BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
39
少しの間、和の意識は3年の歳月を遡っていた。
立代第二中学校の目の前にある立代東小学校。そこに和、鏡夜、仁志、真由、姫沙率(生徒会長)ら5人が転校するよりも前に…。
5人は同じ、全寮制の学校にいた。小学5年の終わりに、その学校が廃校となるまでの5年間。
1年からずっと通っているのが姫沙と仁志と真由。その頃の全校生徒は40人。
3年で和と鏡夜がその学校に来た頃になると、人数は60人近くになっていた。
年々、生徒数が増えていたその学校がなぜ廃校になったのか、保護者には説明が成されたが、子供の時分の俺たちには、よく分からなかった。
ただ、廃校になる事が突然決定になった時、校長を初めとする数人の先生が死んだ事も同時に伝えられた事は覚えている。
そんな、終業式まであと数日になった学校。それでも俺たちの日常には、なんら変化はなかった。
「なぁ鏡夜」
放課後、学校から離れすぎない事を条件に、生徒は自由に外に出る事が出来た。学校の目の前の砂浜は、俺たちがよく放課後に行く場所だった。
5人だけではない。いつも、10人近い人数で、変わらない顔ぶれだった。この砂浜にはボールもなければ、自転車もない。放課後、サッカーゴールのあるグラウンドで、たいていの生徒は遊んでいる。
「なぁ鏡夜。走ろうぜ」
仁志がいつも、鏡夜に何かしようと持ちかける。
それに何人かが賛成し、鏡夜が了承し、それをする者、見る者に分かれる。俺はたいてい、する側だった。5人の中だと、真由だけが見る側。
授業は3時までには終わり、校舎棟にある食堂で生徒全員に軽いおやつが配られる。
数分で食べ終わると、各々でバラつきながらもここに来、そして寮の門限の5時30分少し前に鳴るチャイムで、走って戻るのだ。
「終わっちゃうんだね…」
タフな鏡夜や仁志らにはついていけずに休憩している俺に真由が言った。
「終わんないさ、俺たちは一緒の学校に行くんだし」
そうは言ったが、立代東小学に行くのは、ごく一部だ。ほとんどは、中国地方の各県にばらばらに住んでいて、家が近いのは稀。
確かに何人かはもう会わないだろう…。
「良いじゃん、鏡夜がいるだろ? 転校してもさぁ」
俺は言った。真由はそうだねと、笑って応えた。
それから呟いた。
「今、あたし、良かったって思った…」
笑顔ではあったけど、どこか悲しそうな目をしていた。
「みんなも大切。やっぱり悲しい。
でも鏡くんを好きなのと、みんなを好きなのは違うんだね、やっぱり…」
その時の俺は“そうなのかな”くらいにしか思わなかった。
どちらも同じ“大切”でしかないんじゃあ? と、少し感じていた。今ここでみんなと別れる事も、好きな人と別れる事も、どっちもつらい事には変わらないと。
「和くん、不思議そうな顔してるね」
真由が笑って言った。
「――きっと分かる時が来るよ」
波の音が、どこか遠くに聞こえた。目の前の海が、なぜかいつもよりも広い気がした。
チャイムが鳴っている。仁志が呼んでいた。急がないと校門がしまってしまう。
それでも、その時の俺は海をじっと見ていた。海を見つめながら、静かに真由が言った言葉について考えていた。
「和」
鏡夜と真由が建物の中に消えると、少しして仁志はどこかへと消えた。
そこには、和と――片月真紘(女子6番)だけが、残っていた。
「真紘」
亜依騨島。プログラム。和の意識は徐々に覚醒していった。
記憶の中からではない。波の音が絶えず聞こえている。その音でどこか忘れていた記憶が蘇っていた。
そして同時に、閉じ込めていた思いがまた、胸の中に戻ってきているのを感じた。
須来安珠(男子7番)は、命を捨てて真紘を守った。彼の想いに殉じた。
俺も、そう決めたのではなかったか? 自分の命すら捨てても、と…。
あの日からずっと探していた気持ち。それを見つけたのに、真由の言っていた事も分かったのに、一体何が足りないのだろう。
突き放し、森の中で一人にした。探す事すら、諦めた。
――なぜ? どうして俺は、後悔すると分かっている道に進むのだろう…。
今は分かっている事がある。一つだけ。
自分は、真由と一緒にこの島へ来る時に誓ったのだ。次に会ったなら、今度こそ、後悔はしないと。
なら俺は、今度こそ全てを捨てても、自分の気持ちのままに生きるのだと。そう思っている事だけなら、分かる。
「真紘、ごめん。」
へたり込んだままの俺の言葉に、真紘は何の反応もしなかった。ただ、俺と真由のデイパックを拾うと、先を歩いていった。
慌てて俺は後を追った。建物の中に真紘は入っていった。
初めて、真紘の背中を追っている気がした。その背中は、決して大きくはない。けれどどこか、優しさを感じた。