BATTLE ROYALE
死線の先の終末(DEAD END FINALE


23:幸運と不運の分かれ目

 鵜飼 守(男子3番)は果てしなく気分が優れなかった。おそらくここ5年で最悪の気分だった。
 原因は黛 風花(女子17番)を襲ったときに起きた頭痛のせいである。
 そのたび久しく忘れていた“あの言葉”がガンガンと頭に響くのである。

――総統を、国を守ってくれ・・・――

 そしてその言葉を遺した人はもうこの世にはいない。鵜飼は呟いた。
謙信・・・・」

 どうしていまさらあいつの言葉が頭に響くんだ!? ・・・あいつの妹にあったからか?
 なぜだ・・・! なぜこうまで頭痛が起きる!? ・・・何が言いたいんだ謙信
 答えてくれ、謙信!!

 その時、ピピピピピピっという音が聞こえてきた。もちろん首輪の音ではない。
 鵜飼はバックから通信機を取り出した。そして通信機をONにした。
「こちら、鵜飼だ・・・・」
鵜飼中将、ごくろうさまです!!」

 ただでさえ、頭が痛いというのにこの担当官のの声はさらに頭痛を悪化させる・・・
 必要時以外は掛けるなと言っておこうか? そう思っているとが続けた。
「いやぁ、さすがブレイド・ウルフと異名をとっただけのことはありますな! なにせ銃器3丁とレーダーを持った敵をあっという間に殲滅してしまうのですから!!」
「お世辞を言うために私に連絡をとったのか・・・?」
 かなり静かに、重みのある言葉をにぶつけた。
「い、いえ・・・ 実はさきほどの黛 風花の件でして・・・」

 なるほど・・・、あの女を見逃したことか・・・ 自分でもなぜ逃がしたのか、今思うと不思議でならなかった。
 ただあの時はあの女を遠ざけたかった。
「いや、そのですね、あなたほどの御方がまさか小娘一人を逃すなんてことは・・・ 何かあったのかと思いまして」
「別になんでもない。突然頭痛に襲われたので、隙を見て逃げられただけだ。ただ、それだけだ」
 そしてこういい切った。
「それとも何か? 君は私がわざと逃がしたのかと言うつもりかね?」
 その言葉には慌てた。
 この方の逆鱗に触れれば・・、殺される!
「い、いえ! とんでもありません! しかし、こちらとしては現在位置と武器状況は確認できるのですが、いかんせんそちらの状況はつかめないものでして・・・」

 そして鵜飼はため息をついてこう言った。
「そんなにこちらの状況が知りたければ、盗聴器でもつければいいではないか。この首輪にはそういう機能はないのか?」
「い、いえ。実は盗聴器付きの首輪はまだ試験段階らしく、実施は今年の冬になるらしいそうなので・・・」
 そう言いながらは必死に弁論を続けていた。
「・・・まぁいい。こちらとしては何の支障もない。次あったら間違いなく殺すさ・・・ それと、緊急の用がない限りそちらからは通信してくるな。プログラムにも支障をきたす恐れがあるからな!」
 本当は頻繁に掛けられては迷惑だからだったが、正当な理由をこじつけた。
「は、はい! わかりました! では通信を切ります!」
「うむ」

 ブチッと通信機がOFFになった。のでかい声で頭痛はより一層ひどくなっていった。そして鵜飼は苦しんだ。
「クッ・・!」
 あの声が聞こえてくるのだ。

――総統を、国を守ってくれ・・・ そして、――

 謙信・・・ 鵜飼は自分が唯一「友」と呼んだ男のことを思いだしていた。


 そんな苦しむ鵜飼の囲む森の中で、沢崎 義史(男子7番)は目の前にいる人物の隙を窺っていた。
 鵜飼を見張るおよそ数分前、義史は森の中で自分の武器の調整を行っていた。そう、彼もまたやる気になった人物の一人である。
 義史の武器は『ボウガン』。だが素人の義史がボウガンを使いこなすには練習が必要だ。そこでこの森林地帯の中で木を的に練習を行っていた。
 そこへ誰かが来る気配がした。すばやく隠れるとそこには、よろよろとおぼつかない足取りで歩いてくる鵜飼が見えるではないか。
 しばらく観察すると、その場で少し苦しんだ姿勢でいると、突然音がなり始め、通信機のようなものを取り出して話し出すではないか! 会話の内容までは聞き取れなかったが、義史は考えた。

 外部に連絡をとることができる・・・、そのようなことを考えていた。

 義史とて優勝して生き残りたいが、できるだけ人殺しは勘弁して欲しかった。別に人を殺したいとは思っていなかったし。義史はただ生き残りたいだけだ。
 校内でも勉強家で知られていた義史は有名私立高校の受験をする予定だった。義史の成績をもってしてもその高校の合格率は現在で五分五分。そこでこの夏は勉強づくめで冬に控えた試験に臨む必要があったのだ。
 そして高校の次は、有名大学。そのあとはキャリア官僚になり、いずれこの国の中心になっていくのが義史の「野望」であった。そういったはっきりとしたヴィジョンを持っている義史にとって、このようなところで一分一秒無駄にすることができなかった。夏休みに入った時点で戦いは始まっているのだから。

 いずれ官僚になる僕にとって、ここで死ぬことは国家の損失だ。
 だから僕は生き残らなければならない。そのためにはクラスメイトの犠牲はやむを得ないだろうな・・・

 そう割り切った。ここにも狂気に飲み込まれた生徒がいたのである。
 しかし外部に連絡がとれるとなると話は別だ。なんとか親に連絡を取り、この場所をマスコミに報道してもらい、プログラム自体を中止させるのだ。
 元々、非道性が取り出さされているこのプログラムだ、なんとかなるだろう。そんな気持ちになっていた。しかしそのためには鵜飼を何とかしなければならなかった。
 もちろん話し合いもできたが・・・、義史は考えた。

 もし鵜飼がやる気になっていたら・・・ と思い、鵜飼を見る。
 刀らしき武器を所持している。そしてあの服についている血・・・・
 とても話し合いをする気など起こらなかった。ならば方法は一つ・・・ 義史はボウガンの照準を苦しんでいる鵜飼に向けた。

 狙うは・・・頭!
 練習のおかげでだいぶ的に当たるようになっていた。そして覚悟を決めた義史はボウガンのトリガーを引いた!

 鵜飼、悪く思うなよ・・・・ これも僕という国家の宝のため・・・

 バシュ!!
 ボウガンの矢が鵜飼の頭めがけて、飛んでいく。
 ビンゴ! 死ね、鵜飼
 そう思い、義史は笑顔になった。が・・・、

 バシィ!!
 義史が目にした光景は・・・、なんと後ろにステップで下がってボウガンの矢を避けている鵜飼の姿であった。義史のボウガンの矢は鵜飼のすぐそばの木に刺さっていた。
 う、ウソだろ!? 真横からの完璧な奇襲だったのに・・・!
 呆然とする義史。だがその顔が恐怖に歪む。
 目線の先には鬼のような形相の鵜飼がこちらを睨んでいたからである。そして一気にこちらまでダッシュしてきた。
「ヒ、ヒィィィィィ!!」
 その気迫に押され、義史は必死に逃げるが、
 ザシュ!!
と右足を斬られ、そのまま転倒してしまった。

「ぐああああぁぁぁぁ!! あしぃ、足がああああぁぁ!!」
 足を斬られ苦しんでいるところに機嫌が最悪の「狼」は来た。
 そして両手で刀を振り上げる。
「た、助けてくれ!! お願い!! 助けて!!!」

 無様な命乞いをする義史に狼はこう言った。
「死ね!!! 愚か者が!!」
 ドガァ!!!!!
 そういって義史の体を頭から一刀両断、真っ二つに斬った。機嫌が悪い狼を怒らせた義史は、ただ不運としか言いようがなかった。
男子7番沢崎 義史 死亡】

 鵜飼は自分の不意を狙った愚か者を抹殺し終えると違和感に気づいた。
 頭痛が止んでいるのである。声も聞こえなくなっていた。
 そうだ・・・、こんなところで苦しんでいる場合ではなかったな。私には総統閣下から下った“任務”があるのだから・・・
 そう思うと鵜飼は自分の荷物を持ち森の奥に消えていった・・・


 そして義史殺害より数十分後・・・、一人の男が義史の2つの体に近づいていた。
 その男は特に驚いた様子もなかったが、一言。
「やるな・・・」
 そしてその周辺を探ってみる。するとデイパックとボウガンを発見した。
 その男は「ラッキー」というと、デイパックから自分に必要なものを取ると、さっさとその場をあとにした。
 その男の名は、李 小龍(男子16番)。本プログラムでも優勝候補に上げられている男である・・・

【残り・・・28名】
                           
                           


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