BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜



「じゃあ、行って来るよ、次」
 須来安珠(男子7番)は稀奈本次(女子9番)に言った。
 須来は2−Aの男子学級委員を務めていた。
 その上生徒会副会長も兼ねている。
 その為、教師からの信頼は大きかった。
 その日の昼休みも“用事があるから”と2−A担任加勢仁に呼ばれていた。
 その伝言を伝えてきたのは、女子学級委員を引き受けている稀奈本だった。
「あ、もうそんな時間なんだね。加勢先生、1時5分って言ってたし。安珠君、お願いね」
 そう言って稀奈本に送り出されたのだった。

――加勢先生の用って一体何なんだろう・・・?
 卒業式の打ち合わせかな?
 色々な用件への応対を考えているうちに須来は職員室に着いた。
「失礼します。2−Aの須来です。加勢先生はいらっしゃいますか?」
「加勢先生? ああ、被服教室にいるんじゃないかね?」
 そう答えてくれたのは教頭先生だった。
 
 学校の職員室の前には、“職員室に入るときは、学年と組、名前、用件を言って入りましょう。”と張り紙がしてある。
 守る生徒と守らない生徒はいるが、須来はきちんと守るタイプだった。
 故に和や次に推されて生徒会役員に立候補した時は、529人の全校生徒中、
 3年、78%
 2年、96%
 1年、74%
が須来に投票するという恐ろしい記録を打ち出していた。
(これで副会長なのは須来が生徒会長に、立候補しなかったからだ)

 教えてくれた通り、加勢仁は被服教室にいた。
「先生! 朝、言われた通り来ました。用って何ですか?」
 担任加勢は準備室から出てきた。
「ああ、須来・・・。朝言った事だが、みんなに話したいから2−Aを体育館に集めてくれないかな?」
 加勢仁は生徒に甞められている教師だった。
 2−Aの織田進(男子4番)や織田と同じグループの2−C清志ののか(しみず ののか)、敵対しているグループの2−B保住光平(ほずみ こうへい)などにはいつも絡まれていた。
「分かりました、先生。外に出ている人たちもですよね?」
 分かりきった質問だが、僕は聞いてた。
「そうだな・・・。仁志や真辺が居るだろうが、頼むよ」
 やや震えた感じの声で加勢は言うと、また準備室の方に下がってしまった。
――仁志達はバスケットゴールの前かな?
 和は体育館裏だろうか・・・。
 ああ、大変だな。
 と、誰から連れて行くか考えている須来だったが、一つ思い出した。
「加勢先生! 午後の社会の授業は教材室に取りに行くものはありませんか?」
 加勢は2年の社会担当だ。
「ああ、今日は・・・、特に無いよ。私は授業を急な用事で休まなくてはいけないから・・・」
 先程よりも沈んだ声で加勢は答えた。
「――、そうですか・・・。失礼しました・・・」
 須来が出て行った後の被服教室には、物音一つ無い静寂があった。


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