BATTLE
ROYALE
〜 荒波を越えて 〜
15
「悪いけど、愛ちゃんが気を失ってる間にスカートとリボンを交換させてもらったわ。これで、他の子にはあたしが愛ちゃんにしか見えないわね。念のために生徒手帳も交換しておいたから完璧よ。愛ちゃんが騙されてくれたおかげで作戦は成功しそうだわ。有難うね」
来夢は独房の中の愛夢に、こう話しかけた。
愛夢はまだ理解できないらしく、呆然としている。
来夢はさらに言葉を重ねた。
「あたしの姿のままでは、他の子は警戒して近寄ってこないでしょうけど、愛ちゃんの姿になっていれば、殆どの子に受け入れてもらえるはずよね。そして、みんなは自分が愛ちゃんに殺されたと思って死んでいくのよ」
愛夢が言葉を返してきた。
「まさか、あたしに化けてみんなを殺すって言うの?」
来夢は冷淡に答えた。
「そのまさかよ。これであたしは愛ちゃんとみんなに対する妬みから解放されるのよ」
来夢はずっと愛夢に対して劣等感を持っていた。おそらく、愛夢はそんなことは夢想だにしていないだろうけど。
いつも友人たちと楽しく過ごしている愛夢が羨ましくて仕方がなかった。
愛夢そのものも羨ましかったし、それ以上に愛夢の明るい性格が羨ましかった。
自分も友人を作って同じように楽しみたいという意志はあったのだが、幼少時から培われた暗い性格はどうしようもないのだった。
クラスメートに上手く話しかけられないし、話しても会話を円滑に楽しく進めることが出来ない。
小学生の頃から、クラス替えの度に友人が欲しいと思ったが、結局はいつも孤立してしまうのだった。
クラスメートにしてみれば、瓜二つの愛夢が社交的なので自然と愛夢と付き合ってしまい、来夢のことは忘れがちになりやすかったのだが。
それでも、友人を作る機会が全くなかったわけではない。
実際、自分と同じような暗い性格の女子が近づいてきたことはあった。
しかし、自分の性格が大嫌いだった来夢は、同じタイプの人間に接近されるのを拒んでしまった。
あくまでも自分は愛夢のように明るく賑やかに過ごしたかったのだ。
愛夢が自宅に友人たちを招いてワイワイと騒いでいるのを、扉の隙間から覗いて激しく嫉妬することもしばしばだった。
自分の視線を察知した愛夢が入ってくるように招いたこともあったが、悔しくて応じられなかった。
一時は養育係を恨んでみたこともあったが、それは無意味なことだった。
せめて学業で愛夢を突き放して幸福になってやろうと考えたが、愛夢の方も友人たちとは遊びの他に勉強会もしていたので、結局2人の成績は同じレベルのまま推移していた。
そして、訪れたプログラム。
愛夢と、自分に冷たいクラスメートに仕返しをするのには絶好の機会だった。しかも、素晴らしい策略が頭に浮かんだ。
愛夢に変装して、クラスメートを信用させて殺す。
クラスメートたちは愛夢を恨みながら死んでいく。
万一、討ち漏らしたり返り討ちにされたりしても、クラスメートに対する愛夢の評価を暴落させることには成功するはずだ。
これは最高の快感だ。
結果的に優勝して生き残れればベストなのだが、基本的な目標は優勝ではなくて復讐だった。
最終的には殆どの者が他界してしまうのだから無意味とも言えるのだが、来夢はそれでも満足だった。
来夢の頭の中で作戦は順調に組み立てられていた。
愛夢と待ち合わせて失神させ、スカートとリボンを交換する。そして・・・
適当な場所はないだろうかと思いながら黒板に掲示された地図を見て、目に付いたのが警察であった。
座席が男女別の番号順になっていたのは幸運だった。背後から兵士に聞かれないように愛夢に囁きかけるのは容易だ。
問題は愛夢が自分を信じるかどうかだったが、この状況ならば“クラスメートの中にいる肉親”を信用するだろうと期待していた。
そして声をかけた後の愛夢の態度を見て、期待は確信に変わった。
民家で食料などを調達してから警察署に向かった。愛夢は予想通りに待っていた。
これで、作戦は半分成功したようなものだと感じた。笑いそうになるのをこらえるのに必死だった。
続いて、愛夢に見張りをさせて内部を探索した。
自分の支給品は最悪なことに裁縫セットだったので、使える武器を探そうとしたが拳銃の類は回収されているようで発見できなかった。やむなく警棒だけを入手しておいた。
地下には狙い通りの留置場があった。鍵などを回収して地上に戻り、愛夢を地下に誘った。
愛夢の隙を見て首を絞めて落とし、スカートなどを交換してから独房に押し入れて施錠した。用意しておいた保存食やペットボトルの水などを差し入れた。当然、懐剣は回収した。
それから愛夢の覚醒を待って、話しかけたのだった。
「来ちゃん、そんなの間違ってる」
涙目になった愛夢が口を開いた。
来夢は冷ややかに答えた。
「愛ちゃんにはあたしの気持ちは解らないわ。幸せな人には不幸な人の気持ちは解らないものよ。あたしはずっと愛ちゃんが羨ましかった。ずっと、妬んでた。やり方として間違っているのは承知の上よ。でも、こうせざるにはいられないの」
しばらく俯いていた愛夢が泣きそうな声で言った。
「それなら、いっそのことこの場であたしを殺してよ。あたしを殺せばスッキリするでしょ。他の子を殺さなくてもすむでしょ」
来夢は厳しく言い返した。
「その手には乗らないわよ。愛ちゃんを殺してしまえば、放送で愛ちゃんの名前が告げられてしまうわ。そうなると、愛ちゃんに化けているあたしの作戦が台無しになるじゃない。だから、今は愛ちゃんを殺しはしないわ。それに、愛ちゃんが他の人に殺されるのも阻止しなきゃいけない。この場所を選んだのはそのためよ。あたしは署内の全ての鍵を回収したの。だからここに施錠すれば誰も入ることは出来ないわ」
愛夢はガックリと膝をつきうなだれた。言葉は出ないようだった。
来夢は畳み掛けた。
「もし運良く愛ちゃんとあたしだけが生き残ったら、その時はご希望通り殺してあげる。でも、あたしが殺されれば愛ちゃんにも優勝のチャンスがあるかもね。あたしから鍵を奪ってここに入ってきた人を殺せばいいのだから」
気落ちしている愛夢は全く応答しない。
来夢はワンテンポ置いて続けた。
「万一ここが禁止エリアになってしまったら、迎えに来るわね。勿論、その後で別の場所に閉じ込めさせてもらうけど。あたしより先に死なれては困るからねぇ。じゃ、さよなら。さぁ、今からえせ愛夢ちゃんの殺人ショウが始まるわよ」
「お願い、それだけはやめて」
泣き叫ぶような愛夢の声を無視し、来夢は地下へ降りる階段の扉に施錠して静かに立ち去った。
<残り39人>