BATTLE
ROYALE
〜 死線の先の終末(DEAD END FINALE) 〜
22:絶望の残骸
那節 健吾(男子11番)と黛 風花(女子17番)はとりあえず森を抜け、道沿いに向かうことにした。確かに危険もあったが、何より急いだほうがいいという健吾の判断だったからだ。
幸い、他の人と出くわすこともなく公民館の入り口まで着くことができた。風花が叫ぶ。
「亜希子〜! 真澄〜! 笑美〜! 千歳〜! 千里〜! 蘭〜! 私よ〜、風花だよ〜! いるなら返事して〜〜!」
だが返事は返ってこない。
「・・・みんなぁ・・・、返事してよぅ・・・」
そう言って地面に座り込んだ風花に健吾はこう言った。
「黛さんはその辺の草むらに隠れてて。俺が中の様子を見てくる」
そう言う健吾に風花は反論する。
「私も行く! だって・・・!」
「黛さんを連れて行くわけにはいかない。敵が中に居るかもしれないから隠れてて!」
反論を言い切る前に健吾は風花の言葉を遮る。危険な目にあわせたくない・・・、確かにそんな気持ちもあったが、健吾はもう一つの心配をしていた。
もしここが何者かに襲撃された後で、そして風花を連れて行って親友たちの死体が横たわっているのを見たら・・・、きっとこの心優しい少女に深い傷を負わせてしまう・・・ そう思ったからだ。
「大丈夫! 俺ならこれがあるから心配しないで」
と言ってスコーピオンを見せる。
「うん・・・ わかった・・・」
そういって渋々了解したようだ。隠れようとする風花はこう言った。
「那節君、死んじゃ嫌だよ! 私を一人にしないでよ。それと・・・亜希子たちを見つけて! お願い・・・・」
そう言うと健吾は手を突き上げた。
健吾が中に入ってもう数分、いや数十分がたっただろうか・・・ 風花は言い知れぬ不安と戦っていた。
もし敵に襲われたら、那節君が無事に帰ってこなかったら・・・ そんなネガティブな想像ばかりが頭を駆け巡った。
やがて、一人の少年が公民館の中から出てきた。
那節君だ・・・!!
そう思い、健吾に近寄った。
「那節君!!」
探索を終えたその男性にそう声を掛ける。
「ねぇ・・・、どうだった? 亜希子たちはいた?」
そう聞くが健吾はどう答えるか迷った。
中に入った健吾を待っていたのは・・・、そうこの世の地獄だった。発見した死体は4つ。5つ目はあったが・・・死体と呼べるかどうか・・・ ほぼバラバラで肉片などが残っている有様だ。とりあえず役に立つものは少々拾えたが、生存者は・・・・絶望的な結果に終わった。
それをこの少女にありのままに伝えるかどうか・・・ 唯一、希望が持てるのは死体が5つしかなかったことだ。つまり一人、生存者が居る可能性があるということだ。
しかし・・・、無理だろうということはわかっていた。どうするか迷ったが、やがて口を開けた。
「黛さん・・・」
何かを言おうと思った瞬間、ガガッという音が響き渡る。そして大声が聞こえてきた。
「あ〜、みんな元気に殺しあってるか〜? そろそろ昼で日差しも強くなるがしっかりしていけよ! では、現在でた死亡者と禁止エリアの追加情報を教えるぞ〜。メモしておけよ! 一回しか言わないからな」
この声の主は、現在の担任の森。
死亡者・・・! クッ!! 黛さん・・! 健吾は目を閉じた。
「? どうしたの、那節君?」
何も知らないフリをしながらも、風花は震えが止まらなかった。
「ではまず死亡者からだな。男子1番赤平 吉平、男子18番和久 光。男子は以上だ」
あのオタクコンビ・・・、死んだのか・・・
そう思いながらも健吾は再び自分たちは殺し合いの場にいることを認識した。絶望の放送は続く。
「次、女子だ。女子1番旭 千歳」
え・・・、ちとせ・・・?
風花の思考が止まる。なおも放送は続く。
「女子3番井口 友香。女子4番大塚 真澄。女子6番菊原 蘭。女子7番小澤 奈美。女子10番玉野 笑美。女子12番長川 千里。女子19番美津 亜希子。以上だ」
うそ・・・でしょ・・・、みんな?
「次に禁止エリアを発表するぞ。まずこれから1時間後にF−6、2時間後にG−2、4時間後にD−5、5時間後にA−3だ。メモったか〜!」
茫然自失の風花に変わって、健吾が必死にメモをとった。
「いいペースだ。これなら大会新も夢じゃないぞ〜。しっかり殺しあえよ! どうせ生き残るのは一人だ! 殺して殺して殺しまくれ! 以上だ! それじゃ、また6時間後に放送かけるからな!」
ブツッと煩わしい声が聞こえなくなる。
クソ! 最悪のタイミングで放送かけやがって!
健吾は舌打ちしながらも、風花を見た。放心状態で体が小刻みに震えていた。
「ま、黛さん・・・」
「・・・那節君、あのね」と突然風花は語りかけてきた。
「亜希子はちょっと変わってたけどみんなを惹きつけるような人だったよ。真澄もねぇ、いつも元気いっぱいで私はその元気のよさが羨ましかったなあ・・・」
健吾はそんな風にいきなり話し出した風花が痛々しく見えた。
「笑美もよく笑う子だったし・・・」
「黛さん、もういいから・・・」
健吾は必死に言葉を遮る。だが風花は止まらない。
「千里も千歳も蘭も・・・ね・・・」
「黛ぃ!!」
健吾は抱きしめていた。その少女がすぐ壊れてしまいそうだったから。
「・・・・」
「黛さん、いいんだ。頼むからもうやめてくれ・・・」
そして・・・、風花は健吾の胸の中で再び語りだした。
「・・・なんでぇ・・・」もう涙声だった。
「なんで・・・あんなに・・・いい子ばっかりだったのにぃ・・・、死なないといけないのぉ・・? 私たちが・・・何か悪いことをしたのぉ・・・?」
健吾は怒りで打ち震えていた。
どうして・・・・なぜ!! この国は俺たちを弄ぶんだ!!
理不尽なゲームを突きつけ、目の前の少女を泣かせるこの現実を健吾は心底憎んでいた。
「黛さん・・・・」健吾が口を開く。
「君は優しい。だから美津さんたちが死んで君だけが生きていることを自分自身で憎んでいると思う。でも・・・、諦めちゃダメだ! 美津さんたちの分まで足掻くんだ!! それが・・・、美津さんたちが喜ぶことだと・・・俺は思うよ」
その健吾の優しい言葉で風花は何か自分を責めていたものが降りたような気がした。
「な、なぶしくん・・・ う、うぁ・・・・、うあああああああぁぁぁぁああああん!!」
少女は泣き続けた。友の死を悲しむかのように泣き続けた・・・
その数分後、二人は再び森の中にいた。友の亡骸が眠る公民館にいては風花の悲しみも一層増すばかりだと健吾が判断したためである。
健吾は泣き疲れた風花を心配していた。
「黛さん・・・、大丈夫?」
「うん・・・、大分よくなった」
「そう、よかった・・・」
健吾は安心していた。
「那節君って優しいね・・・」
「えっ・・・?」健吾はドキッとした。
「そんな所を真澄も好きになったのかなぁ」
「へえ・・・、大塚さんがねぇ・・・ て、ええ!!」
風花の驚愕発言にただ驚くばかりであった。
「真澄ね、那節君のことが好きだったの」
「そ、そうだったのか・・・」
健吾は亡くなった大塚 真澄(女子4番)のことを思った。
大塚さん、元気があっていい女の子だったのに・・・・、クソ!
「本当はこんなこと、私が言うことじゃないけど・・・、真澄の思いを那節君にも知って欲しかったから・・・」
「そうか・・・」
健吾は気づいていた。この時点で自分が片思いであることに・・・
「私もね、好きな人がいるの」
あちゃ・・・やっぱその流れに行くのね・・・
健吾は駄目押しを貰うのが恐ろしかった。だが聞かないわけにもいかなかった。
「誰?」そう聞くと風花は顔を真っ赤にして答えた。
「・・・・遠山君・・」
ああ・・・、そうか。慶司か・・・
そう聞いて、健吾は納得した。間接的に失恋したにもかかわらず、心は晴れていた。
慶司は俺から見てもいい奴だし、なによりあいつの仲間に対する優しさに健吾は絶対的な信頼を寄せていた。あいつなら・・・と健吾はきっぱり身を引くことを決めたのである。
愛する人の幸せこそ、自分の幸せ・・ そう思ったからだ。
「私ね・・・、遠山君にあったら、・・・言うんだ。自分の気持ちを! それが亜希子の願いでもあったから・・・」
亡き友達を思う風花に健吾は真摯な気持ちで協力してあげたい、と思った。
「黛さん・・・、君に渡すものがある」
え? と風花が答える。健吾はなにか機械のようなものと銃を差し出した。
「これは・・・・」
「公民館の中で見つけた。『レーダー』と『モデルガン』だ。君が持つものだ・・・」
健吾はそう言い、続けた。
「レーダーにいたっては誰が持っていたかはわからなかったが、モデルガンは間違いなく美津さんが持っていたものだ」
「亜希子が・・・」
「黛さん。こんなものが遺品だなんて嫌だろうけど、6人の遺志が篭っていると思って受け取ってくれるかな?」
風花はとまどったが、しかしはっきりとした口調で言った。
「・・・うん。わかった」
「よし、それじゃこれを渡すよ」
と言って、モデルガンとレーダーを渡した。
「レーダーがあれば慶司も探しやすいだろう。俺も協力する。だから必ず慶司を見つけてやろう!」
「うん!!」
風花は再び元気が出ていた。でも健吾の発言で一つ気がかりなこともあった。
「あの・・・那節君。御手洗君は・・・?」
それを聞いて健吾は顔を曇らせた。
「あいつは・・・、おそらく公民館に一度来ている」
「え!?」
「そしてあいつなら相手の復讐を考えているだろうな・・・ おそらく合流ポイントにも来ないだろう・・・」
武士が来たという確たる証拠はなかったが、健吾はなぜかわかった。
美津さんの死体を見たときのあの安らかな顔、そして数字の「3」のメッセージ・・・ おそらく3を示す人物・・・女子3番の井口さんはもう死んでいるから、残るは・・・、鵜飼。
武士は鵜飼への復讐に走っているだろうという予感があったからだ。
しかし相手が鵜飼だということは、風花には言うつもりはなかった。それより慶司を探して会わせてやるほうがいいと思ったからだ。
「とにかく、今は慶司を探すことに専念しよう。レーダーで人を探そう。1人、もしくは武士といるかもしれないから2人の反応のところにいると思う」
そう言い、風花は頷いた。
「う、うん。わかった」
「よし、それじゃ行くか!」
「うん! ・・・ところで那節君」風花が問う。
「那節君の好きな人って・・・誰なの?」
「え!!」
これは・・・厄介だ。健吾は思った。
あなたが好きです・・・真面目にそう言って風花を余計傷つけたくない・・・ 健吾はとっさに答えた。
「え・・・えっと、特に・・いないかな・・」
「あーーー! ずるい! 自分だけ隠すなんて!」
「いや、本当なんだって・・・」
「ウソ! 素直に言ってよ〜!」そう言って迫る風花。
「さあ〜、早く慶司を探さないとな! 行こう!」と言って、ごまかそうとする健吾。
「あああ! ずるい! 待ってよ。那節君!」
風花の顔に少しだが笑顔が戻った。そのことが健吾は嬉しく思った。
こうして、新たなる決意をした二人は慶司を探すことにしたのである・・・
【残り・・・29名】