“全て捨てた者”



4話

 清心荘に戻ると、血相を変えて谷沢が走ってきた。
「何をしてたんだ二人とも! 探したんだぞ」
「あの…どうしたんですか?」
 真尋が谷沢に尋ねる。
「警察に連絡しようと思って電話を使ったんだが…電話が通じないんだ! 電話線が切られてるんだ! 犯人に! それだけじゃない、ここの近くには民家は殆ど無いと田之上も言ってたし…携帯は使えたけどこの吹雪じゃどっちにしろ警察もしばらく来れないって言うし…どうしたら…」
 谷沢は完全にテンパっていた。
「もう全員に知らせてきたから、それじゃ」
 そして谷沢は何処かへと行ってしまった。
「どうなるんだ? おい…」
「とにかく、犯人を私たちが見つけるしかないかも…」
「そう、だな」
 そして広間に行くと、福井一誠が小森憲子に話しかけられていた。だが俺と真尋が近づくと小森は部屋へと戻っていってしまった。
「どうしたんだ? 小森は」
「さあ…?」
 俺の問いかけに福井はそんな曖昧な答えしか返してこなかった。
「そういや、谷沢センセの話聞いたか? えらいことになっちまったな…」
「ああ…」
「ねえ」
 そんな風に俺と福井が話していると、福井にいきなり真尋が話しかけた。
「何だ?」
「いなくなったって言う相生一弘君について聞きたいんだけど…どんな人だったの? 雰囲気とかでもいいから教えてほしいんだけど」
「相生は…絵が好きでな。強面の割には気が優しくてよ…田之上の顔を怖くしたような奴だったよ…結構もててたし」
「なるほど…」
 そこで今度は、福井が尋ねてきた。
「なあ、御堂部長を殺した犯人は分かったか?」
 それに対して真尋は、首を横に振った。
「ううん、まだ分からない…犯人はあまり、証拠を残していないみたいね」
「そうか…じゃあ、俺はそろそろ…」
「あっ、ごめんなさい。時間とらせちゃって」
「大丈夫だから、それじゃおやすみ」
 そう言い残すと、福井は自分の部屋へと歩いていった。
「…福井君、何か隠してるみたい」
「え?」
 いきなりの真尋の一言に、俺は驚いた。
「だって、小森さんが何を話してたか聞かれて『さあ…?』は無いと思う。さっきまで話を聞いてたはずなんだから…小森さんは、御堂部長が殺されたことについて何か知ってるのかも…」
「なるほど」
「とにかく、今日はもう寝よう。全然犯人の見当がつかないし…」
「そうするか。じゃあ、おやすみ…」
「おやすみ。明日もアシスタントよろしく」
 そう言って真尋は部屋に入っていった。その姿を見届けながら、俺はまた真尋にこき使われるのだろうかと思った。


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