BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
15:決死の覚悟
玉野 笑美(女子10番)は、最初、真澄がいた部屋のロッカーの中にいた。
事前の打ち合わせで、もし誰かがここに来た場合、笑美はロッカーの中に入り、仲間が呼ぶまで出ないことにしていた。
ロッカーに入った後、爆発音、数回の銃声のあと、一発の銃声・・・、その後、一時の静寂が訪れた。
終わったのかなぁ・・、
そう思ったが、真澄たちが来るまで辛抱しようと思った。そして自分自身に笑いかけた。
笑美は、その名前に負けず、よく笑う子であった。自分の笑顔で人を元気付ける・・・ そういった信念めいたものもあったが、何より自分が笑うことで、みんなが元気になったり、笑いあったりすることが、ただ単純に嬉しかった。
美津 亜希子(女子19番)のグループでも、笑美はその和やかな雰囲気を作るのに、大切な存在だった。この絶望的なゲームの中でも、笑美はみんなを元気付けるために笑い続けた。内心は不安であったが、少しでもみんなが元気になるなら・・・と。そんなことを考えていると、
カッカッカッカッ、
と足音が聞こえてきた。
誰、誰なの!? 千里ちゃん? 真澄ちゃん? 蘭ちゃん? それとも・・・
笑美は緊張した。そしてその足音はどんどんこっちに近づいてきた。
カッカッカッカッカ・・・・
自分の目の前の辺りで足音は止まった。
何!? 何なの?
そう思い、ピアノ線を握り締めた。そして何か光が見えた。その後、笑美は再び思考することはなかった。
刃狼は“声”がする方に足を向けていた。そしてその場所に来た。どうやらロッカーの中に隠れているらしい。シュっと刃狼のもつ刀が動いた。
ドスッ!
ロッカーの上段部分を一気に貫いたのである。そして、刀を抜き、ロッカーの扉を開けてみる。
すると・・・額を貫かれた笑美の死体がそこにはあった。生死を確認するまでもなく、即死だ。そして、刃狼は、笑美がもっていたピアノ線を奪い、再び歩き出した。
笑美の表情は、その名前とは違い、ひどく呆然とした死相であった・・・
【女子10番玉野 笑美 死亡】
亜希子は巨大な轟音と共に目を覚ました。どうやら眠っていたようだ。
衝撃が強かったのか、パラパラッと破片らしきものも落ちてきていた。そして、近くにいる旭 千歳(女子1番)に問いかけた。
「な、何!? 今の音は!??」
「爆発よ!! 下からだわ!」
と千歳は言った。
下・・・、一階・・・、真澄と笑美がいるところだ!
「下に行かなきゃ!」亜希子が言うと、
「待って! こういうときはどうするか、忘れたの!」
そう、事前の打ち合わせで、敵がもし来た場合、私たちは上から敵を発見して、威嚇を行う・・・、そういうことになっていた。
「今の爆発、東の部屋からだわ! 行きましょう!」
と状況を整理しきっている千歳が言った。
「う、うん!」
理性ではわかっていても、本心は下に行きたかったが、千歳の言うとおりにした。部屋を出ようとした時、バーン! バーン! バーン! と銃声が聞こえた。
「千歳!」
「急ぎましょう!」
と言い、東の部屋に急行した。部屋に行くまでに何発か銃声があったが、部屋につく頃には止んでいた。
バンッ! と部屋の扉を乱暴に開け、窓の外を見た。しかし、そこで亜希子が見たものは・・・、赤い池の上でうつ伏せになっている長川 千里(女子12番)であった。それを見て、亜希子の頭は真っ白になった。
ウ・・ソ・・・、せ・ん・・り・・・? うそうそうそうそ!!
そして思わず叫び声が喉を通過する。
「い・・! むぐぅ!」とっさに千歳が亜希子の口を押さえる。
(叫んじゃダメ!)
小声でそういった。亜希子は千歳の方を振り向くと、千歳は涙を流していた。だが表情はまだしっかりと引き締まっていた。
(つ・・つらいと思う・・けど、我慢して。敵がここに・・侵入・・・してるかもしれないから)
涙を堪え、必死に千歳は言葉を紡ぐ。そうだ、私もしっかりしないと・・・ 亜希子も大粒の涙を流しながら、コクっと頷いた。その時、
カッカッカッカッカッ
とこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
敵! 千里を殺した敵! 亜希子は千歳を見る。
千歳はすぐ目で了解を取り、支給武器『ワルサーP−38』を握り、ドアのすぐ横に動いた。そして亜希子も、自分の銃を握った。しかし、それは銃でなく『モデルガン』であったが、ハッタリにはなると思った。そして、その足音はどんどんこちらに近づいてきているのであった。
千歳は覚悟していた。自分が死んでも、目の前の亜希子だけは守るんだという覚悟を・・・ なぜなら、この命は亜希子に救われたのだから・・・
千歳は中2の夏、ある男性グループの暴行を受けた・・ 千歳はその事実を公表することもなかったが、その時受けた精神的傷は深く、ついには自殺を決行したのである。
放課後の教室でナイフで手首を切り、全てを呪いながら死んでいくつもりだった。そしてそのまま意識がなくなっていった・・・
そして、次に千歳が目覚めたところは病院の一室であった。そして起きた瞬間、自分の友達の亜希子が号泣しながら抱きついてきたのだった。
「ちとせ・・! よかったよぅ・・・ う・・ぅああああああああん・・・・!」
後から聞いた話によると、手首を切って気絶した千歳を亜希子が発見し、その場で応急処置をしながら救急車を待ったというのだ。その間、亜希子はこう叫び続けていたという。
「千歳、死んじゃイヤだよ、生きてよ!!」
自分に抱きついて泣いている亜希子を見て、千歳も泣いた。
「あき・・・こ・・ ウグゥ・・・う・・・うわああああああぁぁぁん・・・!」
その日二人は泣き続けた・・・ その日の二人で悲しみを分かち合った気持ちは、千歳にとって生きる力となったのである。
だから、守りたい・・・ そして、亜希子が愛する御手洗 武士(男子14番)の元に帰してあげたい・・・ そのようなことを考えてるうちに足音が部屋の前で止まり、ドアが開いた・・・
【残り・・・32名】