BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
24
最初の禁止エリア(9−G)指定も、夜が明ける瞬間も、村田怜二(男子21番)は東の山の頂付近の小屋の中で迎えた。そこは7−Hにあたる場所で、何人もの人間が近くを通っていたし、鏡夜らが赤桐に襲われた場所とも大分近かったが、村田にはその銃声のみならず、戸波ら四季の3人が殺された爆発も、立川耕作と宇野小波が狙撃された時の島中に響いた銃声も、聞こえてはいなかった。否、認識出来なかったのだ。
――殺す…殺される…! 腸…阿部…殺される…イングラム…? 腸…血…!!!
木霊する心の中の記憶と狂乱の渦。絶えず心を締め付けてくる血鎖。隙間の無いそんな心に、外界からは何も入っては来れなかったのだ。
混乱と不信、殺意、狂気…そんな中で、今まで自分を裏切ってきた連中を信じろと? いつも自分を嘲笑ってきた奴らを、誰が?
ただ、村田は、放送までの間の錯乱状態は抜け出していた。キムの放送で呼ばれた青井時政、阿部雅実、柳瀬万奈、綿由奈々の4人の名前で、班の事を思い出したのだ。綿由と柳瀬はそれぞれ、4班と3班だと確認したが、阿部と(順番での推測だが)青井は班を見ていなかった事に…。
手元のイングラムM10と説明書を交互に見ながら、自分の軽率さに呆れる。少なくとも、班は確認しなければならなかったのだ…。 もし、自分と同じ5班だったら…。
「そんな事で…死ぬわけにはいかないんだ…。死ねない、死にたくない…死にたくない、死にたくない…!」
“死ぬ”というキーワードで、理性が吹き飛びかけたが、村田は体を縮めて体温を伝える事によって、その場を脱した。
その時に、トタン屋根に何かが当たったのだろうか…? ガコッという音がした。誰かが、この小屋の中に人が居るかどうか確かめるために石でも投げたのだろうか…? ここいらは木が茂っているから、もしかしたら、動物が飛び降りたのか…?(このゲームが始まって以来、一匹たりとも見かけた事は無いが…)
外の色々な状況が頭の中に浮かぶが、出入り口は窓を除いてて一つだけの小屋に入ったのは良くなかったと、まず思った。
しかし、それは頭から追い出して、村田は外を確認する事にした。
すっかり冷えてしまったイングラムM10を引っ掴んで、日の差す方向の窓から外を覗く…。が――誰も居ない。
次に、部屋の中をさっと移動して、今度は日の差す方向とは逆の窓を見た。
もちろんそこにも、今まで通りに、葉が時折吹く風に揺れているだけ…――のはずだった。
が、頭上で何かがキラリと光るのを村田は見逃さなかった。
その何かが引っ込む前に、村田はそれに映った人間を見た。屋根の上に飛び移り、手鏡で部屋の中を探っていたのは、菱倉理沙(女子17番)だったのだ…。
咄嗟に、村田は天井に向けて、引き金を引いた。薄いトタン板に穴が開いていく。総じて軽い材質で作られている小屋の中で銃声が反 響していたが、村田は既に理性を保ってはおらず、何も感じなかった。周りの音などは脳の認識レベルまで届かず、頭の中の全ては血が覆っていた。
しかし、菱倉が地面に飛び降りたのであろう、サッという音は、村田の脳に届いた。
急いで出口から出た。
――菱倉は? どこだ、どこに居る!? 殺してやる! 生き残るんだ、俺は! 殺す気だったんだ、菱倉だって…! 家に帰れば母さんが居る! 俺の事を待っているはず…!
影が、村田にかかっていた。が、村田には気付く暇も無かった。
赤桐凌(男子2番)は暇を与えずに鮎川千秋の支給武器、グロックM17Lの弾丸を村田に浴びせ掛けた。
腰から順々に弾丸が体を上に上っていった。そして、最後に放った4発目は、見事に頭を捉えた。
しかしどういう按配か、村田の後頭部よりも顔に当たる部分の方が大きく欠けていた。もちろん、赤桐からは何も見えていないが…。
赤桐が屋根から飛び降りると、隠れていた菱倉も出てきた。お互いに6班だ。
「容赦ないのね、相変わらず…」
腰に手を当てて、菱倉は言った。
「でも、村田君、見えてたわよ? 窓から、あなたが居るのがね…」
赤桐は何も言わず、イングラムM10と村田のポケットに入っていた予備マガジンを拾い、弾薬箱をデイパックにしまった。