BATTLE ROYALE 2
The Final Game



       [ 第八部 / 終盤戦(前編) ] Now some students remaining...

          < 40 > リターンズ


  時間は、少し前にさかのぼる。

  ――バン!
  ――パン!

  乾いた銃声が二発、雨の商店街に響き渡った。
  思わず慶吾は、目をつむった。
  胸にきゅんっと何かが食い込む感じがした。
  思った。
  ああ、死んだな、俺。殺された、間違いない。
  もう少しで典子と会えたってのに、なんでばかなんだ俺は、まったく。
  デートの約束はキッチリ守るってのが、俺の自慢だったのに。
  まあ、デートなんてほとんどしたことないんだけど、実のところ。
  いいじゃないですか、そんなことは、もう死んだんだから。

 「・・・・・・」

  わずかな沈黙が訪れた。
  ・・・・・・おや、と慶吾は思った。
  考えた。
  ちょっと待てよ、俺、撃ってないぞ、今回、飯田に向かって?
  そうだった。
  結局のところ、秋也はあのままベレッタの引き金を引けずじまいだったのだ、浩太郎に向かって。
  しかし、銃声は二発聞こえた――ような気がする、多分。
  それに――撃たれた感覚がない、腹に受けたショットガンの痛みはあるのに。
  即死だったのか、実は?
  いやいやおにいちゃん。即死ならそんなこと、考えてられませんって。なに言ってるんですか、もう。
  慶吾は、ゆっくりと目を開けた。
  死んではいなかった、どういうわけか。
  そして、見た。
  浩太郎の手首のところから血がつらつらと流れていて、蒼白い煙を出しているニューナンブのグリップをぐっしょりと血で濡らしているのを。
 「あ――え? あ・・・・・・ああああぁぁぁぁぁ・・・・・・!」
  浩太郎は、左の手で右の手首を押さえながら、地面にしゃがみこんだ。
  慶吾は、自分の手の中にあるベレッタを見た。
  煙は出ていなかった、当然だ、撃っていないのだから。
  慶吾はゆっくりと、顔を左の方に向けた。
  そこには、二人の人影が立っていた、まるで幽霊か何かのように。
  慶吾は少しびくっとし――しかし思った。
  おいおいちょっと待ってくれよ。いつから肝試しになったんだ、このクソゲームは? まさか襲ってきたりしないだろうな。
  いくら殺しても死なないゾンビだ、まるで。オーケイ、優勝は確実じゃないか。
  だが――幽霊なんてものがいるはずがなかった、実際。
  とにかく、幽霊なわけはない。
  慶吾は少し目を細め、その人影をじっと見つめた。
  そしてすぐに――目を見開いた。
  その人影に、見覚えがあったので。
  一瞬、本当に幽霊かもしれないと思ったので。
  片方は、長身で、眼鏡をかけていて、見るからに頭のきれそうな、学生服を羽織った男子だった。
  もう一方は、小柄、で髪が長く、優しそうな細い目をした、セーラー服を着た女子だった。
  ああ――
  慶吾は、思った。
  神様、仏様――なんでもいい、この際――今度ばかりは感謝するぜ、いやホント。

 「杉山ッ!」
  慶吾は、叫んだ、腹の傷がズキンと痛んだけれども。
  そんなことは気にならなかった――まあまだ我慢できる、10秒くらいは。
 「危ないとこだったぜ、今の。しっかりしてくれよな」
  言いながら、杉山貴志(男子十一番)は、まだ煙の昇っているスミス・アンド・ウェスン・M586リボルバーをおろしながら、微かに笑んだ。
  そう――浩太郎よりも、慶吾よりも、誰よりも真っ先に引き金を引いたのは、他ならぬ貴志だった。
  その弾丸は浩太郎の手首を貫き――拳銃を狙ったつもりだったんだけど。まあ、俺、肩に怪我してるんだし。当たっただけいいじゃないか――それで、浩太郎は、慶吾に向けた銃を正確に撃てなかったのである。
  ナイス・タイミングだった、いやはや、危機一髪だ、ホントに。

 「・・・・・・死んだんじゃなかったんだな?」
  慶吾が言うと、貴志はおいおい勝手に殺すなよと言って、眼鏡のレンズについた水滴をピッとはらった。
  言った。
 「俺だけじゃ、死んでたよ、多分。南サンにさ、助けてもらったんだ。な、南サン?」
  それで、慶吾は、南由香利(女子二十番)の方に視線を移した。
  由香利は少し照れたように微笑んで、言った。
 「そんな・・・・・・助けただなんて、あたしは別に。あたしの方こそ、杉山くんに迷惑ばっかかけちゃって――」
  そして、由香利は、慶吾の方に視線を移した。
  瞳が潤んでいるようだった、少し。
  思った。
  ああ――ひょっとしてまた涙ですか? 俺、苦手なんだよ、キュートガールの涙ってのは。
  だから、慶吾は、言った、ちょっとふざけた感じに。
 「ごめんよ――デートの約束、すっぽかしちまって。でも――よかった、生きてて」
  言ってから、考えた。
  ああ――感動的な再会だってのに、まったく俺ってのはとことんパーだな。
  でも、まあ、少しは効果があったようだった。
  それで、由香利は、くすくすと笑った。
  涙は出てはいなかった。
  言った。
 「わたしたちは大丈夫。誰とも、会わなかったし、ずっと隠れてたから。三村さんは――?」
  慶吾は、軽く苦笑した。
  いやはや、今まで幾人に遭っただろう、一体?
  琴河藍(女子八番)に滝川直(男子十三番)、千早由貴子(女子十三番)――ああ、でも死んだ、みんな。死人の名前。ジーザス。
  まあ、一言では言い表わせなかった、とにかく。
  だから、笑った。
  言った。
 「いや、別に。――ああ、中山サンに遭ったよ」
  由貴子のことは言わなかった、意味のないことなので。
  別に言ってもかまわないだろうが――建設的ではない、この場で言うのは。
 「諒子ちゃん?」
  由香利は、訊いた。
  慶吾はああ、と頷いた。
 「色々とあってさ、一緒にいる、黒澤と。そっちのクルマの向こうに――」

  慶吾が言いかけたとき、ドイツ製の車から出ている真っ黒な煙のなかから(ナチスのクルマは低公害車じゃなかったのか? 環境汚染もいいとこだ)健司と諒子が現れた。
  貴志と由香利の姿を見とめ、健司は一瞬おどろいたように目を見開いたが――すぐに笑んだ。
  言った。
 「――生きてたか」
  貴志が、にやっと笑った。
  言った。
 「心配かけたな――と言いたいところだが、それはこっちの台詞だ。今までどこをほっつき歩いてたんだ、まったく。おまえがいれば、俺はこんな天然のシャワーを浴びる必要がなかったんだ、実際」
  それで、健司は、微かに苦笑したようだった。
  諒子も、この二人なら信用できると思ったのか、ほっとしているようだった。
 「ともあれ、無事でよかった。早いとこ、このクソ食らえなゲームから逃げるとしようじゃないか」
  慶吾は言った。
  それで、その場にいた全員が、不思議そうに慶吾を見つめた。
  そんなに見つめないでくれ、俺、シャイなんだ。照れるじゃんか。
 「どういうこと? 逃げられるの、あたしたち?」
  由香利が、驚いたように――実際、驚いていた。まあ当然だ、何も知らないのだから――訊いた。
 「一体どうやってだ? 第一、この犬コロみたいな首輪はどうする?」
  慶吾が答える前に、健司が冷静に訊いた。
  慶吾はちらっと笑んで、言った。
 「まあそのへんは問題ない。本部のコンピュータがいかれてるんだ、今。だから、禁止エリアも関係なくなってる」
 「そうなのか!?」
  貴志が、声を上げた。
  それから、ちょっと周囲を見まわして、言った。
  少し低い声で。
 「どうしてそんなことがわかるんだ? そもそも――コンピュータがいかれるなんて、あるのか、本当にそんなことが?」
  貴志がそう思うのも無理はなかった。
  プログラムは、ハードウェアとしては完璧と言われていた、軍事機密なので何がどう完璧なのかはわからないが。
  しかしとにかく――ソフトウェアでは完璧ではなかったというだけのことだ。
  いや、もっと正確に言うならば、完璧なソフトウェアなど存在しない、この世界には。
  必ず、どこかに穴があるはずだった。それも、ノミが通れるかどうかも知れない、小さな穴が。
  典子はそこを突いたのだった。

  しかし――慶吾はそれらの質問に、直接的には答えなかった。
  まだまだ不可解な部分がかなりあるし、それに何より――時間がなかった。
  典子のメッセージによると、本部のコンピュータが復旧するまでおよそ10時間。
  メッセージが聞こえたのが18時30分頃で、今は20時20分だ、もう。
  あと8時間足らずのあいだに、このクソやくたいもない首輪をどうにかして外して、逃げ出さなければならない、この会場を。
  首輪さえどうにかなれば、ひょっとして場合によっては本部を襲うこともできるかもしれないが――
  あとで考えればいいことだ、それは。
  とにかく、当座やらなければならないことは――総合病院に行くことだ、とりあえず。
  そこで典子と合流して、なんとか最良のアイディアを出さなければならない、あと8時間のあいだに。
  おやおや困りましたね。24時間、誰も死ななきゃ全員死ぬってルールが、8時間になっちゃいましたよ。どうするんです、一体?

  慶吾は、言った。
 「とにかく、今は時間がない。詳しいことはあとで話すから、一刻もはやく北にある総合病院に行こう。すべては、それからだ」
  それで、健司は、分かった好きにしてくれと言うように、肩をすくめた。
  それから、言った。
  今までの口調とは、幾分ちがう感じで。
 「それはいいとして――こいつは、どうする?」
  健司は、使い古したスニーカーのつま先で、アスファルトの地面にうずくまっている浩太郎の身体をちょっと蹴った。
  それで、浩太郎は、ひっと小さく悲鳴を上げた。
  撃ち抜かれた手の甲からは、まだ真っ赤な鮮血がだらだらと流れ出していた。
  浩太郎は、叫んだ、泣きそうな声で。(実際、半分泣いていた)
 「こ、殺さないで――! 殺さないでくれ! ぼ、僕が悪かった。謝る、こ、この通りだ! だから――!」
  浩太郎は、額を雨が打ち付ける冷たいアスファルトに擦りつけた。
  “名誉ある専守防衛陸軍少佐の息子”である浩太郎にとっては、土下座なんてことはもちろん今までにしたことはなかった。
  ただ、テレビなどで見ていて(DHKとかいうお堅い民間のテレビでは、つまらないニュースの他にもちょっとしたドラマなんかもやっていた。まあ、大抵は共和国が米帝になんとか勝った、大東亜戦争とかいう戦争モノだったが)父親が何度も言っていたのを、覚えている。
 「いいか、浩太郎。人間な、こうなったら生きる意味なんてのはないんだ。いいか? おまえ、こんなことするくらいだったら死んだ方がマシだぞ」
  そのときは浩太郎ももっともな正論だとは思ったが――もうそんなことは言っていられなかった。
  殺すか、殺されるかの、ギリギリ極限状態だ、プログラムというのは。
  プライドがどうのとか言ってられる状況ではない、はっきり言って。
  オーケイいいぜ、土下座だろ? いいさ、してやるとも、土下座して助かるんならいくらでもしてやる、ちくしょう。

 「俺が思うに――」
  健司は、言った。
 「危険要素をこれ以上増やすと、厄介じゃないか?」
  言いながら、健司はグリップが血で汚れている浩太郎のニューナンブを蹴り上げた。
  まるで、サッカーボールを扱うような感じだった。
  拳銃はくるくると回りながら、がしゃっと慶吾の足元に落ちた。
  浩太郎は「あっ」と声を上げたが――別にその銃を取り返そうとはしなかった。
  もっとも、右手が使えないのだから取り返しても意味はないのだが。
  しかし、とにかく、慶吾はその銃を拾い上げた。
  グリップが浩太郎の血でぬるぬるとして、いい感触はしなかった、あまり。
 「俺も、そう思うな」
  貴志も、健司の意見に同意した。
 「こいつは一度助けてもらってるのに、それを仇で返そうとしやがった。情状酌量の余地は、ないんじゃないか?」
  貴志は冷たく言い放った。
  それで、浩太郎は、びくっと身体を硬直させた。
  思った。
  こ、殺される――! 僕は、僕はもう――

 「・・・・・・ちょっと、待ってよ」
  そこに、由香利が、口を挟んだ。
  言った。
 「そんなことは、ないと思うわ。確かに、飯田くんは三村さんを殺――そうとしたけれど、でも、それが理由であたしたちが彼の命を奪っていいって理由には、ならないと思うわ」
  由香利に続けて、諒子が言った。
 「わたしは――わたしは、飯田くんを、許すことはできない」
  そう、許せない、由貴子を殺したのだから。
 「でも――」
  諒子は、続けた。
 「危険だから、殺してしまおうって意見には、賛成、できないな。心の中では、とても」
  頭の中では、浩太郎を殺してしまいたかったのだけれど。
  もちろん、できない、そんなことは。
  言い終わったあと、諒子は慶吾の顔を見た。
  それで、慶吾は、にやっと笑った。
  言った。
 「それは、そうかも知れない。でも、俺たちは、生き残らなくちゃならない。一人が裏切ったせいでみんなが死ぬことになるっていうのは、俺は嫌だな」
  慶吾は言いながら、銃の側面のレバーを軽く引いて、弾倉を解放した。
  そこには、金色に鈍く光る38スペシャルが六つ、こちらに尻を向けて詰まっていた。
  一発は既に発射されたあとだったので、激発したときの衝撃で奇妙に変形したままだった。
  それを確認してから、軽く手首を返して弾倉を元に戻した。
  そして――ちょっと目を閉じた。
  もちろんそれは、少し冷静になって考えるための何でもない仕草だったのだけれど――不思議な現象が起こっていた、慶吾の頭の中で。
  閉じた目蓋の奥、真っ暗な視界の中に、学生服を着た人影が一人、浮かび上がった。
  ごついボクサーのようなしっかりとした肩、テキ屋のあんちゃんのように短く刈った髪、目の上の大きな刀傷――



  秋也は、思った。
  久しぶりじゃないか、川田。どうでもいいけど、おまえ、全然変わってないな。
  川田が言った、ニヤニヤ笑いながら。
 「おまえは随分と変わったんだな、七原。どうしたんだ、そんな酒を飲み過ぎたような顔して?」
  思った。
  ほっといてくれよ。腹に散弾、食らってんだ。酒飲み過ぎたときほど、ひどくないけどな。
  川田は、ふんと笑って片方の眉を少し上げた。
  言った。
 「実際、甘過ぎるんだよ、おまえは。言っただろう、俺が、前回のこのクソゲームの最中に? 相手が女だろうがなんだろうが、向かってきたら容赦はするなってな」
  思い出した。
  おにいちゃん、忘れてたんですか、今まで? だめじゃあないですか、基本ですよ、それ。今度は忘れないで下さいよ。メモ用紙、いります?
  しかし、秋也は、川田の咎めるような口調にも、別にむっとしたりはしなかった。
  ただ、思った。
  そりゃあ容赦はしないさ、俺だって、どんなときでも。しかし撃つときに躊躇うのが、人間ってもんじゃないのかい?
  川田は、タバコの煙を吐きながら小さく肩をすくめた。(ちなみに銘柄はワイルドセブンだった)
  言った。
 「それが甘いって言うんだよ。そんなことしてたら、殺して下さいって言ってるようなもんじゃないか」
  思った。
  でも、俺はそれが人間だと思う。人間ってのは、そうあるべきなんだ、本来。
 「性善説を肯定するってのか? 悪いが、俺は性悪説の信者なんだがな」
  どっちでもいいじゃないか、そんなことは。
 「相変わらず能天気だな。――まあそこがおまえのいいところでもあるんだが。とにかくだ、撃たれる前に撃つ。それが、鉄則だ、このしあわせゲームでは」
  秋也は頷いた。
  ・・・・・・わかってるさ、そんなことは。しかし――やっぱり進んでは殺せない。そうだろう?
  すると川田は、ワイルドセブンを美味そうに吸って、にやりと笑って片目を閉じた。
  ウィンクだった。
  言った。
 「俺の考えが正しいか、おまえの考えが正しいか――それはこの“プログラム”が終わったらはっきりしていることだ。だったら――おまえの思うようにやってみるといい」
  それだけ言うと、川田の姿が、すうっと消えはじめた、まるで霧が晴れるみたいに。
  秋也は、別に慌てたりはしなかった。
  ただ、言った。
 「典子は絶対に俺が守る。約束だからな」
  それで、川田は、微かに笑んだようだった。



  慶吾は目を開いた。
  目の前には、相変わらず降っている雨と、その雨でびしょびしょに濡れて地面に膝をついている浩太郎がいた。
  続けた。
 「――でも、俺は、おまえを殺さない。俺を――俺たちを信じろ、飯田。そうすれば、必ず生きて逃がしてやる。だから、おまえも俺たちに協力してくれ」
  それで、浩太郎は、顔を上げて慶吾を見つめた。
  浩太郎と視線が合うと、慶吾はすっと目を細めた。
  言った、いくらか厳しい声で。
 「ただし――もしおまえがそれで俺たちを裏切るようなことがあれば、今度は、容赦はしない。俺は、おまえを、殺さなければならない。わかったか?」
  浩太郎は、ぽかんと口を開けていたが――慌てて何度も頷いた。
  頭を振るたびに、雨に濡れた浩太郎の癖のある髪から、雫が飛んだ。
  浩太郎から視線を外し、慶吾は言った。
 「時間がない。南サンは、飯田の傷の手当てを。中山サンと黒澤と杉山は、武器のチェックをしてくれ。残弾数を数えておこう」
  それで、由香利は急いで浩太郎の手当てに取りかかった。
  貴志は小さく肩をすくめて、ディバッグのなかのM586の残弾数を数え出した。
  諒子も、チョーク箱を開けて454マグナム弾の残弾数を数えはじめた。
  まだ、納得はできていないようだったけれども。
  健司はひとつ溜息をつくと――
 「甘過ぎるぞ」
  と、ひとこと慶吾の肩越しに呟いた。
  慶吾は、ちらっと苦笑した。
  呟いた。
 「それ、前にも言われたことあるな」
  そうだった――川田章吾に、だ。それもつい先程。
  あれ、夢だったんじゃないんですか? 睡眠不足が祟ってるんじゃあないんですか。早々に死んだ方が楽ですよ、絶対。
 「まあそうだろうな」
  健司は笑うと、諒子のカースルの残弾数を数え始めた。




       §

  結局、すべての作業を終えたのは、20時45分を過ぎた頃だった。
  チームで所有している武器は、慶吾のピエトロ・ベレッタ・M92FS(9oパラベラム弾使用、予備マガジン残りひとつ)と、ベネリM3Aソードオフ・ショットガン(12ゲージ・ショットシェル使用、残弾数10発)、貴志のスミス・アンド・ウェスン・M586(357マグナム弾使用、残弾数12発)、諒子のフリーダム・アームス・モデル・カースル454(454マグナム弾使用、残弾数10発)、そして健司のキャリコM110(22口径ロング・ライフル弾使用、予備弾倉残りひとつ)、さらに浩太郎の持っていたニューナンブM60(38スペシャル弾使用、残弾数18発)だけだった。
  おにいちゃん、これこれ、忘れ物ですよ。しっかりしてくださいよ、もう。
  ああ――そうだった。
  ウージー・サブマシンガンが残っていた、忘れていたけれども。
  とりあえず、ウージーは残りの予備マガジンが三つあった。
  シグ・ザウエルは、薬局の爆発でどこかに吹き飛んでしまったらしい。
  瓦礫のなかを漁ればあるかも知れないが――そんなことをしている時間はなかった、もう。
  まあ、これだけの火力があれば、大抵のことには対応できるはずだった。
 「こんなもんか・・・・・・」
  健司は、ちっと舌打ちしながら呟いた。
  銃器の数自体は多いのだが、残弾数はあまりなかった。
  もっとも多く残っているもので、浩太郎のニューナンブの18発だけだった。
  もちろん、キャリコは弾倉ひとつにつき100発の弾丸が入っているのだが――高速連射で弾丸を撃ち出すので、100発の弾丸でもわずか数秒で撃ち尽くしてしまう。
  弾丸のない拳銃は、食べるものがないときのフォークよりも使いものにならない、はっきり言って。
 「仕方ないさ。今までちょっと無駄に使い過ぎたからな」
  慶吾は言い、ベレッタをズボンのベルトの間に突っ込んだ。
  ショットガンにも、残りわずかなショットシェルを詰め込んだ。
  ベレッタの最後の予備マガジンと、残った三発の12ゲージ・ショットシェルは、制服のポケットに押し込んでおいた。
  健司は、キャリコと浩太郎のニューナンブ(浩太郎は右手を撃たれて、銃など使える状態ではなかった、とても。それに、健司はまだ浩太郎を完全に信用しているわけではなかった。いきなり背後から襲われて、あの世で後悔したって仕方がないだろ?)を持った。
  貴志は肩に怪我をしていたが、丸腰よりはマシなので、とりあえずスミス・アンド・ウェスンを持っていた。
  諒子はカースル454マグナムだ。(嫌いなのになあ、この銃)
  由香利は、ウージー・サブマシンガンを持った。
  完全武装だった、とりあえずは。

  

 「よしっ、じゃあ行くこう。地図の縮尺が正確なら、総合病院までは40分とかからないはずだ」
  慶吾は、言った。
  健司は軽く肩をすくめ(やれやれ、40分も歩くのかよ、この雨の中を?)、貴志は微かに頷いた。
  由香利は口元を引き締めたし、諒子はカースルをきゅっと握り締めた。
  浩太郎は――ちょっと地面に視線を落とした。
  思った。
  どうしてこいつら、こんなふうにやれるんだ、この状況で?
  修学旅行(もちろん、今はプログラムだ、くそ)の前から、こんな仲のいい連中だったか、こいつらは?
  誰か――誰でもいい、とにかく、一人でも裏切れば、すぐに皆殺しにされちまうんだぞ、全員。
  本当にここを脱出できる方法があるってのか?
  だから、みんな協力し合ってんのか?
  なんでこいつら――こんなにお互いを信用しきれるんだ?

  浩太郎は、ちらと慶吾を盗み見た。
  思った。
  俺は――俺は本当に、あんたを信用してもいいのか?
  もし俺をいいように使って、最終的に殺すつもりだとしたら――
  そう考え、浩太郎はぶるっと身震いをした。
  いいやよく考えろ――本当に僕を殺す気なら、さっき殺していたはずだ、少なくとも。
  だが、しかし――
  そこでふと、浩太郎は思い出した。

 『わたしたちは、殺し合いを、する』
 『やらなきゃ、やられる』

  ・・・・・・そうだった。
  そう書いたではないか、あの中学校を出るときに。
  やはり――そんなに易々と人を信用することはできない、たとえ一回くらい命を助けてくれたやつだとしても。(ああ、二回か。まあどっちでもいい)
  いまは仲間づらをしても、いつ状況が変わって、自分を殺そうとするかもしれないじゃないか。
  中山や南も、女だからって油断はできない、何しろ銃を持っているのだから。
  さっきはあんなことを言っていたとしても、ひょっとしたら俺を安心させるための演技だったのかもしれない。
  そうに違いないのだ、きっと。
  ちくしょう、死んでたまるか、こんな所で!
  俺は――俺は――生残るんだ、絶対に!

  浩太郎は、商店街の裏道を縫うように総合病院へ向かって進んでいく人の列(葬列か、これは?)の一番最後にくっついて歩いていたが――その無事な左手は、無意識に学生服のポケットの中へと伸びていた。
  そこには――ディバックのなかに、銃とともに入っていたもうひとつの武器が入っていたのである。
  “特別付録”と書かれたその武器は、コンビニに売っている整髪剤くらいの、小さなスプレー缶だった。
  もちろん、中身はまったく違ったのだけれど。
  とにかく浩太郎は、すぐにでもそのスプレーのバルブを解放できるように身構えていた。
  一度バルブを捻れば、猛毒の神経系ガス(中身はなんだかよくわからない、長い名前のガスらしい。取扱説明書によると、ジ・イソプロピル・ホスホフルオリデートとかなんとか)が噴出する。
  もちろん、スプレー缶といっしょにヒード(専守防衛海軍仕様の局地専用小型酸素ボンベのことだ)が入っていたので、自分が死ぬことはないはずだった。
  まああんまり使いたくはないのだけれど――いざというときは仕方がない、どのくらいの効果があるのかはわからないけれど。

  人を信用するっていうのは、そう簡単にはできませんよ。そうでしょう、おにいちゃん?
  ああ、そうだよ――まったくその通りだ。
  浩太郎は、思った。
  人は、人を完全に信用することはできないのである。
  健司が浩太郎を疑っているように、浩太郎もまた慶吾のチーム全員を疑っているのだった。
  そして、それは、ちょっとしたことで、すぐにチームが崩壊する危険性を秘めていた。
  もちろん、そのことに気づいている人間はまだ誰一人としていなかったのだけれど。(浩太郎を除いて)
  この時点では、まだ――

  いつのまにか、あれほど激しかった雨は小雨程度になっていた。
  風は相変わらず強かったのだけれど、しかし、今まで真っ暗だった空の雲の切れ間から、微かな光りが漏れ出していた。
  月の光だった。
  いつもと変わらない月光だったのだけれど――東京で見る、ぼんやりと寝ぼけたような光だ――それが、浩太郎には、気に食わなかった。
  ちくしょう、俺たちが殺し合いをしているっていうのに。
  なにも変わらないのか、世界ってやつは――

  【残り**人/端末損傷の為、モニター不可】


       [ 第八部 / 終盤戦(前編) 完  第九部へ続く・・・・・・ ]


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