BATTLE ROYALE 2
The Final Game



       [ 第四部 / 序盤戦(後編) ] Now 28 students remaining...

          < 19 > グループ


  植田城の東側、植田市役所の第一重役会議室に、稲山奈津子(女子一番)は、いた。
  たんたんたんと、階段を誰かが降りてくる音がして、ばんと勢いよく会議室のドアが開いた。
 「ねぇ、ちょっと聞いて! なんか東の方で煙が上がってるよ!」
  そう言って入ってきたのは、琴川藍(女子八番)だった。
  よほど懸命に走ってきたのだろう、まだ肩で息をしている。
 「ちょっと藍! あんたね、もっと静かにしなさいよ。誰かにあたしたちがここにいること、見つかったらどうすんのよ」
  落ち着いた口調で藍を注意したのは、ちょっと目つきがきつい千早由貴子(女子十三番)だ。
 「まぁまぁ、大丈夫よ、ここは多分」
  そう言いながら、奈津子は、考えた。
  ああ、貴志くん、どこにいるんだろう。やっぱり待っていればよかった――。
  密かに貴志と付き合っていた奈津子は、ずっとそれを悔やんでいた。
  もっとも、下手に校門で待っていたら、次々に出てくるクラスメイトに殺されていたかもしれないが。
  大丈夫ですよ、お嬢ちゃん。あなたは、それを持っているんですから、大抵の人には勝てますって。
  奈津子の脇にたてかけてあるのは、華江のイングラムに対抗し得る武器――ウージー・サブマシンガンだった。
  一応マガジンは入れてあるが、安全装置はちゃんとかかっているし、第一、使うつもりもなかった、誰かに攻撃されない限り。
  だが、今のところ、奈津子、由貴子、藍のグループがここにいることを知っている者はないだろうし、いくら女でも3人を相手に攻撃してくる者は少ないだろう、単独では。
  とにかく、ふだん仲のいい3人が集まれたのは偶然と幸運のおかげだが、奈津子には貴志に会えなかったのが不満だったし、心配だった。
  放送で呼ばれていなからまだ生きていることは確かだが(それでももう、あの放送から4時間は経っている)、一刻も早く貴志の無事な姿を見たかった。
  もっとも、奈津子は貴志が、仁志に撃たれて怪我をしているということまでは、知るはずもないが。

 「それで? その煙はどこらへんに見えたの?」
  屋上で見張りをしていた藍に尋ねると、藍は地図を広げて、大学の付近を指で押さえた。
 「この辺りよ。ちょっと前に、ここの辺りで何か光が見えて――2回だったかしら? それで、どーんっていう音が聞こえたの」
  藍の言葉で、奈津子と由貴子は顔を見合わせた。
 「爆弾――とかかな?」
 「さぁ? でも、爆弾持ち歩く人も少ないだろうし・・・・・・」
 「誰か、死ん――だの、かな?」
  奈津子が言った。
 『死んだ』のところの声が、微妙にうわずっていた。
 「さぁ?」
  由貴子は、むしろ淡々としている。
  この人があせるのは、どういう状況なんだろう? と、奈津子は思った。
  藍が、続ける。
 「それでね、もうしばらくしたら、今度は大学の――この辺りで、またどーんって音がして。最初の2回のほうは、まだ煙が昇ってたんだけど、今度の方はほとんど煙は昇らなかったわ。ちょっとだけ、黒いものがあるかなってくらい――」
 「ふぅん」
  興味なさそうに、由貴子があいづちを打った。
  ちなみに、由貴子に支給された武器は、なんの変哲もないアイスピックだった――ホントになんの変哲もないのね。どうしろっての、これで? 氷でも割りますか? お客さん、今日は何に? オン・ザ・ロックがオススメですよ?
  藍に支給された武器は、サーベルだった――あの西洋の、ふにゃふにゃした剣。
  まぁサーベルはどうだか分からないが、由貴子のアイスピックは『武器』として使用し得るかどうか、怪しいところだった。
  実質、このグループの主力は、奈津子のウージーだけと言っていいだろう。
  しかし、グループのリーダーのはずの奈津子は、ウージーを触りたがっていないようだった(ずっと立てかけてある、壁に)。
  まったく、人殺しになるのが嫌なのは分かるけど、そんなんじゃ生きていけないわよ、この先。
  由貴子は思った、口には出さなかったが。
  だが、窓の外に視線を移し(この窓から見える町のどこかで、今もクラスメイト同士が殺し合っているに違いない、クソいまいましいが)、再び奈津子に視線を戻した由貴子は、心持ち眉を上げた。
  今までじっと座っていた奈津子が、ウージーを握って立っていたので。
  でも大丈夫、銃口はこちらを向いてはいないし、奈津子にここで撃つ気はないように思えた。
 「ちょっと、あたし、外に出てくるね」
  奈津子は言った、近所の友達のところへ行くときのような、軽い口調で。
 「あらそう」
  由貴子も、簡潔に返した。
  こちらの口調も、また奈津子以上にそっけない。
  まるで、明日の天気は晴れのち曇りでしょう、と言われたときの返事のように。
  奈津子が出て行くのは一向に構わなかった、無事帰ってきてくれれば。
  由貴子も、立ち上がった。
 「ついでだから、あたしも行くわ。どうせここにいたって、つまらないだけだもの」
 「つまるとかつまらないの問題じゃ・・・・・・」
  奈津子が、非難するような視線とともに控えめに言った。
  ちょっと言い方がまずかっただろうか、クラスメイトが死んでいるのだから――。
 「ごめん、訂正する。あたしがボディー・ガードしたげるわよ、あなたの」
  奈津子は何か言いかけたようだが、思いとどまったのか、ひょいと肩をすくめると、由貴子の同行を認めた。
  一旦言い出したことをやめる由貴子でないということは、奈津子が誰よりも一番よく知っていたし(まじめな委員長タイプの奈津子と、ちょっとすれた感じのする由貴子は、実は親友なのだ、性格はまったく違うけれども)、確かに由貴子がいれば心強いとも思った。
 「藍ちゃんは、どうする?」
  奈津子が聞くと、藍は慌てて頷いた。
 「行くよ、あたしも」
  いくら安全な場所でも、一人ぼっちで置いて行かれるよりは、まだ危険な場所を友達といたほうがいい、と思った。
  奈津子は頷くと、プログラム開始からはじめて、ウージー・サブマシンガンの安全装置を解除した。
  オーケイ、やっと出番ですか。待ちくたびれちゃいましたよ、おねえちゃん、いやホント。
  由貴子はアイスピックを握りなおし、藍は恐る恐るサーベルを握った。
 「じゃあ、行くわよ。もしはぐれたりしたら、ここが集合場所。いいわね?」
  奈津子が言った。
 「オーケイ」
  由貴子が肩をすくめる。
 「うん」
  藍が頷く。
  そうして3人は、それぞれの武器を手にし、植田市役所第一重役会議室を出た。
  電力供給がされていないので、エレベーターは使えない、当然のことながら。
  だから3人は、5階建ての市役所を、1階まで階段で降りなければならなかった。
  いやはや、なんて無駄な労力なのだろう、まったく。

  自動ドアを手で開き、3人は外に出た。
  まぶしい陽光が、今まで暗いところにいた彼女たちの目を眩ませる。
  徐々に瞳孔が絞られ、ようやく普通に見ることのできるようになった奈津子は、駐車場の向こうのエレメントの脇に人影を見止めて、目を見開いた。
  少し長めの髪――すらりとした長身――ギター・ピックを巧みに操るその指は、女子のように細長かった。
  三村慶吾だ!
  一目でそれと分かった――まぁ、なんとなくだけど。
  慶吾は、こちらに気付いていないようだった。
  駐車場に面した路上、エレメントの脇に駐車してある大型のトラックの陰で、何かごそごそとやっているようだ。
  奈津子は肘で、つんと由貴子の腕をつついた。
  それで、由貴子も慶吾を確認したのか、一気に表情をこわばらせるのが分かった。
  由貴子も同じく、藍の腕をつんとつつく。
  まるで伝言リレーだ――言葉のない伝言リレー。ああ、矛盾してるわね。
 「どう思う?」
 「どうって?」
  奈津子の言葉に、由貴子がいっそう声を低めて返した。
  質問の内容は分かっていたのだが、答えが分からなかったので、そう返すしかなかったのだ、由貴子は。
  つまり――慶吾はこのゲームに『のって』いるのか、いないのか――それが問題だ。
 「声、かけてみる?」
  藍の言葉に、由貴子は眉を寄せた。
 「気安く動いたらダメね。ひょっとしたら、彼はもうあたしたちの存在に気付いていて、あたしたちが近寄ったところを銃か何かで――」
 「ちょっと、やめようよ、こんなときに」
  奈津子が小声で、由貴子を諌めた。
  そう、信じ合えるかどうか、それがこのゲームの大切な要素だった――奈津子の考えでは。
 「あたし、声、かけてみる」
  奈津子が言うと、由貴子は方をすくめた。
  好きにすれば? でも、あなたが死んだら、悲しむ人がいるってこと、忘れてないわよね?
  そう考えた由貴子の目の前に、ずいっとウージーが差し出された。
 「何、これ?」
  由貴子が尋ねる。
 「持ってて、ちょっとのあいだ。あたしがこんなもの持ってたら、話しかける前に変な誤解、されちゃうかもしれないでしょ?」
 「そりゃ――そうかもしんないけどさ・・・・・・」
  由貴子は呟いた。
  ハハア、つまり何なわけだ。この子は全面的に人を信じてると、そういうわけね、単純に言うと。
  由貴子は思った。
  確かにその通りだった。
  それは由貴子から見ると、奈津子の長所であり、また同時に短所でもあった、この状況下では。
  奈津子は、このゲーム(ゲームなんて楽しいものじゃないわ、こんなの、相手のいない恋愛ごっこと同じよなもんよ)が始まったとき、決めたのだ――何があっても、クラスメイトを信じてみようと。
  それでたとえ、自分の身が危険になっても、それはそれでいいと思った。
  第一、自分のようなものが優勝する確率など、0の近似値だろうから――由貴子なら、ひょっとしたら、優勝することができるかもしれないけれど。
  それならば、最後まで人を信じられなくて死ぬよりは、人を信じながら死んだほうがいい。

 「もし、三村さんが――」
 「撃つわよ、もちろん。あなたにちょっとでも触ったりしたら、蜂の巣にしてやるわ」
  由貴子の返答に、奈津子と藍は、苦笑して顔を見合わせた。
  彼女たちが今の言葉をどう取ったのかは分からない――冗談だとでも思ったんだろう、多分。
  でも、由貴子は本気だった、完全に。
  慶吾がもし奈津子の肩にでも触れようものなら、由貴子は容赦なく撃つつもりでいた。
 「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
  奈津子はそう言い残し、足音を潜めて(そんなことをする必要はなかったのだが、なんとなく、そうなってしまっていた)慶吾に近づいていった。
  慶吾は、今もトラックの下を覗きこんで、何やらごそごそやっている。
  百科辞典を2冊重ねたくらいの大きな直方体の箱と、そこにトラックから伸びている赤と黒のコードがつながっっている。
  何やってるんだろう、彼は?
  奈津子は、思った。
  距離が近づくにつれ、身体中から冷たい汗が噴き出し、膝から下ががくがく震えているのが分かった。
  緊張なのか、恐怖なのか、よく分からない。
  とにかく、興奮していた、奈津子は。
  視界がどんどん狭くなり、今見えているのは慶吾の背中だけと言う状態だ。
  足を止めることもできた。
  だが、足は止まらなかった――慶吾の背中が、手を伸ばせば触れられそうな距離にまで近づいていた。
  いけない、近づき過ぎた!
  奈津子は思った。
  慌てて立ち止まった奈津子の目に、すっくと立ち上がり、こちらに振り向こうとしている慶吾の姿が映った。
  そして、もちろんその手の中には、拳銃が握られていた。
  その手の中の拳銃は、確実に奈津子の眉間をポイントしていた。

  しかし、慶吾は自分の顔を見ると、一瞬びっくりしたような表情になった――が、次の瞬間、どん、というとてもとても重い銃声が聞こえ、奈津子は思わず目を閉じた。
  ああ――貴志くん、ごめんね。もう、会えそうにないよ――。
  奈津子は、思った。

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