BATTLE
ROYALE
〜 終焉の日にあなたは何を思う 〜
11
政府に支給された無愛想で安物の腕時計は、プログラムが始まってから六時間たったと告げた。
まだそんな時間なのかとため息を漏らしてしまった。
緊迫感はこの一瞬さえもエンドレスに感じさせてしまう。
支給されたコルトガバメントを強く握った。
「ねえ、大丈夫凛? 顔色悪いよ」
真鍋凛(女子十二番)は覗く形で心配そうな顔をしている森川つむぎ(女子十六番)を見てハッと我に返った。
「うん、全然平気だよ! それより気になってることがあってね」
「ん、どうしたの」
つぼみさくら(担当教官)の話によると、プログラム開始から6時間後定時放送が始まる。
時計を見る限りそろそろ始まる時間だろう。
不安なのは出発前に足を撃たれた日比野草太(男子十一番)のことだ。
草太は付き合って間もないからなのか私を凄い溺愛してくれる。
その行動は友人の間でのいじりの対象になるくらい露骨な愛情表現だ。
草太とははぐれ、既にどこにいるかすらわからない。はたして無事なのか。
と思った矢先、そう遠くないところから耳障りなノイズが響いた。
「ごきげんよう、つぼみさくらです。これより第一回定時放送を始めます」
うっとりするくらい雄大なオペラの曲をバックコーラスに、つぼみの声が聞こえた。
「まずこの6時間のうちに天国へ旅立った皆様のお友達をお知らせします・・・」
つぼみの発する憐条と静けさの漂う声に思わず身体を震わせた。
不安が二人に鉛のように圧し掛かる。
「では天国へ旅立ったお友達を順に読み上げさせていただきます。女子十番土屋香織さん、女子十五番麦島瑞希さん、男子三番亀田洋介くん、男子二番江頭降平くん、男子十三番松浦栄斗くん以上5名です。去って行った彼らの霊に黙祷を」
淡々と読み上げられてくクラスメイトの名前。
彼らの顔が走馬灯のように浮かび上がり心臓が破裂しそうになった。
「嘘だよね、もう5人も・・・ねえ凛」
つむぎの顔が徐々に青ざめていくのがわかる。
まるで雪のように白くて震える彼女を抱きしめた。
「次に禁止エリアについてです。一時間後にE-2、三時間後にA-4、六時間後にC-1です。出発前に説明しましたが禁止エリアにうっかり入ってしまうと貴方たちの首に巻きつけられてる首輪が爆発するのでくれぐれも下手に動かないよう注意して行動してください」
「恐らくこの放送を聴いてほとんどの方がこのプログラムの理不尽を嫌でも思い知ったことと思います。泣きじゃくるのも武器をとるのもありでしょう・・・最期まで後悔のないよう頑張ってください」
ブツッと音を立て放送は終わりを告げ、ひっそりと静まり返った。
「・・・」
「・・・わたしって本当最低だよね」
つむぎのすすり声が聞こえる。
酷く震えていた。
「今、このプログラムに乗らなきゃなんてずっと考えてたんだ・・・みんなみたいになっちゃうのなんてそんなの嫌だから・・・」
つむぎの目からは大粒の涙がこぼれていた。
久々に見たつむぎの流す涙・・・それは幼少期につむぎがぼろぼろになったうさぎのぬいぐるみを抱きしめながら、院長に連れていかれた時に見せた涙以来だ。
つむぎは比較的裕福な家庭に育ったらしい。
優しい両親の愛を受け、とても幸せだったと。
しかしある日のこと、保育園のスクールバスを降りたとき家には何も残されず、もぬけの殻になっていたらしい・・・
父親の事業の失敗、多額の借金を背負いきれず、つむぎ一人を残し彼らは突然失踪してしまった。
つむぎはそのときまだ5歳、あまりに厳しすぎる現実だった。
つむぎは孤児院に預けられ、わたしと同じ部屋で生活することになった。
つむぎはとても明るく強い子だった。私はつむぎと出会うまで親がいないことに非常に強いコンプレックスを持っていた。
保育園では他の園児たちは母親が笑顔で迎えに来てくれるが自分には母親はいない・・・。迎えに来るのはシスターだ。
なんで私にはママはいないんだろう・・・
いつしかストレスも溜り、来る者を拒みつづけ気がつけば独りで遊ぶようになっていた。
だけどつむぎは弱音を吐かなかった。態度にも出さず、こんな自分とは対照的に園児たちの人気者になっていた。
ある夜わたしはつむぎに聞いた。
『つむぎちゃんさ、パパとママがいなくて寂しくないの? つらくないの? わたしはこんなにつらいのに、つむぎちゃんはなんでそんなに明るくみんなと接せるの・・・』
笑顔だったつむぎはそのとき急に黙り込んだ。沈黙が覆う。
数分たったあとにつむぎは口を開いた。
『うんつらいよ』とそうはにかんだ。
『うん、でもね。わたしねいつかパパやママが帰ってくるって、そう信じて頑張ってるんだ。だから涙流してたり、クヨクヨしてたらいけないって、シスターと指切りげんまんしたの』
「破っちゃったなー、シスターとの約束・・・」
「いいんだよ。こういうときは思いっきり泣いたって。今までつむぎは頑張ってきたでしょ」
「うん、ありがとう・・・」
いつしかこっちまでもらい泣きしてしまった。
なんでつむぎはこんなつらい目に合わなきゃいけないんだ…
なんでつむぎはこんなにいい子なのに。
理不尽な大人のせいでこんなことに・・・こんなことに・・・。
私は一つの思考にたどり着いた。
私がみんなを殺して最後にわたしが死ねば、つむぎは優勝できる。生き残ることができるんだ。
そのためだったら草太だって殺せるわ。
「大丈夫、つむぎはわたしが最後まで守るから」
プログラムは一人の少女を修羅に変えた。
彼女の口からこぼれる笑顔は歪んでいた。
残り31人+α3人