BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


18:美醜を兼ね備える者

 松浦 英理(女子16番)は、学校から南東の森のG−8のポイントにいた。
 彼女は自分が常に所持している手鏡を見ながら、自分の美貌が崩れていないかチェックしていた。

 彼女の特徴と言うと、一言でいうと「完璧」だった。容姿端麗、文武両道という言葉はふさわしく、勉強をすれば学校でもトップクラスの頭脳。運動もそつなくこなした。
 そして彼女の特筆すべきなのは・・・容姿。
 これにいたっては例えるなら絶世の美女といったところか。キチンと整った顔、類稀なるプロポーション、誰もが振り向く美少女である。
 このような美少女を学校の男たちが放っておくはずがなく、ファンクラブどころか親衛隊までいる始末だ。

 英理は思った。
 なぜ、アタシがこんなクソみたいなプログラムに巻き込まれなきゃならないの!? 冗談じゃないわよ。アタシのような完璧な人間は完璧で何不自由ない人生を送るべきなのよ。
 こんなプログラムはアタシ以外のあの醜いカス共にお似合いだわ。

 そう、彼女はその麗しい外見とは裏腹に、すさまじく自己中心的で、他の人のことなど一切理解しない性格であった。何事も完璧であるゆえに、自分が簡単にできることができない周りが、いつしかなんとも愚かしく思うようになってきた。
 そしてそれは、他人への侮蔑へ昇華するのに時間はかからなかった。そして、自己を磨くことに努力し続ける自分を過大評価するようになっていた。最近では、選民思想と近い思想まで抱くようになっていたという。

 アタシは神がこの世に与えた「美」の結晶そのものなのよ!
 それがこんな汚い田舎に放り込まれて戦え・・・ですって!! あのってやつも転校生の奴らも醜たらしいったらありゃしないわよ!

 美しい外見は一つも崩れることはなかったが、心の奥ではそんな醜い考えで満ちてきた。
 まぁ・・・いいわ。どうやらあの醜い連中を皆殺しにしなけりゃここから出られそうもないし、このアタシが殺してやろうじゃないの。
 この優秀なアタシのために死ねるなら、醜いあいつらも本望でしょう? 全員まとめて葬ってやろうじゃないの!!

 そう、他人の侮蔑が最終段階・殺意に変わった瞬間でもあった。もしかしたら、狂い始めていたのかもしれない。しかし、当の本人はいたって冷静なつもりだ。
 神はアタシを選んでいるようだしね・・・ この武器を使って愚かなクラスメイトを殺せ! ・・・とね。

 と自分の支給武器を眺める。そこには銃らしいものがあったが、銃口が幾分大きかった。 ・・・そう、彼女の武器は本プログラムで最強の威力を誇る『M79グレネードランチャー』であった。そして、クラスメイトの殺戮を誓っているところへ、ガガ・・・という声が聞こえた。


森教官、最初の放送のお時間です。」
 兵士が、データの管理に追われるに話しかける。
「ああ、もうそんな時間か。では死亡者リストと禁止エリアの追加の資料をくれ」
 ハ! といい、兵士が資料を手渡す。

「ふむぅ、もう10人も減ったのか。このペースで行くと、史上最速も夢じゃないな」
は資料を見て感想を述べた。
「しかし、鵜飼中将が一気に6人も殺したのが驚きました。手榴弾をもっていたとはいえ、相手は3つの銃器の武装をし、レーダーまで持っていた集団でしたから」

 そういって、目の前のモニタを見ながら言う。モニタには赤と青の数字がならんでいるのと、黄色でなにか文字がうっているのが見えた。
 実は生徒の首輪にはこうした発信機のような機能もあり、こちらにいてもどこにいるか把握することができる。さらに配布されたすべての武器にも発信機を取り付けている。(ただし、原始的な武器に関してはつけていない)
 こうすることで生徒の位置と、現在の武器の所持事情がわかる・・・ということなのである。

「こんな小娘どもを殺すのに何の不思議もないさ。あの方の「伝説」を知らぬわけでもあるまい?」
はそう言い放った。兵士も深く頷いた。

 軍に伝わる一つの伝説があった・・・ 「刃狼伝説」数々の戦場を、華々しく戦果をあげた一人の兵士の話。しかし、その兵士は銃器をほとんど使わず、ただ一本の「刀」で一個師団並みの評価を受け、多くの敵兵を地獄に葬ってきた話である・・・
 一本の刀で戦場にそびえ立つその兵士を味方からは「刃狼」といわれ畏怖と尊敬の対象に、敵からは「ブレイド・ウルフ」とよばれ恐怖の対象となっていた。しかし、2年前に起きた「ルワンダ紛争」で戦死した・・という話が流れて、その伝説は文字通り「伝説」と化したのである。

 まさかあの「ロイヤルガード」に入っているとはな・・・
 は一筋の汗をかきながら、そう思った。
 しかしそれにしても解せなかった。なぜ総統閣下はそんな「怪物」をこのプログラムに参加させたのであろうか? いや、参加することはランダムだからしかたないとして、『規定外武器』の特別携帯を許可され、さらにプログラムの全容まで教える・・・、
 こんな例外は聞いたことがなかった。さらに政府高官も多数参加しているこのプログラムの「トトカルチョ」にも多大な影響を与えるだろう今回の「」の投入に一体どのような意味があるのか。だが・・・・

 しかし、はその思考をふいにやめた。何を考えている俺は。総統閣下に対して詮索するなどもってのほか。俺の進退にもかかわるわ。・・・俺は俺の仕事をしていればいいさ。
 そのように思い、再び意識を思考から現実へと戻した。
「・・・森教官?」
 ずっと黙りこけているに兵士が問いかけた。
「ああ、すまん。少し考え事をな・・・ では放送の準備をしてくれ。さっそく第一回目の放送に入る」
「ハッ!!」そう言い、兵士は任務に戻っていった。
「さて・・・、我が生徒どもに今一度気合を入れてやるか」


 ガガ・・という音の後、の声がこだまする。
「あ〜、みんな元気に殺しあってるか〜? そろそろ昼で日差しも強くなるがしっかりしていけよ! では、現在でた死亡者と禁止エリアの追加情報を教えるぞ〜。メモしておけよ! 一回しか言わないからな」
 英理はそういうの下卑た声を聞きながら死亡者と禁止エリアのメモに勤しんだ。どうやらここは、禁止エリアじゃなさそうだった。
 の放送が終わると、英理は再び醜い考えは頭に広がさせた。

 フフ・・・、醜い馬鹿共は勝手に殺しあってくれるわ。このまま数が減るまで動かないってのもいいわね。・・・そうよ、クズ共の掃除はクズ共にやらせればいいんだわ。そして残ったクズは私が直々に掃除してあげるの。
 それこそ選ばれた者が行うふさわしい行動だわ!

 考えをまとめ上げ、再び手鏡をのぞいて自分の美貌の確認を行った。
 だが、鏡を見ると遠くのほうに誰かいるのが写った。そして、その女らしき人物は銃をこちらに向けていた。
 その女性こそ、残虐非道・能登 刹那(女子13番)であった。

【残り・・・30名】
                           
                           


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