昔は長さの尺でも鯨尺というのがあった。主に着物の仕立ての時に使ったのだ。私が子供のころ、母親が着物を仕立てるときは必ず鯨尺を使ったのを覚えている。しかし人と打ち合わせをするときは「鯨で何尺何寸何分」といちいち「鯨で」、「鯨で」と確認しながら作業していた。紙に寸法を書いて人に渡すときも「クジラ」と記入していた。
ネットで得た知識だが尺貫法(曲尺)の1尺は30.303cmで鯨尺の1尺は曲尺の1尺2寸5分だそうだ。六尺フンドシの長さは鯨尺の単位だから曲尺より25%ほど長いことになる。単位を統一するか単位名を変えるかすればこんなマギラワシイことはなかったろーに、昔の人はバカだったんだな、と思うが、昔の人を笑ってはいられない。
放射線の分野でも実効線量と1cm線量当量に同じシーベルトが使われている。飲みにいくと「片っ方をシートベルトとかトルベーシとかにすれば紛らわしくないのに」などと周りにほざいている。ネットを検索すると猫も杓子もシーベルト、シーベルトとカマビスしいが、どっちのシーベルトかきちんと断わって使ってる御仁は皆無に近い。自然環境γ線では同じ空気吸収線量に対して1cm線量当量は実効線量の1.6倍も大きいのに、だ。相手に伝える時や報告書では1回1回必ず「実効で」とか「1cmで」と断わるべきだ。
さらに混乱させるような、こんな注意書きもある。「モニタリングポストはμGy/h(マイクログレイ毎時)で測定されていますが、本ウェブサイト上では、1μGy/h(マイクログレイ毎時)=1μSv/h(マイクロシーベルト毎時)と換算して表示しています。」 これでは放射線に疎い人にとってはますます何が何だか訳が分からんだろう。
我が家には今でも鯨尺がある。狭いところに入りこんだ物を引っ張り出したり、覆いを奥のほうに延ばしたりするときとか、背中が痒いときには現役で活躍している。
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