BATTLE ROYALE
〜 荒波を越えて 〜


36

 クソッ、調べれば調べるほどよく出来ていやがる。
 一体、どうすればこいつから逃れられるんだ。
 これでは、武藤に申し訳が立たない・・・
 イライラしているような呟きを脳内で放っているのは、
芝池匠(男子12番)であった。
 相棒の
児玉新一(男子11番)は電器店の外で見張っているので、匠は1人で悩んでいた。
 武藤香菜子の屍から首輪を回収し、先刻からいろいろ解析していたのだが、どうしても安全な外し方が判らなかった。
 不眠不休で考えているので、疲労はかなり蓄積している。
 両の目は血走り、軽い頭痛も自覚している。
 だが、大勢で生還するためにはこの首輪をどうにかするしかない・・・
 ・・・
 短時間、居眠りしたようだった。
 いけない、こんなことでは。これでは、生きて帰ることなんか出来やしない。
 ん? 今、夢を見たな・・・ そうか!
 匠はポンと手を打った。
 これなら、どうにかなるかもしれない。
 希望に胸を膨らませながら立ち上がったところへ、新一が駆け込んできた。
「匠、吉崎さんが来てるけどどうする? やる気じゃないって言ってるけど」
 女子不良の
吉崎摩耶(女子21番)が訪れたようである。
 折角良い方法を思いついたのに、今邪魔されるわけにはいかない。
「吉崎じゃ信用できない。追い払うぞ」
 言い切った匠は新一を連れて、外へ出た。
 手には、支給品のコルトガバメントという銃をしっかり握り締めて。

 香菜子の首輪を得た匠は、まず首輪から出ている電波の解析を試みた。
 政府が電波で管理していると言った以上は、そこに攻略の鍵があるのではないかと考えたからだった。
 簡単な解析装置を作成し、首輪を入れた。
 まず判明したことは、首輪の電波がかなり強力だということだった。
 これでは地下室に篭ったり、首輪の周囲を金属板で覆ったりしても到底遮蔽できそうになかった。
 さらに、電波の中に自分たちの声の成分が混ざっていることが確認できた。
 つまり、首輪には小型マイクのようなものが入っていて、自分たちの会話が政府に筒抜けになっているわけだ。
 とすれば、脱出計画が万一完成しても、それを口には出来ないことになる。
 どこまで腐っているんだ、政府の野郎・・・
 怒りと恐怖を覚えながら、匠は新一にメモ書きで盗聴されている旨を告げた。
 それ以降、2人は重要なことに関しては筆談することにした。
 だが、絶望に震えた新一が口走った。
「そ、それじゃ、脱出なんてできっこないじゃないか」
 匠は目で新一を叱りつけながらも、静かに答えた。
 自分たちが脱出を目指して順調に研究していることを、政府に悟られてはならないから。
「理論的には可能だけどな」
 新一はキョトンとした表情になった。
 当然だろう。盗聴されているのに、そんなことを言っていいのだろうかと思うはずだ。
 だが、新一はどうやら匠の真意を見抜いたようだった。
 おどおどした口調で訊いた。
「ど、どんな方法で・・・」
 匠は満足だった。これなら政府を欺ける。
 頷きながら堂々とした口調で述べた。
「1つは、水中からの脱出だ。電波は水中では使い物にならない。遠く離れたところまで、海底を進めば間違いなく脱出できる」
 新一が首を傾げながら答えた。
「そんなに潜れるわけないじゃないか」
 匠はおどけた口調に変えながら言った。
「潜水艦を作ればいいじゃないか。全員で逃げれるぜ」
 ワンテンポ置いて続けた。
「出来るわけないけどな。いくら俺でも」
 新一は呆れた口調で訊いた。
「他には?」
 匠は答えた。今度は、初めからふざけた口調で。
「ロケットでも脱出可能さ。一気に大気圏外まで出て、首輪爆破指令を出される前に地球の反対側まで行ってしまうんだ。そのまま、外国に亡命して一件落着ってわけだ。まだあるぜ。この電波が貫けないほどの分厚い鉛で宇宙服のようなものを作って入るんだ。堂々と歩いて脱出できるぜ」
 新一は、今度は怒った口調で答えた。
「ふざけるのもいい加減にしろよ。ロケットなんか作れるわけないし、そんな鉛の服なんか着たら重くて歩けないだろうが」
 新一の反応に上機嫌になりながらも、匠はすまなさそうな声で答えた。
「だからさ、理論的にって言っただろ。現実には無理な話さ。でも、とにかく頑張って生きれるだけ生きてみようぜ」
 新一は真面目な口調に戻して言った。
「そうか。リラックスさせるために言ってくれたんだな。怒って悪かった」
 匠は大きく頷いた。
 よし、これで政府には俺たちはくだらない連中にしか見えないはずだ。警戒されずにゆっくり研究できるぞ。
 それから、匠は新一を見張りに立たせて首輪を調べていたのだが、一つ間違えば爆発するというのは大変なネックで、外し方は皆目判らず、延々と苦しんでいたのだった。

 匠が慎重に店外に出ると、腕組みをした摩耶が立っていた。
 普段のふてくされたような表情ではなく、とてもスッキリした表情をしていた。
 不気味に感じながらも匠はそっと銃を摩耶に向けた。
「吉崎、悪いがここは新一と俺の陣地だ。立ち去ってもらおうか」
 摩耶は全く怯まずに答えた。
「あたしは、仲間の敵を取ることしか望んでいない。だから、芝池と戦う気はないよ。むしろ、仲間になりたいくらいさ」
 新一が匠に囁くように言った。
「吉崎さんが味方なら頼もしいと思うけど」
 匠は小声で返した。
「お前は黙っててくれ。とにかく、こいつは信用できない」
 再び、摩耶に向かって強い口調で言った。
「俺は吉崎を仲間にする気はない。立ち去らないのなら、敵とみなして殺す。早く、あっちへ行くんだ」
 摩耶は全く表情を変えずに答えた。
「簡単に信用してもらえないのは当然さ。というより、あたしをすぐ信用する奴と仲間になっても役には立たないさ。ただ、芝池は無抵抗の女を殺すような奴じゃないとは信じてる。ここで芝池に殺されるのなら、あたしはそれまでの人間だったということさ」
 匠は摩耶の目をじっと見た。
 いつもの摩耶とは全く違って、強い信念に満たされたような目だった。
 先刻、実際に摩耶の3人の仲間の死が放送で告げられている。ひょっとしたら・・・
 訊ねてみた。
「仲間の敵と言ったよな。もし、それが矢島でもか?」
 不良グループで生存しているのが、摩耶と
矢島雄三(男子20番)だけなので、犯人が雄三である可能性は低くはないだろう。
 摩耶は静かな怒りを燃やしたような表情で答えた。
「雄三だろうが誰だろうが、絶対に赦さない。あいつらはかけがえのない仲間なんだ。あいつらの敵を討つまでは、間違ってもあの世へは行けないのさ。芝池なら頼りになる。協力してくれないか。勿論、必ず借りは返すから」
 嘘を言っているようにも見えない。どうやら、信用してもよさそうだ。
 だが・・・
「言いたいことは、よくわかった。では、支給品を俺に渡してくれ。渡せたら信用しよう」
 微笑んだ摩耶は、懐から拳銃を取り出すと、自分に銃口を向けながら匠に手渡した。
 最早、信用しないわけにもいかないだろう。
「よし、今から吉崎は俺たちの仲間だ。だが、悪いが見張り役を引き受けてもらうぜ」
 微笑み返しながら匠が答えると、摩耶は力強く頷きながら言った。
「喜んで」
 摩耶が差し出した手を匠はしっかりと握り返した。新一も手を重ねた。
 力強い仲間を得て、匠は脱出への自信をさらに深めたのだった。


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