“全て捨てた者”



3話

都の叫び声を聞きつけて、他のメンバーがその場にやってきた。他のメンバーたちは、吹雪に揺れる御堂の死体を見た。
「な、何ということに…どうして…こんな…首吊りだなんて…」
谷沢がガクッと膝をついた。どうも御堂が死んだことを悲しんでいるというより、自分が引率している合宿で死人が出たことを嘆いている感じだった。それが俺の癇に障る。
「嘘だろ…?まさか、本当に死人が…と、とにかく、下ろしてやらなきゃ」
福井が呆然として呟く。
「そんな…」
小森は言葉も無い、といった感じだった。
「一体…誰が殺したんだよ!?誰が部長を殺したんだよぉ!?」
田之上が狼狽した様子で叫ぶ。
「御堂サンは、何だって自殺なんか…」
俺が呟いたのを聞いて、真尋が振り返った。
「自殺じゃないわよ、これは…れっきとした殺人のはずよ」
「な!?何言ってんだよ!」
「だって…この木はかなり高い木よ?こんなところ、踏み台もなしに首を吊ることなんて出来ないわ。それに部長には自殺の動機がない。だとすれば、誰かが部長をここに吹雪く前に呼び出して、首を絞めて殺して、この木に吊るしたっていうのが妥当じゃない?」
「……」
その時だった。御堂の吊るされた木の裏に回っていた福井が声を上げた。
「お、おい、こっち来てみろ」
その声に、全員が福井のいるほうへと走った。
「これ見ろよ」
そう言って福井が指差したのは、御堂の吊るされた木の幹だった。そこには刃物で削って作られた文字があった。それはこう書かれていた。
『椎葉晴美の声のもとに 大罪人を処刑した 次の大罪人処刑まであと僅か』
「椎葉…晴美…」
俺がぼそっと呟いた直後、叫び声が上がった。
「ひっ…ひいぃーっ!許して下さい、許して下さぁーい!」
田之上良太だった。
田之上はいきなりそう叫ぶと、清心荘に向かって駆け出していった。
「お、おい田之上!」
それを追って、小野も走り出す。
やがて皆が戻り始めたので、俺も戻ろうとした。だがそれを真尋が引き止めた。
「な、何だよ?」
「現場検証するの。和輝も付き合って」
「そ、そんなの警察を呼んで、警察に任せれば…」
「この吹雪の中、こんな山奥に警察が来れるはず無いわ。だから私たちでやっておくの。それに…都に脅迫状の犯人を突き止めてほしいって言われたでしょ?」
「ああ…」 
「多分、脅迫状を出した人物と御堂部長を殺した人物は同一人物だと思うの…それに次の大罪人処刑ってさっきの文章には書いてあったし…」
俺は驚いて言った。
「まさか、まだ誰かが殺されるとか?」
「そういうこと。だから早く犯人を見つけないとね」
「おいおい…。あっそうだ、犯人は失踪した相生一弘じゃないか?ほら、福井が言ってた…」
俺はその場で思いついた意見を真尋にぶつけてみた。でも実際、この合宿に来ていない失踪中の相生一弘なら誰にも見つからずに御堂を殺せるはずだ。
「確かに相生一弘が犯人っていうのも一理あると思うわ。でも…相生一弘が御堂部長を殺す動機が今のところ見つからないじゃない。それに、相生一弘は椎葉晴美の件に関係していたかもしれない人物で失踪中…。そんな人に呼び出されて御堂部長が応じるとは思えないけど…」
「そうか…」
確かにその通りだった。御堂清香は椎葉晴美の自殺に関わっていた可能性は高い。犯人が『椎葉晴美の声のもとに』なんて書いてるからまず間違いないのかもしれない。だとしたら明らかに怪しい相生一弘がここに来ていて彼女を呼び出しても警戒される可能性のほうが高そうだ。
「じゃあ、誰が…」
「少なくとも、この清心荘にいる人間の誰かなのは間違いないでしょうね。全員に御堂部長死亡時のアリバイは成立しそうにないし…」
「そうか…へっくし!」
俺は思わずくしゃみをしてしまった。そういえば、どれだけ外にいたのだろうか?もう寒くてたまらなくなってきた。
「そろそろ…戻る?」
「そうしようや」
そして俺と真尋は清心荘に戻ることにした。


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