BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
20:刃狼、再び
第一回目の放送が流れる1時間ほど前、黛 風花(女子17番)は公民館の東に広がる森の中にいた。実はこの森で風花は迷っていた。
どうしよぅ・・・・、どっちが西かわかんないよぅ・・
風花は最初、北の道を通るよりかは森を突っ切っていったほうが早いと思い、デイパックに支給されていた地図とコンパスを頼りに森の中を進んでいた。
だがその途中、コンパスを誤って落として壊してしまったのである。さらに風花は極度の方向音痴であったため一向に公民館につく気配がなくこの森をさまよっているわけである。
一人ぼっちの自分、迷子、さらに数十分前に聞こえた爆発音・・・、それらが風花の気分をより一層不安なものにしていった。
「亜希子・・・、みんな・・・・、寂しいよぅ・・・」
一人で森にいる寂しさからそうつぶやいた。そして、
「遠山君・・・・」
と一言かみ締めるように言った。風花は遠山 慶司(男子10番)のことが好きだった。
風花が慶司を意識するようになったのは中2の秋あたり。あれは亜希子に誘われて友達(この時は付き合っていなかった)の御手洗君の試合を見に行ったときだったか。
海音寺中学校の3人の注目選手たちがフィールドで踊っていた。芸術的にアシスト、スルーパスを出す御手洗君、高さを生かしてゴールを決める那節君。
そして・・・豪快なシュートを放ってゴールネットを揺らす遠山君・・・
ちょっと小柄でドジで方向音痴な私にとって、フィールドを縦横無尽に動いている遠山君が一層輝いて見えた・・・ それが恋だということに気づいたのは、その試合以来、遠山君を見ると自分の胸が高鳴るのに気づいた時だった。
中3になって遠山君と同じクラスになり自分の気持ちが抑えられなくなっていった。夏休みに入る前のある日、風花は亜希子に相談した。
「・・・ふ〜〜ん。風花が遠山君をねぇ・・・」
ニヤニヤと亜希子は笑っている。
「もぅ・・・、からかわないで。で、どうしたらいいかな・・・?」
顔を真っ赤にしながら風花は言った。
「何って・・・、告白すればいいじゃないのよ?」
亜希子はあっさり言い切った。
「そ、それが出来たら苦労しないよぅ・・・だって・・私・・・何のとりえもないし・・・」
「ふぅ・・・しょうがないわねぇ・・・、・・・そうだ!」
亜希子は何か思いついたようだ。
「告白会ってのをやればいいのよ! みんなで告白すれば怖くないでしょ!?」
亜希子のびっくりな考えに風花は開いた口が塞がらなかった。
「ちょっと・・・亜希子! 告白会って何よ? だいたい私の他に告白したい人なんているの?」
「フフフ・・・、それがいるんだな〜。真澄も那節君のことが好きだしね♪」
「え!! そうなの!??」
初耳だった。真澄が那節君のことを・・・
「あとは千里や笑美あたりもいるしね。それじゃそのメンバーで行ってみようか!」
「ちょ、ちょっと亜希子。私はまだOKしたわけじゃ・・・」
「あ〜ら、じゃあ辞めるの?」
そう言われて風花はグッと唸った。
どうせこの思いは内に留めておくなんて不可能だ。なら亜希子の案に乗ったほうがいいかな・・・ そう思い始めていた。
「わかった・・・ いいよ」
「OK〜。それじゃ他のメンバーにも連絡とっておくね」
「うん!」
その後、その告白会は終業式あとに行われることが決まった。しかし、告白会は行われることなく、風花たちはこの最悪のゲームに巻き込まれるハメになったのである。
そんな思いに身を任せているとなにやら目の前の木々が動いた気がした。なんだろ? と思い、目を凝らして見る。すると誰かが出てきた。
誰!? 誰なの?
そう見てみると、なにやら刀らしきものを右手に持った男がそこにはいた。
そう、さきほど6人の尊き少女たちの命を奪った鵜飼 守(男子3番)その人である。
「あ、ああ・・・・・」
目の前の凶器をもった敵に風花は完全に足がすくんでしまった。そしてそのままペタンッと尻餅をついてしまったのである。
悠然と鵜飼は風花に近づき、刀を振り上げこう言った。
「楽に逝かせてやる」
ああ・・・、ごめん、亜希子、みんな。ごめんなさい、お母さん、お父さん。遠山君、もう一度会いたかったな。
そんな思いが走馬灯のように頭を巡った。そして鵜飼の刀は振り落ろされた。
謙信お兄ちゃん、そっちに行ったら遊んでね・・
そう思って目を閉じた。・・・・だが、何も起きなかった。
風花は不思議に思い、目を開けてみる。
すると自分の左肩数センチのところで刀は止まっていた。
目の前の鵜飼を見てみると、なにやら汗をかいていた。
「・・・・お前の兄の名前、黛 謙信(まゆずみ けんしん)・・・か?」
そういわれて驚いた。なんで数年前に死んだ謙信お兄ちゃんのことを鵜飼君が知ってるの!? そんな疑問が頭をよぎった。
「謙信お兄ちゃんを知ってるの!?」
そういう前に鵜飼は頭を抱え、勝手に苦しんでいた。
「グ・・・・、ウゥ・・・、クッ!!」
クラスで時々見る鵜飼君とはまったくかけ離れた表情をしていた。いつも無表情だが、どこか無垢と悲哀を含んだ顔、そのいつもの顔が苦痛に歪んでいた。そして・・・、
「行け」
そう言い放ったが、風花には理解できなかった。
「・・・今回は見逃してやる! 気の変わらないうちにどこかに行け!!」
怒気を強めた鵜飼の発言に風花はビクッと驚き、必死に立ち上がり鵜飼が来た方向に走り去っていった。
「・・・くそ!!」獲物を自ら逃がした鵜飼はそう言って立ち尽くした。
「ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ!」
必死に自分を殺そうとした鵜飼から逃げようと、風花は全力で走った。そしてずいぶん走ったので、再び呼吸を落ち着かせるために休息をとった。
「ハァ・・ハァ・・ふぅ」
休みながら自分を見逃した鵜飼のことを考えていた。
どうして鵜飼君、私を逃がしたんだろう・・ そういえば謙信お兄ちゃんのことを聞いてから・・、ううん。聞く前から少し様子がおかしかった。どういうことなんだろう・・・?
そういう風花の口にいきなり手が出現した。
「ムグゥ!!」
風花は驚愕の表情を浮かべ、再び体が恐怖に支配されていった。
【残り・・・29名】