BATTLE ROYALE 2
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The Final Game 〜
[ 第四章 / 序盤戦(後編) ] Now 28 students remaining...
< 20 > 離別
由貴子は、いきなり自分のほうに吹っ飛んできた藍を、びっくりした表情で眺めた。
何が起きたのか、よく分からなかった。
三村慶吾がやったのだろうか? いや、しかし彼は――。
由貴子は、慶吾と奈津子のほうを見た。
奈津子は青ざめた表情でこちらを見、慶吾はすっと目を細めてこちらを見て、状況を一瞬のうちに理解したのか、ぐっと表情がこわばっていた。
その手の中の拳銃からは、煙は立ち上っていなかった。
慶吾は撃っていないのだ! では、いったい誰が!?
ふたたび、どん、という音がした。
「伏せろっ!」
慶吾の声が聞こえる前に、由貴子は藍の身体の陰に身を隠していた、藍はもう死んでいたので。
藍の両腕が、吹き飛んだ。
びしゅっと血が散乱し、由貴子の白いセーラー服に、筆で絵の具を飛び散らしたような模様ができた。
由貴子は、ちっと舌打ちをした。
散弾――ってことは、ショットガンだ、厄介なことに。
「由貴子ッ! 逃げてッ!」
悲痛な叫びのような奈津子の声が聞こえ、市役所のビルの壁に反響し、もう一度聞こえた。
ええ、そうするつもりよ、奈津子。――できればだけどね。
由貴子は藍の死体を投げ捨て(ごめん、許して。でも、痛みはないでしょ?)、ばっと市役所の半分開いていた自動ドアの中に跳び込んだ。
また、どん、という音が聞こえ、自動ドアのガラスが木っ端微塵に砕け飛び、その破片が由貴子に降りかかった。
鋭いガラス片が、由貴子の背中や首筋、顔を襲い、うっすらと血を滲ませる。
由貴子は、いきなり攻撃されたことより何より、自分の身体に傷をつけられたことに腹を立てた。
誰だか知らないけど、よくもあたしの身体に傷つけてくれたじゃない! 絶対許してやんないからね、もう!
さっと立ち上がり、藍の死体の状況やガラスの割れかたから散弾が発射された方向を瞬時に割り出した由貴子は、そちらの方向に向かい、ウージーの引き金を引いた。
ぱぱぱぱぱぱ――。
強い反動が由貴子を襲ったが、女子柔道部に所属していて、全国大会にも行ったことのある由貴子は、暴れたがるウージーをぐっと押さえ込むことができた。
そう言えば、奈津子は大丈夫だろうか?
チラッと奈津子と慶吾のいたほうを見ると、奈津子が慶吾にかばわれて、トラックの下にもぐりこむところだった。
ハハア――オーケイ、三村さん。あんた、やっぱりいい人なわけね。できればこっちも助けてくれれば、もっといい人になれるんだけど?
どん、とまたショットガンが発射され、今度は慶吾の頭上、数十センチのところを散弾の群れが襲い、トラックの荷台の側面に無数の穴をあけた。
「まったく、厄介な武器が多いもんだな、今年は」
慶吾は苦笑しながら、言った。
南由香利に支給されたキャリコといい、ショットガンといい、坂待が言ったことはあながち嘘ではなさそうだった。
『今回はちょっと奮発して、凄いのも入ってるからなー』――坂持の言葉がよみがえる。
だが、慶吾は知らなかった――更に厄介な武器、旗山快のグレネード・ランチャーがあることを。
そんなことより、とにかく、目の前の見えざる敵が問題だった、当座は。
「おい、ソーセージになりたくなかったら、頭すっこめてたほうがいいと思うぜ、俺は」
トラックの下にもぐりこんだ奈津子にそう言うと、慶吾はベレッタを握りなおし、散弾が飛んできた方向をじっと凝視した。
車の影か――もしくは植え込みの影から撃ったに違いない。
ぱぱぱぱぱぱ――!
由貴子が入り口の辺りから、ウージーをぶっ放している。
しかし、シャワーのように車や植え込みを貫いたはずの弾丸は、どれひとつ効果を上げるものはなかった。
どん! と、今度は先程とは違う方こうから、重低音がした。
慶吾は頭を下げ、散弾を回避する(トラックのキャビンを散弾が貫き、ステアリングが吹き飛んだ)。
「ちっ、何なんだ、いったい? どっから撃ってきてんだ?」
慶吾は思わず、舌打ちをした。
ほんの数秒間で、相当位置を移動している。
運動神経に自信がないわけではない慶吾も、さすがにこんなに速く移動できるかどうか分からなかった。
どん! ――今度は、管理棟の影からだ。
無数の散弾の群れが、慶吾がせっかく作った装置を吹き飛ばす。
クソ――あの野郎、人の苦労も知らないで。チクショウ。
「稲山サン――だったな? 早いとこ、逃げたほうがいいみたいだ、どうも」
慶吾は言ったが、奈津子は首を横に振った。
「あたしだけ逃げれないわ、由貴子や――三村さんだって」
そう言った奈津子に向かい、慶吾は人の良さそうな笑顔を見せた。
秋子のおかげで、三村信史から感染した嫌みったらしい笑い方を、すっかり忘れてしまっていた。
「いいこと教えてやろうか?」
急に悪戯っぽく輝いた慶吾の瞳にたじろぎながら、奈津子は、なに? と首を傾げた。
「杉山貴志だけどな、あいつ、商店街の薬局にいるよ。黒澤と、太田と――南も一緒だ。早く行ってやれ、商店街の薬局だぞ、いいな?」
そう言い残した慶吾は、奈津子を残して、エレメントの影から飛び出し、駐車場の脇の植え込みに走った。
ただ闇雲に走ったわけではない――見えたのだ、その植え込みの影から細い銃身が突き出ているのを。
そして、どうやらそいつは、ショット・シェルを入れ替えようとしているらしかった。
今しかない、と思った。
慶吾の接近に気付いたのか、そいつは植え込みから立ちあがり、古戦場の方向に逃げようとした。
そこへ横から、由貴子のウージーが弾丸のシャワーを浴びせかける。
怯んで立ち止まるかと思ったが、予想外なことに、学生服をばっと脱ぎ捨てると同時に、そいつは強く地面を蹴ると、パラベラムのシャワーの中に迷わず突っ込んだ。
一瞬、学生服に気を取られ、由貴子のウージーのポイントが微かにブレた。
その微かなブレの中を縫うように、そいつは慶吾も驚くほどのダッシュで逃げていく。
慶吾にはもう分かっていた、あいつは滝川直(男子十三番)なのだと。
体力測定のとき、100メートル走で慶吾すらコンマ03秒の差で敵わないほどのダッシュを、直は持っていたので。
直に負けたとき、正直、俺ももう歳かなと思ったのだが、タイムを聞いてそれが錯覚であると分かったときは、さすがの慶吾も驚いた。
なにしろ、自分の出したタイムは、過去に測った100メートル走のベストタイムより、コンマ1秒速かったので。
どうやら俺は、とんでもない奴を相手にしてしまっているみたいだ――。
直の背中をどうにか見失わないように追いながら、慶吾は思った。
それにしても、太田の奴――滝川は信用できるとか言っておきながら、どういうことだ、おい?
慶吾は考えたが、必死に追っているうちに余裕がなくなってきて、すべての思考を走ることだけに費やした――そう、3年前、桐山和雄から逃れるときのように。
滝川が、公園になっている城跡に入るため、交差点を曲がった。
まったく――なんだってあんなに足が速いんだ、奴は?
思った。
それは、慶吾(秋也だったが)が三村信史と短距離走で競ったときくらいしか、感じたことのない内容だった、あのときは慶吾が勝ったのだけれども。
慶吾はそのスピードのまま、体を倒し、無理に交差点を曲がろうとした。
その慶吾の目に、数メートル先、呼吸を整えながら慶吾が交差点に入ってくるのを今か今かと待っていたように、完全にショットガンを構えた滝川直の姿が映った。
ヤバイな、こいつは、どうも。
止まろうと思ったが、慣性の法則は無視できず、止まることができなかった、すぐには。
自分に向けられたショットガンが、吼えた。
火炎放射器のような炎が、自分に向かって一直線に伸びてくるのを、慶吾は視界の隅で捕らえることができた。
慶吾は身体をひねって胸を反らせたが、広域に広がる散弾からはどうやっても逃れられそうにない。
迫り来る火炎の向こう――ショットガンの銃口の奥で、黒服の男が慶吾ににやりと笑いかけた気がした。
やぁ、やっと私の出番ですね。長いこと待たされましたからね、3年以上も。あなたは特別、大きな棺桶に入れてあげますよ。なに、お代は頂きませんって。
ああ、そうなの。タダだったら、入ってやってもいいかもな。
慶吾は、思った――まだ入りたくはなかったけれども。
§
どん――。
遠く聞こえたショットガンの銃声(間違いない、あの重低音はショットガンだ、自分たちを殺そうとした)に、由貴子は思わず立ち止まって、振り向いた。
「どうしたの? 早く行こうよ」
奈津子が、由貴子を急かすように、言った。
貴志に会えるのがよほど嬉しいのだろう、目がきらきらと輝いている。
ハハァ――これが恋する乙女の瞳ってわけ? 確かに、眩しいわね。自分の目も眩んでるんじゃないの?
由貴子は思ったが、口には出さなかった。
こんなときにケンカの原因は作りたくない、なるべくならば。
でも、言った。
「今、ショットガンの音が聞こえたわ、向こうから。三村さん、大丈夫かしら?」
それで、奈津子は、恋する乙女の瞳から、1人のプログラム参加者の瞳に戻った。
「分からないわ――」
奈津子は言った。
あらあら、助けてもらったってのに、薄情なのね、結構。
由貴子は思った。
今度も口には出さなかった、もちろんのことながら。
「でも、はやく貴志くんたちと合流できれば、みんなで探しに行けるじゃない? 人数は多い方がいいし――それに武器だって――」
奈津子は、言った。
理由はどうあれ(奈津子がただ単に、はやく貴志に会いたいだけの言い訳だったとしても)、正論ではあった、確かに。
だけど、それまでに彼が殺されちゃったら、何の意味もないわよ?
由貴子は思った。
今度は、口に出してみた。
「それはそうだけど・・・・・・」
奈津子の表情が、曇る。
由貴子の頭の中に、貴志と慶吾を天秤にかけている奈津子の姿が浮かび、なんとなく、可笑しかった。
さぁさお立会い! 自分のオトコと命の恩人、果たして彼女はどちらを選ぶでしょうか?
「ま、いいわ。あたし、ちょっと三村さん、探してくる。あなたは、貴志くんのとこに行きなさいよ」
「え? でも――」
言いかけた奈津子を言葉を遮り、由貴子は、手に持ったウージーをひょいと持ち上げた。
大抵のことは、これがあれば何とかなる――はずだった。
「貴志くんたちと合流したら、あたしが戻るまでそこで待ってて。次の放送までには戻るから。もし戻らなかったら――」
由貴子の言葉が、途切れた。
「戻らなかったら?」
聞き返した奈津子に、由貴子はちょっと苦笑した。
鈍すぎるわよ、あんた。あたしに全部言わせるつもり? 残酷なコね。
「――死んだってことにして。あたしも、三村さんも」
由貴子の言葉を聞いて、さっと奈津子の顔が蒼ざめた。
「ゆき――」
「じゃね! 彼氏にヨロシクね!」
奈津子の言葉を遮り、由貴子はくるりと向きを変えると、さすがは体育会系だと唸らせるようなダッシュで、奈津子から離れていった。
あれから、もうショットガンの銃声は聞こえてこない。
奈津子は、ぶるっと身震いをした。
もう三村慶吾は、殺されてしまったのだろうか?
もしそうだとしたら(いや、そんなはずがない――と思う、多分)、慶吾を探しに行った由貴子は、待ち構えた直の餌食になってしまうだけではないのか?
由貴子の背中が、路地に隠れて見えなくなった。
奈津子は向きを変え、貴志の待つ商店街の薬局へと、足を早めていった。
しかし、奈津子はなにか、いやな予感を背筋に感じた。
なぜかは知らないが、奈津子はそれで、もう二度と慶吾や由貴子に会えないような、そんな気が、した。
それは、とても漠然としていたけれど――。
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