BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
21:優しきガーディアン
黛 風花(女子17番)は今、恐怖の中にいた。
誰かは知らないが後ろから口を押さえられているのである。さきほど、鵜飼 守(男子3番)から逃げ出したばかりなのに、さらに別な敵に背後をとられてしまったのだ。そして、覚悟を決めた。
もう・・・、ダメ!!
そう思うと涙がでてきた。その涙が後ろの人物の手に当たった瞬間だった。
「ま、黛さん。ご、ごめん!! でも騒がないで」
自分の背後にいる人物はそう自分に対して話しかけてきた。
あれ、この声は・・・!
聞き覚えがある声に振り向いてみるとそこには、自分のよく知る男がいた。
「・・・・那節君!!」
そこにいたのは、親友・美津 亜希子(女子19番)の彼氏・御手洗 武士(男子14番)と自分の思い人・遠山 慶司(男子10番)と共に、海音寺中学校サッカー部の三人衆と呼ばれた最後の一人、那節 健吾(男子11番)であった。
「ご、ごめん、黛さん。でもいきなり目の前に出たら、騒がれるかと思って・・・ だから泣かないで」
健吾はあたふたしながらも事情を説明した。
「でも一人でこんな森の中でどうしたの? 美津さんたちとは一緒じゃなかったの? ・・・大丈夫?」
目の前で震えている風花にそう言うと、風花はいきなり健吾に抱きついた。
「ま、ま、ま、黛さん!!?」
健吾は一気にゆでだこ状態になる。
「那節君・・・、ヒクッ・・ 怖かった・・・、ヒッ、怖かったよぅ・・・・ う、うわあああああん!!」
風花は健吾の胸の中で泣いた。
ようやく一人での恐怖に開放された安堵感が風花を包み込んだのである。その安堵感で一気に緊張の糸が切れたのであろう、堰を切って泣き始めたのである。
健吾はそんな風花の気持ちを察したのか、しばらく自分の胸を貸していた・・・・
そしてしばらくして、健吾は「今のでここを気づかれたかもしれない。少し離れてから今までのことを聞くよ」と優しく声を掛けられたので、風花はそれに賛同した。
そしてその場所から離れたポイントで風花はそれまでの経緯を健吾に話し始めた。
「・・・・そうだったのか。黛さん、大変だったね・・・」
「うん・・・ でも無事でいるってことは運がいいのかな?」
へへっと風花は笑う。一人のときでは決してできなかった顔だ。
「それにしても、鵜飼の奴がやる気になっているとはな・・・」
「でも鵜飼君、私を逃がしてくれたよ。どうしてなのかな?」
そう、そこが疑問なのだ。途中まで殺す気で私に近づいた鵜飼君が、なぜ殺す直前になって私を逃がしたのか・・・ 不可解でならなかった。
「まぁ、奴が心変わりした理由はわからないけど、とりあえず無事でよかったよ・・・ 本当に」
健吾は心からそう思っていた。なぜなら健吾は風花のことが好きだったからである。だからさきほど、いたって無事そうな風花を見つけたときは、胸をなでおろしたものだった。
「ところで那節君は何してるの?」
風花はそう問いかけた。てっきり友達の御手洗君か遠山君といるのかと思ったからだ。
「ああ、実は今慶司を探しているんだ。スタート地点で待っているかと思ったんだが、いなくてね・・・ 武士とは、慶司と合流後、ある場所で待ち合わせをしている。それから美津さんたちのところに行こうかと思っていたんだけど・・・」そう言い、風花を見た。
「まさか、黛さんが迷子になってるとはね・・・」
「もう、那節君。言わないでよ・・・ どうせ私は方向音痴ですよ〜だ」
そう言って、風花は少しむくれてしまった。
「ご、ごめん!! そんなつもりで言ったんじゃなくって・・・!」
あたふたと健吾が慌てる。それを見てクスクスと風花が笑う。
「フフフフ・・ ごめんなさい、怒ってるわけじゃないのよ。あいかわらず那節君って真面目ね」
ハハハッとそう言われて健吾は笑う。
「それで、遠山君は見つかりそう?」
そう健吾に問いかけると、
「わからない・・・ 何せここは広いからな・・・ でもきっと見つけてみせるさ。そして絶対こんなふざけたプログラムなんか潰してみせる!」
そう言った健吾が風花には頼もしく見えた。
「ところで・・・黛さんの武器って何だったの?」
「え?」
「いや、できるだけ参考に聞いておきたいなっと思って・・さ」
武器のことを聞かれて風花は戸惑っていた。ふいに鵜飼の持っていた刀を思い出す。武器・・・人を殺す凶器・・・そんなイメージがあった。
「深い意味はないさ。ただ、やる気になっている奴らに対しての自衛と脱出の糸口になるかもしれないからさ」
そう言われて風花は自分の思慮のなさに呆れた。那節君はこんなに脱出の方法を考えているのに・・・私は。
一瞬でも健吾を疑った自分を恥じた。
「黛さん?」少し俯いている風花に健吾は優しく問いかける。
「え!? あ、武器ね! 私のは・・・これ」
そういって、健吾に何かを差し出す。
「これは・・・、『ペーパーナイフ』? こんなものまで支給されているんだな・・・」
そういって明らかに無害な武器を眺めた。
「那節君のはどうだったの?」風花は問いかける。
「俺のはこれさ・・・」
そういってバックから少し大きめの銃を取り出す。
「それって・・・銃?」
「サブマシンガンさ。『VZ61スコーピオン』説明書にそう書いてあった」
そういって、明らかに破壊力がありそうな武器を眺め、風花は言った。
「もし・・・、鵜飼君のような人が現れたら、・・・撃つの?」
すると健吾は少し複雑な顔をして言い放った。
「俺だって人は殺したくないさ・・・ でも自分の大切な人が傷つけられて黙っているほどお人よしじゃない。自分の大切な人を守るためなら俺は・・・・、この銃を使って敵を倒す! 今の気持ちはそんなところさ」
そういった健吾の瞳は強く輝いて見えた。そう、自分が恋した遠山 慶司の輝きによく似ていた。それを見て、ああ・・、やっぱり遠山君の友達なんだな・・・って思ってしまった。
「那節君って強いね。憧れちゃうな」
そう言って笑いかけた。すると健吾は顔を真っ赤にしてしまった。
「え・・・、いや、その・・・ そ、そういえば! 黛さんはどこで美津さんたちと待ち合わせしていたの? 俺は武士から場所までは聞いていなくって」
完璧に照れ隠しが見え見えだったが、気を紛らわすためにそう言った。しかし風花は気づいていないようだったのか、そんな健吾に気にすることもなく答えた。
「えっとね。公民館で待ち合わせしてるの。私は迷ったから、たぶんみんな先についていると思うけど・・・」
そう言うと一気に健吾の顔が険しくなった。
「・・・・公民館!?」その健吾を見て、風花は問いかけた。
「ど、どうしたの・・・?」
「・・・黛さん、数十分前に爆発音があったのは聞こえた?」
「う、うん。聞こえていたけど・・・」
「俺もその頃にはこの森に入っていて、そうするとその爆音が聞こえて、地図で方角を確認してみたんだが・・・、その方角には公民館があるんだ」
それを聞いて風花は一気に蒼白になる。
それ以上風花を不安にさせたくなかったので言わなかったが、実はもう一つ気づいていることがあった。風花が走ってきた方角・・・ 鵜飼が来た方角と言っていたが、その方角上には公民館があるのだ!
「とにかく公民館に行ってみよう。なんだか嫌な予感がする」
「う、うん・・!」
そういうと二人は公民館に足を向けた。そこには絶望が待っていることも知らずに・・・
【残り・・・29名】