“全て捨てた者”



2話

「海吉先輩、嵯峨先輩、夕食です。食堂にどうぞ」
 田之上良太の呼ぶ声が聞こえて、俺は部屋を出た。同時に隣の部屋から、真尋が出てきた。
「やっとメシかよー…」
「文句言わないの」
 そんなやり取りをしながら、俺と真尋は食堂へと向かう。途中で出会った都、福井と一緒に行った。
 そして食堂に着くと、既に谷沢、小野、小森が来ていた。
「さあ、それでは食事にしましょう」
「誰が作ったんだ?」
「小森先輩が作ってくれたんです。先輩、料理が上手いんです」
―へー…料理のできる女には見えないけどな。
 俺は小森憲子の顔を見て、思っていた。
「そういえば…御堂部長は? まだ来てないの? 田之上君、呼んできた?」
 都が言った。
「は、はい、ちゃんと部屋の前まで行って、知らせてきましたけど…ひょっとして、部屋にいなかったのかな…?」
「とりあえず、誰か呼びに行きましょう」
「じゃあ、俺が行ってくるよ」
 小野が立ち上がると、食堂を出て行った。だが、それから5分以上経っても、小野も御堂も来る気配が無い。
「ちょっと、様子を見てきたほうがいいかもな」
 福井がそう言って立ち上がった。
「じゃあ全員で行きましょう」
 真尋のその一声に、全員が立ち上がって、食堂を出て行った。だがそこに、小野が戻ってきた。
「何やってたんですか、小野先輩!」
 田之上が言う。
「いや、変なんだ…」
「何が?」
「いないんだよ、部屋にも何処にも、御堂が!」
「えっ? どこにもいない? そんなはずないだろ! よく探したのか?」
 谷沢が怒鳴り声を上げた。
「は、はい…中は全部探しました…」
「外は?」
 唐突に真尋が言い放った。
「ま、まさか…外は吹雪になってるんだぜ? そんな時に外にいるはずが…」
「でも」
 真尋は小野の言葉を遮って、言った。
「吹雪き始めたのはついさっきです。それ以前に出て、吹雪いたために戻れなくなってしまったとしたら?」
「……」
 これには、小野も言い返すことはできなかった。
 そして全員で防寒具を着てから、外まで探しに出ることにした。

「…部長、何処行ったんだろう…」
 都が呟くのが聞こえる。
 あの後、それぞれ別れて御堂を探すことになった。そこで俺と真尋、都に小野で探すこととなった。
 だが、一向に御堂は見つからない。
「ったく…御堂の奴…皆に迷惑かけやがって…ん?」
 その時、小野が何かを見つけた。
「どうしました、副部長」
「いや…あそこの木に何かぶら下がってるみたいで…」
 そう言ってそれに近づいた小野は突然、その場にへたり込んでしまった。
「どうかしました? 副部長」
 そう尋ねる真尋に対して、小野は歯をカチカチ鳴らしながら、震える手でぶら下がっているものを指差した。そしてそれをはっきりと見た都が、叫び声を上げた。
 それは、御堂清香の、寒さで凍りつき、木の枝から吊るされた身体だった。もはや生気の失われたその身体は、吹雪に吹かれて、ふらふらと揺れていたのだ…。


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