BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
スタート
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午後の陽が入ってくる教室にはいつもの様に明るい声が響いていた。
郊外にあるせいか他校よりも数倍広い校庭のバスケットゴールの前では数十人がしのぎを削っている。
グラウンドの大半のスペースを取ってしまっているサッカーをやっているのは卒業まで残り少ない3年生が多い。
1月下旬の温度がまだ上がりきらない教室。
温度計は15度以下の白の空間を指している。
秒針だけ赤い永久時計はやっと1時10分だった。
その教室で6列中左から3列目の前から2番目がオレの席だったが(教卓から見て、左から3列目、まあつまり先生の目の前って事。この席ってつまんねぇ・・・)、実際は寒さから逃れるために、陽の当たる、教室の一番前端の稀奈本の席に座らせて貰っていた。
(教卓から見て右の前端だ。正直、夏は暑いけど冬は良い)
「元気だなぁ。まだ寒いのに・・・」
そう和帝二(広島市立立代第二中学校2−A組男子5番)は呟いた。
周りでは女子男子が入り乱れて叫ぶ、走る・・・。
今は始まっていないが、実際、この後すぐに漫才が始まるはずだ。
――なんでこの教室だけはこんなに煩いんだろう。
寒い時には人間も変温動物みたいに行動が鈍くならないかな…。
人間なんて小さい物なんだし静かにしとけば良いのに。
公害にしかならないっての…。
オレの望みとは裏腹に教室のボリュームは増すばかり。
――ああ・・・、この心の声を吐き出してしまいたい。
煩い! とも叫んでみたい・・・。
「しょうが・・・・ないか」
オレは怒りを表情に出さないようにして静かに立ち上がるといつもの場所に向かった。
オレが学校にある売店の前を通り過ぎ、体育館裏の階段を下りる頃、オレの考えが一つ、変わっていた。
“なんでこの教室だけこんなに煩いんだろう”
これはどうやら大間違いの様だった。
煩いのは、“学校全体”だったからだ・・・。
廊下に出た瞬間にオレは駆けて来た男子生徒(確かB組の篠川遼太郎)にぶつかりそうになったし、C組の前を通り過ぎた瞬間は(オレが学年一キモイと思っている)岩城観都姫の甲高い悲鳴を聞かされたし、体育館に行くには通らなければならない渡り廊下も水を掛けあっているバカな3年で通りにくかった。
「はぁ〜疲れた…――、」
やっと安息地にたどり着いたオレからは安堵の声が漏れる。
オレは静かに横になった。
「――、なんでこんなに、騒がしいんだか…。全員、真紘を見習えよ、ったく!」
オレは愚痴を言い終わった後、誰かが頭上に居る事に気が付いた。
「真紘ちゃん?」
そう聞いてきたのは立川耕作(男子9番)だった。
「そーだね。みんな真紘ちゃんみたいだと良いね」
実は片月真紘(女子6番)は煩いからと一部の生徒から敬遠されていたのを耕作は知っていたが口には出さず、和に賛同する。
「だろ?廊下とか教室には全く意味分かんない言葉しか飛び交ってないんだぜ?」
どうかしてるよ、と愚痴る和を見ながら耕作はつい微笑む。
「――でさ、また岩城が煩いし、って聞いてんのか? ニヤニヤしやがって〜」
「聞いてるよ和くん」
そう言いながらも笑顔の耕作。
しかしそれが耕作の長所でもあった。
耕作は誰にでもどんな状況下に置かれても笑顔で接する。
“どんな状況下でも”ってのが凄い。
多分怒られてても笑顔だと思う。
(なぜ多分かって? 実際、耕作は怒られない。怒られるようなへまを耕作がするわけが無い)
「和くん、いつもここだねぇ」
当たり前だぜ、ったく!
どこに居てもキャーキャー、キャーキャー…。
「静かだからな、ここは。日当たりも悪くないしね〜」
オレの愚痴を耕作は文句も言わず聞いてくれる。
他人に文句を言わないところも耕作の良いところだ。
いつでも他人を気遣ってくれている。
そして、耕作には他人を気遣う事以外に、一つ特徴があった。
必ず耕作は女子を下の名前で(しかもちゃん付けで)呼ぶって事。
正直、そのせいで一部の男子には毛嫌いされている。
本人はそんな奴等にも軽く接しているが、知っているんだろうな、とオレは思う。
それでも笑顔を絶やさないでいられる耕作をオレは尊敬しているんだが――、
「――そう言えば、耕作! 何でここにいんだよ! 制作中だった絵はどうした!?」
「あ! ごめん、つい・・・。和くんが美術室の前をね、早歩きで行っちゃうからまたいつものとこかな? って思って来てみたんだった・・・」
――と、まあこの調子。
美術部部長なのに耕作は“おっちょこちょい”な奴だったのだ・・・。
「はぁ〜」
走っていく耕作を見届けると、
オレはまた上向きに寝転がった。
・・・――。
「日当たりは良いけどちょっと眩しいな〜…」
そう言うとオレは横向きになった。