BATTLE ROYALE
〜 荒波を越えて 〜


73

 こ、これは・・・
 
百地肇(男子18番)の目が爛々と輝いた。
 いいものを見つけたぞ。神に感謝ってとこだな。
 これも俺の日頃の行いがよいから・・・ の、わけはないか、流石に・・・
 自分でも苦笑するような思考をしながらも、肇の視線は発見したばかりの少女の背中とその脇に置かれたモノに交互に注がれていた。
 マジで運が向いてきたのかも・・・ これならば・・・
 肇が喜ぶのも当然といえる2つの理由があった。
 1つめは、発見した少女が
豊増沙織(女子13番)であることだった。
 顔立ちの面から言えば平均レベルだが、体型的には標準以上の少女である。充分、楽しむことが出来そうである。
 それに沙織は女子の中でも最も鈍い部類に属する子なので、細心の注意を払わなくても簡単に忍び寄ることが可能と思われる。
 さらに言えば、沙織は腕力も最低レベルである。抵抗されても片腕でねじ伏せられるであろう。この段階まで生き残っているのが不思議なほどの人物である。
 おまけに放送部員の沙織は声が美しい。可愛い悲鳴を聞きながらもてあそぶのは最高の気分ではなかろうか。
 そして、2つめの理由。
 坐った姿勢の沙織が脇に置いているものは、どうみてもマシンガンである。
 武器に恵まれていないこともあって完全に生還を諦めていた肇だったが、マシンガンを手に入れれば話は別だ。
 男子は発見次第蜂の巣にすればよいし、女子も離れた位置から脅すことが出来るだろう。
 ありがたいことに自分以外で生存している男子は2人しかいない。
 強敵ではあるが、
蜂須賀篤(男子14番)大河内雅樹(男子5番)を倒せば、もう男子はいない。
 マシンガンがあれば
三条桃香(女子11番)を倒すことも出来そうだし、苦杯を嘗めさせられた石川綾(女子1番)甲斐琴音(女子5番)に借りを返すことも出来るだろう。最も借りを返したい盛田守が故人になっているのがむしろ残念に思えてきた。
 そして、最大のターゲットである
細久保理香(女子18番)を今度こそ脱がせることも夢ではないだろう。
 勿論、担任教師の国分美香を倒して特別生還枠を狙うのも悪くはないと思った。
 他にもマシンガンの所持者がいることは確実なので、そんなに世の中は甘くないだろうけれど、それでも今までと比べれば生還のチャンスが大きく広がったと言えるだろう。
 そもそも、残り10人まで生き残れたこと自体が望外だったのであるし。
 優勝する自分の姿を空想しながら、肇は沙織との間合いをゆっくりと詰め始めた。

 盛田守の介入で
神乃倉五十鈴(女子7番)を仕留めそこなった肇は、女子を探し求めての徘徊を続けていた。
 時間が経てば経つほど、女子は次々に斃れてしまうであろうから、急がないと獲物がいなくなってしまうような気がした。
 さらに、自分以外の者が細久保理香を殺害することも恐れていた。理香だけは自分の手で逝かせないと気がすまなかったから。
 途中で特別生還枠の設定が告げられたが、自分には無縁だと思っていた。
 何しろ国分美香は全く隙のない女性であるうえに運動神経も抜群なので、自分には歯が立たないと思われたから。
 そんな中で遂に発見したのが洞窟の前に立っていた速水麻衣であった。
 かなり敏感な部類の麻衣が相手だったので、肇は全力で気配を消して接近した。
 幸運なことに、麻衣の斜め後が風下であったので体臭で気付かれる心配はなかった。
 不完全な修行の成果を精一杯に発揮し、肇は麻衣の背後に無事接近することが出来た。
 麻衣が洞窟の前にいるということは、洞窟の中に仲間がいる可能性が高いと考えられる。
 従って、出来るだけ物音を立てないで麻衣の意識を奪う必要があった。
 落とした麻衣を背負って立ち去り、離れた場所でゆっくりと楽しむのが安全であろうから。
 それに洞窟内の仲間が1人とは限らないし、男子である危険もあるのだから。
 気配を感じた麻衣が振り向こうとした瞬間に、肇はタイミングよく襲い掛かり、片手で口を塞いでもう片手で首を絞め上げ始めた。
 麻衣は必死でもがいたが、腕力的には平凡なので無駄な抵抗であった。
 やがて、麻衣の四肢から力が失われ、全体重が肇の腕にかかってきた。上手く絞め落とすことが出来たようだった。
 気絶した芝居をしていることを恐れて、肇は麻衣の腋の下をくすぐってみたが反応はなかった。間違いなく落ちていると思われた。
 次に胸を揉んでみようかとしたところで思い直した。
 今はこの場を離れることが先決だ。楽しみは後に取っておかねば・・・
 麻衣を抱き上げようかと考えたところで、洞窟内から足音が聞こえてきて肇は焦った。
 最早立ち去るのは間に合わず、麻衣を人質にして脅すしかないと考えた。
 それでも出てくるのが大河内雅樹や石川綾だったら自信がないのだが・・・
 しかし、現れたのは夢にまで見た理香だった。
 咄嗟に麻衣の首を絞めなおしながら理香を脅した。
 これ以上絞め続ければ麻衣が息絶えてしまう可能性が高いと思ったが、理香を目の前にしては麻衣のことなどどうでもよかった。
 そこで理香に自ら脱衣させることを思いついた肇は有頂天になっていた。
 理香は仲間を見殺しに出来るような人物ではない。麻衣を人質にしている限り、理香は自分の要求に従うしかないはずだ。
 そして、どんどん要求をエスカレートさせていけばよい。最初に裸体にさせておけば反撃も逃走も困難になるはずで一石二鳥である。
 嫌悪の意志を全身で表現している理香を嘗め回すように見詰めながら、肇は早く脱ぐように促した。
 肇の頭脳は憧れの理香の脱衣シーンを堪能できる幸せに浸っていた。
 だから、突然理香が逃げ出したのは全くの計算外だった。
 その直後に理香の意図を理解してほぞをかんだが手遅れだった。
 逃げれば、自分には麻衣を解放して理香を追うしか選択肢がないことを見抜かれていたわけだ。理香に対する思い入れの深さを逆用されたことになる。
 悔しいが理香の策に乗るしかない。
 肇は麻衣を放り出して全力で理香を追った。脚力には差があるので、絶対に追いつける自信があった。
 そして計算どおりに追いついたのであったが・・・
 結果は石川綾の乱入で全てがぶち壊しになった上に、散々な目にあって逃走することになったのであった。

 沙織から目を離すことなく、肇は静かに歩を進めた。
 盛田守に殴られた腕は腫れ上がっている。綾にも手刀と蹴りを何発も食らっているので全身に痛みが走る。
 だがその痛みも、今から沙織とマシンガンを自分のモノに出来るという喜びを前にして霞んでいた。
 肇にとって、一度も女性を抱かずに死ぬことほど無念なことはなかった。理想は理香だが、せめて他の女子でもモノに出来れば・・・と思っていた。
 それが、生還まで視野に入ってきたのだから無上の幸せといえるだろう。
 沙織の背後5メートルまで近寄った肇は、突如ダッシュをかけて沙織に襲い掛かった。
 もがく暇も与えずにあっさりと沙織を組み伏せた肇は、舌なめずりをしながら楽しみ方を考えた。
 沙織も今までにかなり消耗しているらしく、抵抗する力は予想以上に弱々しかった。悲鳴も上げているのだが、その声はとてもか細いものであった。
 これならば意識を奪わなくても大丈夫そうだな。十分楽しんでから息の根を止めればよいだろう。理想的な展開だぜ。
 そう思いながら、肇は沙織のセーラー服を脱がせにかかった。セーラー服の構造をよく理解していなかった肇だったが、どうにか把握して剥ぎ取った。沙織は泣き叫びながら暴れようとしているが、片手で充分に制圧可能だった。
 次は下を・・・
 と、スカートに手をかけた時だった。突如、あらぬ方向から呆れたような声がした。
「こんな時にまで何に夢中になってるのかしら。ケダモノというのは貴方のような人のことね」
 振り向くまでもない。声を聞いただけで判る。現れたのは三条桃香だ。
 今までの肇だったら、迷わずに逃げただろう。しかし、今度は違っていた。
 これはこれは大物の登場だぜ。生きたままで楽しむのは無理だろうが、こんな美人をモノに出来るなら豊増なんかどうでもいいな。
 俺にはマシンガンがあるんだ。お前がいくら強くても銃弾には勝てないだろう。探す手間が省けたぜ。
 肇は心に余裕を持ったまま、背後に手を伸ばした。マシンガンはそこにあったはずだ。
 あれ? ないぞ。もっと向こうかな・・・
 少し慌てた肇はさらに手を伸ばしたが、草と小石以外に触れるものはない。
 桃香の声がした。
「お探しのものはこれですか? ケダモノさん」
 全身を嫌な予感が駆け巡り、肇はおそるおそる振り向いた。
 立っていた桃香の右腕にはしっかりとマシンガンが握られていた。
 一瞬で体中の血液が凍りついたように感じた。
 マシンガンを小脇に抱えてから沙織を組み伏せるべきだったと後悔したが後の祭りである。
「プログラムにおける優先順位がわかってないなんて本当に呆れるわね。貴方にとっては命よりも性欲の方が大事なわけね」
 後悔と恐怖で硬直した体は、全く言うことを聞かない。声も出せない。
「プログラムでなくても女の敵として成敗したくなるところだわ。覚悟はいいわね」
 桃香の口調は最後にはかなり厳しいものになっていた。
 マシンガン相手では逃げるのは不可能である。こうなったら戦うしかないと、肇は腹をくくった。
 桃香のプライドならば、銃を持たない者をマシンガンで撃つことは避けるはずだ。
 命がけで戦えばチャンスがないこともないだろう。沙織を人質にする作戦もありそうだ。
 肇は懐から包丁を抜き出しながら、ゆっくりと立ち上がって桃香と正対した。
 絶対にこの女を倒す。倒して俺のモノにしてやる・・・ いいところを邪魔されたお返しは、しっかりとさせてもらうからな。
 肇は気合を入れなおした。
 太陽が見詰める中、肇のラストバトルが始まろうとしていた。


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