BATTLE ROYALE 2
〜
The Final Game 〜
[ 第二部 / 序盤戦(前編) ] Now 37 students remaining...
< 8 > 殉死
強い風が吹いていた。
国山光(男子七番)は、風が運んでくる砂粒が入らないように、大きめの目を細めた。
地上ではほとんど気にならなかったが、やはり吹きさらしの建物の屋上では、風の冷たさがわずかに身に沁みるようだった。
光は、少し色黒の肌と身長という要素――光は男子で一番身長が低く、それが多少コンプレックスになっていた。その次が黒澤健司か滝川直だ――を除けば、容姿はそこそこだし、性格も明るく活発な方だった。
根本的に楽観的なタイプなのかもしれないが、光はこの“プログラム”で誰かクラスメイトが自分を殺そうとしているとは考えなかったし、自分もそのような野蛮な行動をとりたいとも思っていなかった。
いきなり見たこともない教室でこのゲームの開始を告げられたときよりは、比較的落ち着いていると言ってよかった、現在のところ。
光が拠りかかっているフェンスのすぐそば、天に向かって佇立している三本のポールに掲げられてた大きな旗が、風に煽られてはためいていた。
その三本のポールのうち、際立って高い中央のポールに掲げられた旗はもちろん、白地に朝日をイメージしたデザインの大東亜共和国旗に、違いなかった(その両脇は県旗と市旗だろう、おそらく)。
その三本の旗は、しかしどういうわけか、長いポールのちょうど真ん中の位置までしか掲揚されていなかった。
ふと気づいた、――これは半旗だ、まったく、縁起ワリィったらありゃしない。
光は改めて、自分のいる場所を見渡してみた。
足元は防水加工が施された素っ気ないコンクリートで固められていて、出入り口の部分だけ小屋程度の正方形の建造物が立っていた。
それには窓などは一切なく、重そうな鉄の扉が一枚、あるだけだった。
先程見た地図によると、この建物が合同庁舎という建物であるということがわかった、どうでもいいことなのだけれど。
鉄筋コンクリート五階建て、とりあえずこれよりも高い建物は、さらに東側にあるビジネスホテルぐらいのものだ。
光は視線をフェンスの向こう、夜の暗闇に紛れた街に向けた。
すぐ近く、西側に自分たちがさっき出発した本部になっている中学校がぼんやり見えた。
それから南に目を転ずると、敷地は中学校ほどではないが建蔽率では勝っているであろう大きな施設――文化会館やら市立図書館といった公共施設らしい――があった。
そしてそれらの向こうには民家や商店などが密集する街が見える――はずだった、昼間ならば。
光はどことなくぼうっとした表情で、その見えない都市を眺めていた。
ぎっと鉄の扉が開く軋んだ音がしたので、光はゆっくり振り返った。
開いた扉の向こうには、小田原美希(女子四番)が立っていた。
美希は比較的大人しい性格の女の子だった、顔立ちは少し面長で、薄い唇や、やや細めの目などが、静かな物腰のお嬢様のような感じをいっそう引き立たせていた。
いや、事実、美希はお嬢様だった、関東甲信越地方では比較的有名な企業の社長の娘だった。
しかし本人は、父親のそんな肩書きを衣に着せた素振りはまったく見せず、金持ちのお嬢様によくありそうな傲慢さもわがままさも持ち合わせてはいなかったので、クラスの中でも人気があった。
もちろん、その性格のためか、女子のリーダー的存在とはいかないものの、しばしば女子中学生に見られるいわゆる『オンナの対立』というやつでは、いつも中立的な立場を保ちつつ、おっとりとした声でその場を修めてしまうということも幾度かあった。
美希が屋上のコンクリートに一歩足を踏み出した途端、彼女の長い黒髪が風になびいた。
光は美希の姿を見て、わずかに口元の緊張を弛めた。
言った、静かな声で。
「やあ、遅かったね。ずいぶん待ったよ」
「どのくらい?」
光の言葉を受けた美希が、少し首を傾げながら尋ねた。
「そうさな、大体・・・・・・10秒くらいだな」
「ふふっ」
おどけたような光の言葉に、美希は可笑しそうに笑みを浮かべた。
美希の手の中には、光が教室でくれたメモが握られていた。
『一番近くの一番高い建物の屋上で』
――と、汚い字で殴り書きがしてあった。
学校を出た美希は、とりあえず目に付く一番高い建物――中学校のすぐ近くにある合同庁舎の屋上――にきたのだ。
美希は光の隣まで歩み寄り、屋上の手すりに肘を突いて街を眺めた、もっとも夜なので会場全体を見渡すことはできなかったが。
ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ――」
光が「ん?」と言って、美希を見た。
月明かりに照らされ、美希のその綺麗な黒髪が、美しく輝いていた。
美希が続けた。
「本当に、この街で――殺し合っているのかしら? クラスメイトが」
美希の目がちょっと潤んでいた、――ああ、女の子の涙には弱いんだよ、俺。
光が小さく首を振った。
答えた。
「わからない。でも、さっき銃声と――」
一呼吸。
「悲鳴が聞こえたよ。たぶん、秀貴の声だ」
「そう・・・・・・」
美希は、軽く前髪を掻き上げた。
さらさらとした綺麗な髪がふわっと風になびくのを、光はじっと眺めていた。
美希は、光よりもほんのわずかに身長が高かった、どうでもいいことなのだけれど。
独り言を言っているかのような小さな声で、美希が言った。
「無事だといいよね、川村くん」
「ああ、そうだな・・・・・・」
二人はしばらく黙って、クラスメイトが潜んでいるはずのその街並みを、ぼんやりと眺めていた。
美希がまた、口を開いた。
「ね、光くんは、生きたい?」
あまりにも唐突な美希の言葉に、光は驚いたように美希を見た。
美希の表情はとても穏やかだったので、光はそれで、視線をまたもとの暗闇に戻した。
それから、言った。
「ああ。美希と、一緒ならな・・・・・・・」
今度は、美希が驚いたように、光を見た。
光も、街並みから美希へ、視線を移した。
「一緒に生きたい」
光は言った、はっきりと。
美希も涙を溜めながら、頷いた。
しかし、それはできなかった。
優勝者は、たった一人なのだから。
時間切れになれば優勝者はいなくなるのだけれども、どちらにせよ同じことだった。
とにかく、二人一緒に生きるというのは絶望的だ。
そういえば3年前に、見事プログラムから逃げおおせた男女の二人組がいたらしい。
光は脈絡もなく、そんなことを考えた。
その二人組は、どうやって逃げたのだろうか?
いまも無事なのだろうか?
どこで、何をやっているのだろうか?
もしかしたら、いまごろテレビでも見て、談笑しているのかもしれない、どこか遠く、別の国で。
そんなふうに思った。
しかし実は、その二人組のうちの一人は光から1キロメートルと離れていない場所にいたのだが、もちろんそんなことを光が知るわけもなかった。
光はまた、考えた。
3年前か。3年前といえば――。
「三村さんってさ、本当なら高3だったよね、確か」
「えっ? う、うん、そうだけど・・・・・・?」
美希が、なんでそんなことを聞くの? と言いたそうな顔をした。
光が続けた。
「俺たちよりもさ、3歳年上なだけで、あんなことができるようになるのかなぁ・・・・・・」
あんなこと、というのは、慶吾が身体を張って飯田浩太郎を助けたことだ。
美希の瞳が揺れた、ちょっとだけ。
ちらっと口元に笑みを浮かべ、言った。
「そうね、凄いわね、三村さんは。ちょっと、いいかな、なんて――」
光が、ずるっと手すりから肘を落とした、もちろん、大袈裟な演技のつもり。
「おいおい、浮気かぁ!?」
ちょっと高めの声で、光は言った。
風が強いので、どうせ下に誰かいたとしても聞こえるはずがない。
美希の目がすっと細まり、「ふふっ」と笑った。
「あたしが一番好きなのは光くんだよ。三村さんには、――うん、なんて言うか、憧れてるの、かなぁ?」
「憧れ?」
「うん――」
光の問いに、美希はそう語尾を引っ張った。
「そう」
「憧れ、か・・・・・・」
光はそう呟いた。
思った、心の中で。
そりゃあ、三村さんはかっこいいよ、男の俺から見ても。
なんて言うか、雰囲気が全然違う、――大人の雰囲気ってやつ?
絶えずなにか難しいことを考えているような、ぴんと張り詰めた雰囲気があって、ちょっと近づき難いけど。
でも、話してみるとけっこういい人で、たまに冗談も言ったりして。
退廃音楽――ロック、だっけ?――が好きらしいんだけど、俺、聞いたことないしなぁ。
まあ、とにかく、ちょっと不思議な雰囲気を持っているけれど決して悪い人じゃない、憧れる要素はいくらでもある。
そんなことを考えながら、光は美希に訊いてみた。
「その、三村さんのどこに憧れてるんだい?」
美希が眉を寄せたので、光は慌てて付け足した。
「いや、三村さんに憧れる要素があるかとか、そんなんじゃなくて。そりゃあ、三村さん、かっこいいし――」
「瞳・・・・・・かな」
光の言葉を遮って、美希が言った。
「ひとみ?」
「そう、瞳」
光は頭の中で、慶吾の顔をイメージしてみた(妄想じゃないぜ? 断じて)。
「三村さんって、いつもは怖そうな感じだけど、瞳に力がある」
「ちから?」
ああ、さっきから疑問符ばっかりだな、俺。
光の問いかけに、美希が頷いた。
「そう。生きる強さ、みたいな。私たちとは全然違う。たぶん彼は諦めないと思う、どんな状況に陥っても」
美希は、そう言って口をつぐんだ。
「そうか・・・・・・そうだな、うん。確かにそうだ」
光は頷いた。
「俺達とは違うよね、三村さんは。明らかにさ」
「うん。すぐに、自殺しようなんて思った、あたしなんかとはね」
「・・・・・・」
何気ない美希の一言に、重大な意味が込められていると光が理解できたのは、数秒後のことだった。
あまりにも、美希の口調が自然だったので。
あまりにも、美希の表情が静かだったので。
――今日の夕食、なに?
そんな感じ。
「美希――」
光は、なにか言おうと口を開いたが、美希はそれを遮った。
「あたし、堪えられない。みんなが・・・・・・クラスのみんなが、殺し合う――なんて」
その声が、微かに震えていた。
表情は相変わらず穏やかに見えたが、長い前髪に隠れた瞳の奥、なにか冷たいものを必死で押し殺しているようだった。
美希が続けた。
「だから――、だから最後に一目、光くんを見たいなって、思って・・・・・・」
「馬鹿ッ!」
光は思わず大声で怒鳴り、美希はびくっと首を竦めた。
いままで美希を怒鳴りつけたことなど、一度もなかった。
光は言った、強い口調で。
「さっき言っただろ? 俺は美希と一緒に生きたいって。美希と一緒じゃなきゃ、生きたくないってことなんだぜ?」
光の言葉に、美希の湿った瞳が揺れた。
「でも――」
そのときだった。
たたっ、たたたっ、という軽やかな音が、商店街の方から聞こえてきた。
光の知ったことではないが、黒澤健司のキャリコが元井和也の頭をポタージュにした音だった(強風で慶吾の銃声は二人には聞こえなかった)。
思った。
ああ、誰だか知らないけど、感動的なシーンをぶち壊さないでほしいな。
「行こう、美希」
光は、フェンスに寄りかかりながら、言った。
「とにかく下へ行こう。方法は、美希に任せる。階段を使ってもいいし――、自由落下でも、俺は構わない」
美希は、人差し指で目のあたりを擦った。
顔を上げた。
そうして、言った。
「・・・・・・速い方が、いいな」
「オーケイ」
光は、軽い動作で屋上のフェンスを乗り越えた。
フェンスといってもたいした高さはない、せいぜい腰のあたりくらいまでの低いやつだ。
建物の縁とフェンスの間は、だいたい50センチ程度の距離があった。
そしてそのコンクリートの角の向こうは、もちろんなにもない、ただの空間だった。
「さ、どうぞ、お姫様」
美希に手を差し伸べた。
美希はその手を取って、なんとかフェンスを乗り越えた。
光はスラックスだったから楽だったが、スカートの美希は苦戦しているようだった。
下を見た。
皆さん、ご覧下さい。眼下に見えますのは、ミニチュアセットの街でございます。なんて美しいんでしょう。
光が、ちらっと美希を見た。
微かに脚が震えているのが見て取れた。
やめようか? やっぱり。
言おうとした。
美希が、光の方を向いた。
笑顔で。
「行こ?」
「・・・・・・」
まったく、このお姫様は・・・・・・。
心の中、光はちょっと苦笑した。
しかしなにも言わず、美希を抱いた。
呼吸を整え、ぎゅっと目を閉じた。
トクン、トクン、と鼓動が早くなっていくのを感じた。
それは自分の鼓動なのか、はたまた身体を密着させている美希の鼓動が伝わってきているのか――。
光は美希を抱きしめたまま、ゆっくりと身体を横に倒した。
ふっと自分の体重と、そして美希の体重が感じられなくなった。
まさかこんなところで理科の授業を身をもって実験されられるとは思わなかった。
初速度は秒速0メートル。重力加速度は約9.8メートル(だっけ?)。高さは大体、50メートル? 質量は、二人合わせて約90キログラム。さて、到着時間は何秒でしょう?
遊園地にある、あの地上200メートルから落ちるアトラクション――誰だよ、あんな恐ろしいものを思いついたやつは――に乗ったときように、内臓がくっと押し上げられた。
耳元で、ごおっと風が唸っていた。
美希のセーラー服が、バタバタと風になびく。
スカートはまるでそれ自体が意志をもっているかのように激しくはためき、美希の髪も強力な静電気を帯電させた下敷きに吸いつくようにすべて上を向いていた。
光は思った。
――死なせたくない。俺はこいつを、死なせたくなんかない!
一言。一言でいい。お願いだから、言わせてくれ!
叫んだ。
「美希ッ!」
駐車場に停まっていた、白いセダンが、ぐんぐんと迫っていた。
このまま突風でも吹かない限り、二人はそのセダンの天井に落ちるだろう、きっと。
ほんのわずかでも位置がずれていれば、そこは綺麗に舗装されたアスファルトの上だった。
光は思った。
クルマの上なら、あるいは――。
「ごめんッ!」
光がそう叫ぶのを、美希は聞いた。
ごめん――? どうして?
美希がそう思う間もなく、光がくるりと身体を捻った。
自分が、――そう、自分の背中が、下を向く形で。
美希がその意味を理解したときには、もう地上はすぐそこだった。
当エレベーターは、まもなく一階、駐車場に到着いたします。
「ダメッ! 光くんやめてッ!」
美希は、叫んだ。
叫んだ次の瞬間には、駐車場に停車してあったセダンの天井に、もろに叩き付けられた。
セダンの屋根が一瞬にしてひしゃげ、フロント、リア、サイドの安全ガラスが、ぼぉんと爆発したようにすべて粉々に砕け散った。
それとは別に、嫌な音が、美希の耳に届いた。
液体を一杯に入れた風船を、思いっきり地面に叩き付けた感じの。
もちろん、その風船は、生温かい赤い液体に満たされていたが。
しばらくは、なにも考えられなかった。
自分がどこにいて、なにをやっているのかも。
車内から舞い上がった埃が宙を漂い、そしてゆっくりとあたりに降り積もっていった。
それから徐々に、身体中に痛みを感じるようになってきた。
美希は、全身に突き刺さる痛みを堪えながら、目を開いた。
国山光は、そこに、いた。
ただし、その身体は、潰れていたが。
おねえちゃん、そんなに体重、重いの? だってほら、潰れちゃってるよ、お姉ちゃんの下敷きになって。
「あ・・・・・・う・・・・・・いや・・・・・・」
ほとんど声にならない声を、美希が発した。
本当は、叫びたかった。
謝りたかった。
でも、できなかった。
身体も口も動かなかったので。
頭だけは、動いていた。
光が――自分を助けた。
それだけは、わかった。
「な・・・・・・んで? ひか・・・・・・るくん」
光は答えなかった、もちろん。
けれど彼は、笑っていた、後頭部は破れた天井の鉄板に切り裂かれてぱっくりと割れていたが。
「なかなか見せつけてくれたわね・・・・・・」
冷たい声が、美希の鼓膜を震わせた。
美希は、目だけを声のした方に動かした。
背は高くないが、それでもスタイルはいい身体。
長い髪を後ろでひとつにまとめて、赤いゴムで縛っていた。
鋭いつり目がちの瞳に、緊張と嘲笑が微妙にブレンドされた表情は、しかしそれでも精悍さを失ってはいなかった。
そして手には――イングラムM11サブマシンガンを持っていた、美希にはそれが何なのか、わからなかったのだけれど。
藤本華江(女子十八番)だった。
「ふじ・・・・・・も・・・・・・とさん?」
美希は、やっとのことで言葉を発した。
「よかったじゃない、助かって。動けそうにないけど」
華江は言った。
その口元には、微かな笑みが貼りついていた。
「これ、貰うわね? いいでしょ、あなた、もう関係ないんだし」
そう言って、美希が背負っていたディパックを、強引に引き剥がした。
「あうッ!」
無理に動かされ、美希の全身に鋭い痛みが走った。
しかし華江は、そんなことは知ったこっちゃない、という表情でディパックの中を覗き込んだ。
「なに、これ?」
華江が掴み出したのは、四角い電子手帳のようなものだった。
華江はちょっとの間、それをしげしげと眺めていたが、すぐに口元を歪ませて笑みを作った。
「へぇ、いいわね、これ」
そう言うと、それを自分のスカートのポケットに押し込んだ。
そうして、言った。
「そうそう。あたしさっき、松本さん、殺しちゃった」
さも、自慢気に。
そうそう、あたしこないだ、くまのぬいぐるみ、買っちゃった。あらそうですか。
美希は、唇を噛んだ。
「な・・・・・・んで・・・・・・」
息を吐いた。
続かなかった。
華江が美希の耳元に顔を寄せ、言った。
「なんで? なんで人を殺せるかって? だって、面白いでしょう、人殺すのって」
「――ッ!」
ぞっとする、それは声だった。
華江は、イングラムの銃口を美希に向けた。
その銃口で美希の身体を強く突いた。
「はぅッ! ――あぐっ!」
苦痛のあまり、美希は身体を仰け反らせた。
それで、さらに激しい痛みが美希を襲った。
華江が笑った。
「痛そうね、可哀想に。でも心配しないで、あなたもちゃんと殺してあげるから」
ウィンク。
それは一見、可愛く見えるくせに、どこか屈折しているような、そんな表情だった。
華江は数歩後退して美希から離れると、すっとイングラムを持ち上げた。
その銃口はまっすぐに美希の瞳に向けられていた。
美希は思った。
ごめん、光くん、せっかく生かしてもらったのに、あたし、もうダメみたい――。
美希はイングラムの銃口をじっと見つめていた。
あの穴から、鉛の玉が吐き出されるはずだ、もうすぐ。
そして――あたしは――死ぬ・・・・・・のかしら?
そのときだった。
どん、という鈍い重低音が周囲に響いた。
それは閉鎖的な構造になっている合同庁舎の壁に反響し、木霊した。
がちゃっと重い音を立てて、華江の持っていたイングラムが地面に落ちた。
美希には、なにが起こったのかわからなかった。
「やめなさい」
声が聞こえた。
この声は・・・・・・中山さん?
美希は、声のした方に首を動かした。
身体にまた痛みが走ったが、どうでもよかった。
そこには、中山諒子(女子十六番)が立っていた。
その手の中に、銀色に光る大型の回転式拳銃、フリーダム・アームス・モデル・カースル454が握られていた。
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