。
「あっ…委員長!」
 そこにいた赤髪の男は、紀世彦たちが探し続けた男、佐藤康利に間違いなかった(大体、もう3人しかいないんだ。間違うわけがないだろ?)。
「お前らがいつまでたっても俺を見つけないから、こっちから探しにきたぜ」
「佐藤君…、何であなたがこのゲームに?」
 優の問いに、康利は言った。
「答える義理はない。ただ、優勝してから俺はやらなきゃならないことがある…それだけだ。そのためになら俺は、悪魔にでも何にでもなってやる」
「そんな…」
「お前らと決着をつけなきゃ、優勝は出来ないようだからな。容赦なくやらせてもらうぜ!」
 そう言うと、康利は手に持ったグロッグの引き金を引いた。
 あの時G−5でも聞いた連続した銃声とともに、紀世彦と優の近くの地面の土が跳ねた。
「…こっちも容赦なくやれそうだ!」
 紀世彦は肩から提げていたシュマイザーの引き金を引いた。
 ダダダダダダダ
「ちっ」
 康利は素早く横に跳び、紀世彦の放った無数の銃弾を避けた。
「委員長…お前、何人殺したんだ?」
 紀世彦の問いに、康利は、今度はちゃんと答えた。
「…於保、俊和、武田、橋本、瀬田、平野、兎丸、藤川だから…8人だな」
「お前…」
「でも、神野もやる気だったんだよな?」
 優が、いきなりの康利の発言に、目を見開いた。
「俺、お前が土佐を殺すのを見たよ…。お前、何で殺して回るのやめてるんだ?」
 優はしばらく黙っていたが、答えた。
「私は自分の犯した過ちに気付いた。だから人を殺すのはやめた。佐藤君のやっていることも、絶対に間違ってるんだよ。どんな理由があっても、人を殺すのはよくないんだよ」
 紀世彦はそれに続けて言った。
「お前はそれをやめようとしない。だから…容赦なくやる」
 康利は黙ってしまった。しかし、顔を見れば分かる、あの顔は―、
 明らかに、切れていた。
「うるさい…、俺はやめない…。絶対に、あいつらを…殺してやるんだあーっ!]
 康利はそう叫ぶと、グロッグをひたすらに乱射しはじめた。しかし、切れてしまったからなのか、明らかに隙が出来ていた。
 優が、SPASを康利目掛けて撃ち、その銃弾が、康利の右足を抉った。
「ぐ…あああっ…」
 康利はその場にがくっと膝をついた。しかし、すぐに立ち上がった。
「死なねえぞ…死んでたまるか…死んでたまるかよおーっ!」
 康利はまたグロッグを乱射した。しかし足がふらつき、躓いて転んだ。
―今しかない!
 紀世彦は康利の横に走り、日本刀を抜き、構えた。
「死ぬわけにはいかない…死なねえ…絶対に…真弓の…仇をとるまでは…絶対…」
 康利は呻いていた。目には涙が浮かんでいた。
 紀世彦は黙って康利の首に斬り付けた。
 康利の首がごとっと音を立てて落ちた。
 完全に、佐藤康利は、絶命した。
「…終わったのか…?」
 紀世彦は、呟いた。

 男子8番 佐藤康利 退場


<残り2人>


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